表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸い(さきはひ)  作者: 白木 春織
第七章
71/131

第七章 12

 以前、千鶴は南山から桐秋の母が桜病(さくらびょう)で亡くなっていたことを聞いていた。


 けれども、桐秋本人から母親の話を聞くことは初めてだった。


 桐秋は、静かな口調で続ける。


「実の子の自分から見ても、美しく、儚い雰囲気をもった人だった。


 その佇まいに違わず、病弱で、桜病になる前もよく床に()せっていた。


 それでもいつも優しい母を私も、父も、愛していた。


 この花、薔薇の一種なんだが、母が好んでいた花なんだ。

 

 ここは秋が一段と美しくなるからと、薔薇も秋に一番美しく咲く品種を海外から取り寄せて植えていた。


 君の部屋にも描かれているだろう」


  そう問われた千鶴は、浮かんだ疑問の答えにたどり着く。


 どこかで見たことがあると思っていたが、千鶴が使わせてもらっていた部屋一杯に描かれていたのだ。


 ということは、あの部屋は・・・。


「母は、桜病になってから、この別荘に移された。


 私は、母が桜病になってから、一切会うことを許されなかった。


 当時はまだ桜病がどのような病かわからなかったし、私は嫡男(ちゃくなん)であり、たった一人の子どもだったからだ。


 母は私の他にも、子どもを身ごもっていたこともあったが、全員お腹にいるうちか、生まれてすぐに亡くなったらしい。


 母を愛していた父は、母以外と子をもうけようとはせず、母が桜病になると熱心にここに通って、看病をしていた」


 そんな生活が半年を過ぎた頃、


「ちょうど今の時期だったと思う。


 父からここに来ることが許された。


 私は、母に会えるのだと喜んだ。


 だが、許されたのは、父と共にこの庭を散策する母を、二階の窓から見つめることだけ。


 秋の薄寂(うすさび)しい情景の中、ぽつりと咲いた薔薇の香りを嗅ごうと、花に顔を近づける白い母の横顔が、今も瞼を閉じると浮かんでくる。


 それが母を見た最期の姿だった。


 感染症だったため、遺体との対面も叶わなかった。


 父は、一目、母の姿を遠目にでも見せようと私を呼んだのだろうが、私は、そこにいるのに、母にふれられないことのほうが残酷に思えて、父のことを(うら)んだ。


 そんな思い出もあったから、ここに来ることはそれ以来避けていた」


 桐秋は静かに目を伏せ、一度そこで言葉を切る。


 それからゆっくりと瞼を開くと、再び口を開く。


「しかし、君をどこかに連れ出したいと思った時、真っ先に思い出されたのがここだったんだ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