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食事を終えて、急いで名札を取りに戻った志乃が居間へと戻って来ると、皆が集まって最初に座った円形に並べられた、番号のある椅子に座っていた。
藍が、志乃が戻ったのを見て手を振った。
「志乃さん!こっちこっち!」
志乃は、頷いて皆の視線に晒されながらそちらへ急いだ。
無事に藍の隣りに収まると、久司が言った。
「じゃ、お互い初対面の人も多いから、自己紹介しようか。番号順でいいな?じゃ、相良から。」
相良は、それこそ億劫そうに口を開いた。
「私は1の相良。歳は33。久司とは仕事仲間で共に参加した。よろしく頼む。」
相変わらず口数が少ない。
皆が思わずよろしくと頭を下げるほど、年齢不詳の圧力があった。
だが33歳なのだ。
若そうなのに妙な威厳のある人だった。
相良がそれ以上何も言わないので、隣りの女性が言った。
「2の睦美です。会社員です。経理やってます。歳は23歳です。よろしくお願いします。」
若い。
志乃は思った。
可愛らしい見た目で、確かに藍と通じる感じがある。
歳が近いからなのだ。
その隣りの、女性が言った。
「3の美久です。歳は30で会社員です。この中ではもしかしてかなり上のほうかな?よろしくお願いします。」
短い黒髪のキリッとした感じの女性だ。
志乃の好きなタイプの女性だった。
可愛がってくれた上司に似ているのだ。
その隣りの、男性が言った。
「オレは4将也だ。歳は33だから相良さんと同じだな。税理士の試験でやっと課目が足りたから税理士だと言えるよ。個人事務所で先生の補佐で働いてる。」
税理士さんかあ。
志乃は、思って見ていた。
働きながら取ったなんてすごい。
志乃は自分も何か資格試験の勉強でもしようかなあとそれを聞いて考えていた。
隣りの男性が言った。
「オレは5の隼人、30。11の涼次と一緒に来た。でも、オレは弁護士目指して勉強中だ。涼次は弁護士だけどね。」
卵なんだ。
志乃がウンウン頷いていると、隣りの藍が言った。
「オレは6番、藍だよ。歳は22歳。大学生だよ。よろしくね。」
あれ、学部は言わないんだ。
志乃が思っていると、拓三が言った。
「なんだよー医学部だろ?そこは言わないと。」
だよね。
志乃も思って見ていると、藍は顔をしかめた。
「だからオレ、医学部行ってるだけで医者じゃないからね。なんでみんなそんなに学部にこだわるのさ。」
志乃は、それを聞いてハッとした。
もしかしたら、藍は医学部というだけで、寄って来る人が多いからなのかも知れない。
面倒で、わざと言わなかったのだ。
そこで、藍はハッと志乃を見て、付け足した。
「忘れてた。隣りの志乃さんと、20の正俊と一緒に来たの。オレが誘って。ネットで知り合ってね、長く友達だったから、会える機会だなあって無理を言って来てもらったんだー。」
皆の視線が自分に注がれたのを感じて、志乃は慌てて頷いた。
「あ、はい。藍くんに誘ってもらいました。6の志乃です。歳は27です。今は会社を辞めて次をどうしようか考えているところで。皆さんのお話を聞いていると、私も何か勉強しようかなあと思い始めています。」
隣りの、綺麗なお姉さんという感じの女性が微笑んだ。
「いいわね。協力するわよ?私は8番、美沙子です。歳は34だから今のところ一番歳上かな。私は会計士と弁護士の二つの資格を持っています。大学で取ったの。でも、今は資格取得試験のための講座を運営しているの。講師を雇っていて、ネット受講もできるので、興味のある資格があれば相談してくれたら。一応、既存の講座は会計士、税理士、それからTOEICが主です。」
この人、めちゃくちゃ頭がいい人なんだ。
志乃は、驚いた。
「会社経営してるってことか?」
美沙子の隣りの京太が言う。
美沙子は、苦笑した。
「まあそうなんだけど。そう言うとみんな退くから…小さな会社なのよ?」
いやいやあなた凄いですって。
志乃は思ったが、他の人達も同じなようだ。
会計士と弁護士を大学で…院まで行っていたとしても6年で取るのだから、かなりの才媛だ。
しかも美沙子は、長い髪で軽くウェーブがかかっていて、顔立ちも美しい。
綺麗で頭も良くて会社を経営してるなんて。
志乃は、居る所には居るんだなあと感心していた。
しかし、京太はバツが悪そうな顔をした。
「なんか美沙子さんの次だと言いにくいけど、オレは9、京太だ。歳は30。普通の会社員だよ。ごめんな、平凡で。」
美沙子は、困ったような顔をしている。
恐らく、同じように思われて距離を置かれる事が多いのだろうと思われた。
すると、その隣りの久司が言った。
「別にいいんじゃね?そっちのお嬢さんがめちゃくちゃ頭が良いのは分かったけど、今は一緒にゲームする仲間だもんなー。オレはとんでもなく頭の良い連中と仕事するのに慣れてるし、もうそんなもんだと思ってるけどな。」美沙子が驚いたような顔をする。久司は笑って続けた。「オレは10久司、35歳だ。相良も言ってたが同じ職場だ。嫌がったがオレが引っ張って来たんだ。よろしくな。」
嫌がってたの?!
