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幸い(さきはひ)  作者: 白木 春織
第九章
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第九章 ②

 紅、白、黄の梅が庭のあちらこちらに愛らしく咲き、梅花の香りが離れを柔らかに包む頃。


 その日、比較的体調の良かった桐秋は、千鶴と並んで、雪の降った庭を散策していた。


 千鶴は庭に咲く蜜がかかったような色の梅より、ほのかに淡い黄色の着物を着ている。


 あの口づけ未遂から桐秋は千鶴と物理的な距離をとっている。


 今までと同じように会話はするが、前のようにはふれてこなくなったのだ。


 恋人になってからというもの手袋越しとはいえ、散策するときは手をつないでいた。


 しかし今の千鶴は、桐秋の三歩後ろを歩いている。


 ふれればふれるほどに自制が効かなくなる。それが分かっているからこそ、桐秋は手すら握ろうとしない。


 千鶴もその道理はわかっている。


 が、気持ちというものは裏腹でやはり寂しい。千鶴はその距離を一歩、二歩と開け、やがて立ち止まってしまった。


 千鶴が付いて来ていないことに気づいた桐秋は立ちどまり、後ろを振り返る。


 そこに可愛い恋人のうつむき、八の字になった眉を見る。


 その様子に、桐秋はわがままを言う子どもをみるような顔、されども優しい表情で大きく息を吐き、自身の手袋をした手を千鶴の方へと差し出す。


 千鶴は差し出された手に顔がほころび、両手で桐秋の手を握る。


 久しぶりにふれる桐秋の手に千鶴の身体は心まで暖かくなるようだった。


 千鶴は手を強く握るや否や、桐秋に福寿草(ふくじゅそう)のように明るく愛らしい笑みを返す。


 雪の合間に咲き、小さくも華やかな黄色をはっきりと主調するその花は、そこにあるだけで人の心を晴れやかにする。


 この顔を見れば、桐秋は自分の負けを認めざるを得ない。


 自身も千鶴の手を握る手にきゅと力を込める。


 庭をゆっくりと一回りして、そろそろ家の中に戻ろうとした時、千鶴としっかりと繋がれていた桐秋の手がふいと離れた。


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