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幸い(さきはひ)  作者: 白木 春織
第七章
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第七章 ⑩

 お茶を飲み終え、桐秋は読書、千鶴は刺繍を行う。  


 千鶴は桐秋に贈るハンカチーフに、イニシャル刺繍を入れている。


 素晴らしいものを贈ってくれる桐秋へのせめてもの恩返し。


 互いが集中しているそこに生まれるのは、色めき落ちた葉が、地面の鮮やかな絨毯に同化する音さえひろう、静謐(せいひつ)な空間。


 半年ほど前までは静寂に寄る()なさを感じていた。


 しかし今は別々のことをして黙っていても、互いの息づかいを感じるだけで、相手の存在を憶え、安らぎを享受(きょうじゅ)できる。


 また、桐秋が別荘に来てから(かも)し出すようになった雰囲気は、一段と温かで柔らかく、寒くなる季節にあって陽だまりにいるような心地よさで千鶴を包んでくれている。


 何もかもが優しいサンルーム。


 そこで(うれ)いなく、桐秋への想いを込めた刺繍を(ほどこ)していた千鶴であったが、イニシャルの周りの蔦の細かい図柄に目の疲労を感じ、顔を上げた。


 見上げた先には庭の景色が映る。


 色づいた木々は赤や黄色に高揚(こうよう)しながらも、ぽつりぽつりと時折葉を散らしている。

 

 艶やかな色をまとっていればずっと美しいままなのに、次の季節に備え、それを一つずつ落としていく。


 (わび)しさを匂わす風景に、千鶴は寂しさと、いずれ訪れる冬には逆らえぬのだという底知れぬ恐ろしさを感じた。


 逸らすように庭の手前の方に目を向けると、そこも冬が近づいているためか、花が咲いている庭木は少ない。


 しかしその中で、白とも薄紅ともいえない淡い桃色を差しながら、ひっそりと、それでもこの寒さの中で凛と美しく咲いている花に目が留まる。


――どこかで見たことがある。でもどこで。


 頭には引っかかっていても、思い出すことの出来ない千鶴は、桐秋の方に顔を向けた。


 桐秋もちょうど庭の同じ花を見ているようだった。


 桐秋は千鶴が問う前に声を上げた。


「少し、庭を散歩しないか」



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