志乃は、それはそれで驚いた。
だが今の話の流れだと、相良がとんでもなく頭の良い人だったとしてもおかしくはない。
京太もそう思ったのか、言った。
「ということは、職場のとんでもなく頭が良いのは、相良さんか?」
相良が、面倒そうにチラと京太を見た。
久司は、言った。
「めんどくさがるからオレから言わないけど、そのうち分かるんじゃないか。」
睦美が、隣りなので相良を見て、言った。
「ご職業は何か聞いてもよろしいですか?」
相良は、スッと片眉を上げて睦美を見たが、答えた。
「それがゲームに何の関係があるのか分からないが、私は医師。研究医だ。君達が思うような臨床医ではない。」
確かに職業はゲームに関係ないかもしれないけどさあ。
皆の心の声が、聴こえて来るようだった。
久司が、頷いた。
「良いじゃねぇか、医者だろうが弁護士だろうが経営者だろうが、ここじゃみんな一緒。確かに頭が良いと有利かもしれねぇけど、これは時の運とか弁が立つとかそっちの方が重要だったりするしな。一人で誰かを吊れるわけでもなし。みんなで投票するんだ。だから職業とか、気にしなくていいんじゃないか。」
久司の言う通りだ。
久司は、ここまでで一番年上のせいか、落ち着いていて皆の面倒を見てくれるお兄さん的存在に見えた。
人当たりも良くて、志乃もホッとするタイプの人だ。
だが、黙っていると目が鋭いので、そこそこ怖いようにも見えなくはなかった。
隣りの、涼次が言った。
「じゃあ、いいか。オレは11、涼次。隼人とは同じ職場で一緒に来たし同い年の30歳だ。よろしく。」
あの、弁護士の人だ。
志乃は、思った。
だが、自分の職業を言わないような流れになってしまったので、敢えて言わなかったらしい。
とはいえ、もうみんな知っていた。
隣りの、拓三が言った。
「オレは12、拓三だ。歳は27。志乃さんと同い年だな。よろしく。」
拓三は会社員だとさっきキッチンで言っていた。
志乃が思いながら隣りを見ると、それは冬也だった。
一瞬顔が強張ったが、いけない、と真顔にしてじっと冬也を見た。
冬也は、言った。
「オレは13番、冬也。歳は29歳。隣りの鈴音と一緒に参加した。よろしく。」
鈴音が、言った。
「14番鈴音です。歳は25歳です。よろしくお願いします。」
二人共、籍は入れていないが結婚式を上げたとさっきは言っていなかったか。
志乃は思ったが、二人はそれ以上何も言わなかった。
意味が分からなかったが、それが志乃にマウントを取りたかっただけの発言だと考えたら、少しむっとした。
とはいえ、そんな事を考えると卑屈になるので、志乃は気にしない事にした。
だが、拓三が遠慮なく言った。
「あれ。結婚したとか言ってなかったか?」
二人が、顔を上げる。
鈴音が、言った。
「まだ籍を入れていないし。入れてたら言うんですけど。」
冬也も、頷く。
「まだ夫婦じゃないしな。」
どういうこと?
