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幸い(さきはひ)  作者: 白木 春織
第五章
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第五章 ④

 桐秋が寝室の縁側で空気浴を行っていると、廊下側の襖から千鶴の声が掛かる。


 訪問医の時間かと思い、千鶴に返事を返し、部屋に戻る。


 襖戸が開き、いつもなら先に入ってくるはずの上条の姿はなく、千鶴の後に続き入ってきた、見覚えのない青年に桐秋は眉を顰めた。


 その様子を察した千鶴は中路の紹介をする。


「こちら上条先生の代わりに診察に来られました、中路先生です。


 上条先生が腰を痛められたとのことで、治るまで代診をしてくださるそうです。


 私も昔からお世話になっている信頼のできるお医者様です」


 桐秋は自身が知らない人物が部屋に入ってきたということ、千鶴の知己(ちき)で若い医者であるということに、釈然(しゃくぜん)としない思いを抱えつつ、桐秋が安心するようにと紹介したであろう千鶴の手前、無表情に黙礼する。


 すると、中路は朗らかな笑みで朗らかな挨拶を桐秋に返す。


 桐秋とは違い愛想の良い青年のようだ。


 中路は早速、桐秋の診察を始める。


 中路は診察においても笑顔を絶やさず、穏和な雰囲気を崩さない。


 世間話を交えつつ、長閑(のど)やかに桐秋に話しかける。


 が、その間にも眼や手は上条から引き継いだ状態から変わったところはないか、鋭く桐秋の体を観察している。


 中路は言葉少なな桐秋からも的確な問診で情報を得て、次々と現状を把握していく。


 側に控えている千鶴にも、桐秋の普段の様子などを詳しく尋ねていた。


 必要な情報を患者から正しく得るには、医学的な見識はもちろんのこと、患者自身から症状を正確に引き出す技術も必要だ。


 特に後者は若ければ、患者になめられることもあり、難しい。


 けれどもこの青年は、桐秋のような難しい患者を代診とはいえ上条から任されている。


 それだけの腕をもっていることは折り紙付きだろう。


 桐秋も初めてで短い問診ではあったが、端々にそれを感じ取ることが出来た。


 桐秋が言葉を返さない時でも、様々に問いかけてみて、少しでも反応があればそこから話を広げていく。


 桐秋自身でも気づいていなかったような身体の変化を、そういえばと気づかされることが多々あった。


 これだけの技量は、彼本来の性格に起因することも大きいだろうが、多くの患者と関わらないと身につかない。


 変わらない年には見えるが、たくさんの経験を積み、学んでいるのだと分かる。


 桐秋は研究を中心として医療に関わり、中路は内科医として日々多くの患者と接している。


 性格も医者としての()り方も全然違う。


 それでも桐秋は、医師として自分の誇る仕事を全うできている中路に、それを見せつけられている現状に、(うらや)み、(ねた)む心がふつふつと湧くのを止めることができなかった。

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