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幸い(さきはひ)  作者: 白木 春織
第八章
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第八章 ⑧

「私は、君がこんなに苦しんでいるのに、何もできない。


 君は、私のためにささやかな日常の中で、数えきれないくらいの思いやりに満ちた行いをしてくれるのに、私は、凍えている君に、布団の上からただ寄り添って、(かす)かな熱を与えることしかできない」


 その人は何もできない己の不甲斐なさを嘆く。


「それでも、私の心はできもしないのに、震えている君を布団の中に入って温めたい、直に肌でふれて、身に宿る熱を分け与えたいと思ってしまう。


あさましい欲だ」


 千鶴はその想いを肯定するように、布団の下から自分を覆うように抱きしめている腕をつかむ。


 それにその腕は千鶴を抱きしめる力を強くする。


 桐秋も自分と同じようにふれあうことに葛藤(かっとう)していたと知り、千鶴は桐秋と自分の想いが繋がっていることにほっとする。


 けれどもそれを訴えるのは一寸もない布の上。


 葛藤の末、たどり着いた桐秋の場所はやはりそこなのだ。


 想いは重なっているのに、ありのままふれあうことは叶わないと千鶴は改めて思い知らされる。


 桜病を患っている者に直接()れてはいけない。


 うつる可能性がないといわれている幼い子どもだって当たり前に知っていること。


 千鶴も看護婦として誰より知っていたはずなのに・・・。


 恋人になり、互いのことを知れば知るほどに、想えば想うほどにふれたくなってしまう。あますところなく相手が欲しくなってしまう。


 千鶴達にとっては今や想いさえ、甘美な毒なのだ。


 桜病は桐秋の体だけでなく、恋する二人の心さえ蝕んでいく。


 秋という実りの季節を経て、熟した二人の想いはもうどうしようも出来ない。


 自分たちは落ちる時を(いっ)した季節外れの果実。


 中身はドロドロに溶け、落ちる時を今か今かと待つ。堕ちた先に待つのは・・・。


 桐秋への想いと、ふれあえぬことへの切なさと、体温を下げるための水分と、・・・・・、千鶴はなにもかもが混ざった雫を落とす。


 熱を冷ますための水分なのに、その涙は千鶴の温度を上げていく。


 ついに千鶴はその熱に耐えきれず、気絶するように眠りに落ちた。


 この熱さで何もかも分からなくなってしまえばいい、頭の片隅でそう思いながら。


 外では、雪が静かに降り積もる。秋で恋を成熟(せいじゅく)させたつがいの想いを表すかのように、

 高く、高く、高く――――


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