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幸い(さきはひ)  作者: 白木 春織
第八章
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第八章 ④

 ガラス越しの口づけから数日、東京に雪が舞った。例年よりも遅い初雪だ。


 雪が降ったこともあって(ひど)く寒い日ではあったが、桐秋の体調は落ち着いていた。


 そのため、居間の戸を開け、火鉢(ひばち)の側で千鶴と共に庭に降り積もる雪を眺めていた。


 この日千鶴が着ていたのは、白雪の中で凛と咲く寒椿(かんつばき)のようなぱきっとした紅色の地に、透けるような白椿が大きく描かれた振袖。


 帯も椿の葉のような深緑(ふかみどり)。見事に椿三昧である。


 桐秋の研究が終わって共に過ごすことが増えてからというもの、桐秋は別荘に滞在していた時と同じように頻繁に千鶴に着物を贈るようになった。


 桐秋からは着て見せて私を楽しませてくれと言われているが、千鶴がおいそれと受け取れるような代物ではない。


 別荘で過ごす日数は限られていたから、千鶴も受け取ってはいたが、桐秋が贈る衣服は本来、千鶴には手が届かないような一級品ばかりなのだ。


 そのことに千鶴が頭を悩ませていると、女中頭からも受け取ってあげてほしいと頼まれた。


 桐秋にはお金を残しておくような家族はいない。


 自分の先を見据(みす)えたとき、千鶴にとって実のある形で、自分の与えられるものをあますところなく与えようとしているのだと。


 桐秋のことをよく知る女中頭からの言葉に、千鶴の胸には相反する思いが入り乱れる。


 桐秋からそこまで想ってもらえることへの喜びと、桐秋が万が一のことを考え、千鶴に何かを与えなければと思っていることへの寂しさ。


 それでもやはり、千鶴の中心にある桐秋には喜んでもらいたいと想う気持ちは揺るぎない。


 だからこそこうして、贈ってもらった着物を着ているのだ。


 しかしそのおかげで、千鶴にとって思わぬよい出来事もあった。


 それはもらった上等な着物を汚さぬよう前掛(まえか)けではなく、割烹着(かっぽうぎ)を着て食事を作るようになった頃。


 その姿を見た桐秋から真顔で


「良家の若妻みたいだな」


 と言われ、千鶴は恥ずかしくも嬉しい気持ちになったのだ。


 


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