表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸い(さきはひ)  作者: 白木 春織
第三章
18/131

第三章 ④

 廊下を直進し、玄関横の自室に戻る。


 奥の襖を開け、畳んでしまってある布団に顔を押し付けて、声が出ないように泣く。


 上段にしまってある布団は、千鶴が立って顔を埋めるにはちょうどいい高さで、行儀が悪いことはわかっていたが、千鶴はしばらく布団に突っ伏し泣いていた。 


 やっとのことで涙が止まり、顔を上げて鏡台を除くと、目の周りは真っ赤に腫れていた。


 千鶴は手ぬぐいを持ち、台所の裏手にある井戸に向かう。


 井戸に設置された手押しポンプを勢いよく押し、バケツに水を溜める。


 千鶴は溜まった冷たい水を両手ですくうと、息を深く吸い、それを顔めがけて思いっきりぶつけた。


 着物が濡れるのもかまわない。何度も何度もぶつける。


 洗うのではない、ぶつけるのだ。 


 千鶴にとって、気持ちの切り替えの儀式。


 ひとしきりそれをすると手ぬぐいにしばらく顔を押し付ける。


 一切の負の感情をここに置いていく。

 

 うじうじするのは終わり。


 顔を上げたら前しか見ない。


 今から自分がしなければならないことだけを考えるのだ。


――千鶴は勢いよく顔を上げる。その瞳は強く光る。何かを決めたまなざしだ。


 そしてその決心を実現させるため、千鶴は離れとは反対方向にある建物へと歩を進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