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幸い(さきはひ)  作者: 白木 春織
第八章
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第八章 ⑦

 この日の夜、千鶴は珍しく熱を出した。


 千鶴が寝込むのは離れにきて初めてのこと。


 雪を食べて体を冷やしたにもかかわらず、寒い台所でしばらくの間うずくまっていたせいだろう。 


 今は女中頭に叱られ、自分の部屋で大人しく寝ていた。


 頭は熱に浮かされながらも、体は寒さを訴え、ガクガクと震えが止まらない。


 千鶴が重ねた布団の中で凍えていると、ふわりと暖かい何かが千鶴の体に突として(かぶ)さってきた。


 それは千鶴の身体をすっぽりと大きく包み、(こころ)まで抱いているかのように柔らかく抱きしめる。


 おかげで震えは治まった。


 けれど千鶴は熱のせいで、自分を覆ったものの正体が何かまでは気にならない。


 朧気(おぼろげ)な意識の中、千鶴は譫言(たわごと)のように愛しい人の名前を呼ぶ。

 

 暖かい何かはそれに答えてくれるように布越しに千鶴の頭を撫でてくれる。


 暖かい何かが何か本当は分かっている。


 分かってはいるが、千鶴は熱のせいにして何かが誰か分からないままにしようとしている。


 きっと千鶴が気づいたことが分かれば、昼間のように突然離れていってしまうから。


――あの時、千鶴はあのまま桐秋を受け入れるつもりだった。


 目を閉じたあの一瞬に、たしかに互いの想いが重なったと感じた瞬間があったから。


 けれど、次に千鶴が桐秋の顔を見たとき、彼は後悔し、傷ついた顔をしていた。


 桐秋にとって、千鶴にふれることは自分自身を傷つけること。


 桐秋がふれると千鶴は桜病になる危険がある。


 繊細で情が深い人だから、人を傷つけることで自分も傷ついてしまう。


 ふれて想いを深めたい気持ちと、ふれないことで桐秋の心を傷つけずに済むという気持ち、どちらが正しいのか、無理をして考えた結果、混乱した千鶴は熱を出した。


 そんな状況の中、千鶴を温めてくれている暖かい何かはつぶやく。千鶴に聞かせようと思ってはいない小さな独り言。


 しかし千鶴の耳は、その人の声であればどんな状態にあろうがひろってしまう。



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