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幸い(さきはひ)  作者: 白木 春織
第十章
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第十章 ⑤

――桜に妻を連れていかれた。


「なぜ、その折、その言葉が急に思い出されたのかわかりません。


 北川から話を聞かされた際は、奥方が桜の季節に亡くなったと聞いていたので、そのようなことを言ったのだろうと気にも留めませんでした。


 しかし、妻が死んだ病」


 あの頃、まだ桜病(さくらびょう)とも名付けられていなかった得体の知れない感染症。


 体中に桜の花びらのように斑点が現れ、桜が散る頃にあっさりと西野の妻の命を奪っていった病気。


「北川が言っていた言葉と妻を死に至らしめた病が、結びつくような気がしました。


 一度そのことが気に掛かると、いてもたってもいられず、私は北川の家を尋ねました。


 家に着いて声を掛けても人は出てこず、そろりと引き戸に手を掛けると北川の家の玄関は開いていました」


 中へ入り、再度人を呼んだが反応はなかった。


「なんとなく(かまち)を上がり、室内を進むと、廊下で強烈な鉄臭(てつくさ)い匂いが私の鼻を襲いました。


 ・・・その家の居間だったと思います。


 そこには、血を吐いて倒れた北川の姿と、そんな父を必死に揺り起こそうとしている幼い少女の姿がありました。


 ・・・北川はすでに死んでいました」


 西野が告げた凄惨(せいさん)な現場の様子に、南山は絶句する。


「そして私はその家で知りました。


 教授の奥様と私の妻が(むしば)まれた『桜病(さくらびょう)』は北川が作った病原菌により引き起こされたものであるということ。


 北川は私たちが奪った馬で、自身の妻の『桜病(さくらびょう)』を救うための抗毒素血清を作ろうとしていたのだということを」


 西野から吐かれた同じ音の言葉であるが、違う意味で使われたと思われる言葉に、南山はその言葉の正しい意味を理解出来ない。


――同じ名をもつ病。


――南山が知っている病は北川によって作られた。


――ではそれ以前に、北川の妻が患っていた病とは一体。


その言葉は疑問となり、発せられる。



「桜病とはいったい何なのだ」



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