志乃は、二人の様子を訝し気に見た。
だが、その表情からは何を考えているのか分からなかった。
その隣りの、女性が口を開いた。
「では、次は私ね。」
志乃は、え、とその顔を見て驚いた。
その女性は、サラサラでCMでしか見たことが無いほど美しい黒髪に、透き通るような肌の優しそうな印象の人だったのだ。
これまで気が付かなかったのが不思議なくらいだったが、顔立ちは物凄く美しいわけでもないのに、あまりにも肌と髪が綺麗過ぎて、現実離れして美しく見えるのだ。
だが、本人はとても落ち着いた空気を纏っていて、それで騒がしい回りに隠れて気付かなかったとしたらそうだった。
皆がそうだったのか、え、という顔をしたが、女性は構わず続けた。
「私は、16番の寧々といいます。歳は35ですので、久司さんと同じです。私は皆様のように働いているわけでもなく、夫のお蔭でこうして皆様と遊ぶことができておりますの。いろいろ教えて頂けたら嬉しいです。人狼は好きなゲームの一つですので、一緒に楽しみましょう。」
35歳かあ。
志乃は、思って見ていた。
もっと若いと言われたらそうだし、それ以上だと言われたらそう見える、不思議な印象の女性だった。
他とあまりにも雰囲気が違うほど品が良いので、夫のお蔭と言っているのもあるし、きっと旦那様が大企業の重役とか、そんな感じなのではないかと志乃は推測した。
その隣りの、男性が言った。
「オレは16、充希です。歳は32歳。よろしくお願いします。」
寧々の後なので、言い方が丁寧になっている。
その隣りの、男性が言った。
「僕は17、健太。29歳です。隣りの篤史と一緒に来ました。よろしくお願いします。」
健太は、とても線の細い綺麗な感じの男性だった。
隣りの男性が微笑んで頷いた。
「18の篤史。今、健太が言った通り一緒に来た。歳は30歳。よろしく。」
こちらは男っぽい感じで頼りがいがありそうな様子だ。
その隣りの、女性が言った。
「私は19のあゆみです。23歳です。一人で参加しました。仲良くなって彼氏とか探せるかなって軽い気持ちでしたけど、ゲームは頑張ります。よろしくお願いします。」
隣りの、正俊が言った。
「ようやくオレだ。20番、正俊です。歳は28。さっき言ってたように、藍と志乃さんとネットで知り合って今回初めて会ったんだ。」
あゆみが、隣りから言った。
「なんか最初見た時からいい感じって思ってたんですよねえ。恋人とか居ます?彼女さん?彼氏さん?」
正俊が、慌てて首を振った。
「いや、オレ別に探しに来たわけじゃないし。彼女は居ないけどね。」
すると、反対側の隣りの篤史が、驚いたようにあゆみを見た。
「え、君ってそういうの、気にしないタイプ?聞き方に驚いた。」
あゆみが、逆に驚いたような顔をした。
「え?みんなそう聞きますけど。」
志乃も驚いたが、もしかしたら今は差別教育とかハッキリしてて、LGBTとかへの理解が進んでいるのかもしれない。
たった数年の生まれ歳の違いでこうなるのだ。
「マジか。」と、隣りの健太を見た。「じゃあ隠す必要ないかな。オレの彼氏は健太だ。」
え?!と皆が驚いた顔をする。
健太が、恥ずかしそうにした。
「ええっと、はい。そうです。僕の彼氏は篤史です。」
そうなのかあ。
そう言われると、特に違和感はない。
別に変にべったりとかないし、普通に仲が良い感じで回りに不快感を与えるバカップルではないからだ。
久司が、言った。
「そうか。だったら気を付けて見てないとなー。お前らが別陣営だったら、庇い合いそうで怖いし。ゲームだからな、どっちかが敵だったらしっかり味方陣営のために考えてくれよ。」
相良が、フッとため息をついて、言った。
「…自己紹介は終わったか?」皆が、和んだ空気がピリッとするのを感じた。相良は続けた。「じゃあ、共有者に出てもらって、話し合いを始めないか。もう一時間近く自己紹介に使っているぞ。夜には誰かに投票しなければならないし、進めて行こう。」
出た、進行だ…!
志乃は、一気に緊張した顔をした。
ここで、藍が出てくれなかったら志乃の出ろということだから、自分が出なければならない。
どうしよう…。
だが、藍を見てしまって共有の相方が露見するのも困る。
じっと下を向いていると、藍が言った。
「はい。」と、手を挙げる。「オレが共有者。相方には潜伏してもらうつもり。オレが進行するよ。」
良かった…。
志乃がホッとして藍を見上げると、藍は志乃の方は見ないで暖炉の方へと歩いて行った。




