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あれだけ急いだのに、階段を降りると玄関ホールにはもう、アーロンと相良、藍、久司は立って待っていた。

正俊はまだのようだったが、三階の奥の部屋なのだから時間が掛かるだろう。

志乃が、急いで降りて行くと、アーロンが言った。

「ああ、お急ぎにならなくてもよろしいですよ。」と、書類を差し出した。「ところで、突然に参加になられたとかで。こちらが、事前の契約事項になります。ご確認の上、サインをお願い致します。」

ああ、書類があるんだ。

志乃は、それを受け取って、内容を見た。

滞在中は運営の指示に従うこと、ゲームには必ず参加することなど、必要事項が書かれてある。

その下に、女性のかたに、妊娠の可能性、または妊娠していますか?の項目がある。

もし妊娠していたり、その可能性があったら参加できないらしい。

だが、志乃はあいにくそんなことがあるはずがなかった。

なので、ない、に丸を付けて、サインをしてアーロンに返した。

アーロンは、それをサッと確認してから、微笑んで頷いた。

「では、正俊様も降りて来られたようですので、居間へとご案内致しましょう。こちらです。」

見ると、正俊が急いで降りて来るのが見えた。

そのまま、五人はアーロンに案内されて、入り口から階段を向いて左側にある、廊下を進んで行った。


正面に、大きな扉があった。

…あの向こうに、あいつが。

志乃がゴクリと唾を飲み込むと、藍が小さな声で言った。

「そういえば、その男の名前って何ていうの?」

志乃は、言ってなかった、と慌てて返した。

冬也(とうや)。奥さんは鈴音(すずね)さんよ。」

藍は、頷く。

扉が、パッと開かれた。


そこは、それは広い部屋で、正面に暖炉まであった。

その上には不釣り合いな大きなモニターが吊り下がっていはいたが、それでもここは夢に見た洋館といった感じの場所だ。

窓は大きくてあのイングリッシュガーデンが見渡せる。

今はライトアップされてそれは綺麗だった。

五人が入って行くまでは、何かを話していたようだった先着組だったが、扉が開いたのを感じ取ると、皆が一斉にこちらを向いた。

…居た。

志乃は、その中に確かに冬也が居るのを見て取った。

あちらは、志乃を見て目を見開いている。

こちらも、今気付いたふりをして、わざと驚いたように目を見開いた。

アーロンが、それに気付かないように言った。

「お待たせいたしました。二便のお客様が揃いましたので、ご案内致します。どうぞ、そちらの丸く設置されてある、椅子の方へとご着席ください。背に、番号がありますので、その順番にお願い致します。」

全員が、言われた通りにぞろぞろと椅子へと向かった。

藍が、微笑んで志乃を見た。

「志乃さん。こっちだよ、オレの横みたい。」

志乃は、藍に微笑み返して頷いた。

「ええ。」

そうして、こちらを凝視している冬也を無視して、7の番号がある場所へと座った。

冬也と鈴音の視線が追いかけて来ている気がする。

それでも、何も言っては来なかった。

アーロンは、言った。

「では、栞を配らせて頂きます。それから、名簿が…」と、脇の暖炉の上にある、紙束を見て、頷いた。「はい、できておりますね。お配りします。順に回してください。」

相良から順番に、栞の冊子が回って来る。

藍からその束を渡された志乃は、一冊取って隣りへと回した。

「ありがとう。」

隣りの女性は、とても綺麗な年上っぽい人だった。

そうして、隣りへ隣りへとまた名簿の紙も回って来て、そこにはきちんと、志乃の名前も明記されており、そして冬也と鈴音の名前も、13、14と並んで書いてあるのが見えた。

きっと、急いで作り直してくれたのだろう。

努めて冬也と鈴音の方は見ないようにしていたが、どうも二人の視線を感じる。

一度、チラと見た時には、二人共がこちらを見ていて、鈴音の方もサッと下を向いた。

…?

志乃は、いぶかしんだ。

鈴音は何も知らないので、こんなところで行き会ったら、普通に声を掛けて来そうなところだった。

やはり新婚旅行に会社の元同僚が居たら、嫌なのだろうか。

志乃が、そんな事を考えていると、アーロンが言った。

「皆様には、これより人狼ゲームをして頂くことになります。リアルな時間軸でやるゲームで、時間は決まっておりまして、その説明は後程担当の者からさせていただくことにして、まずは館内のご案内を致します。」と、居間の扉を入って右側の壁の、扉を示した。「あの扉の向こうは、キッチンになります。あちらには多くの業務用冷蔵庫があり、食材も豊富です。全て無料でご飲食頂けますので、お好きなだけお召し上がりください。もちろん、調理をして頂いても結構です。無くなり次第補充致しますので、気兼ねなく使って頂いて結構です。それから、三階以上には入れなくなっております。皆様がご自由に使えるのは一階の居間、キッチン、二階三階の居室のみとなります。中庭も、ご利用いただけます。」

皆が黙って聞いている中、アーロンは続けた。

「中庭には露天風呂がありますが、現在閉鎖中ですのでご利用はできません。お湯を抜いてありますので入られる事は無いかと思いますが、念のため申し上げておきます。」

露天風呂まであるのかあ。

志乃は、入れないと聞いて少し、残念だった。

冬也と鈴音の事は気になるが、こうして自分が居るだけで冬也も何やら落ち着かないようだ。

それだけでも、何やら胸がすく思いだったので、できたら自分も楽しみたいと思い始めていた。

アーロンは、言った。

「では、運営の担当からのご説明です。」パッと、真っ暗だったモニターの画面が点灯した。アーロンは、言った。「私はこれで。ゲームのご説明をお聞きください。」

え、これでって?

志乃は思ったが、アーロンはサッサと居間を出て行く。

また後で来るのかなと思っていると、画面から機械的な音声が流れて来た。

『本日は、人狼カード発売企画、リゾートでリアル人狼をしよう!にご参加いただきまして、ありがとうございます。では、まずは皆様の行動時間のご説明から始めたいと思います。栞をご覧ください。』

志乃は、栞の一ページ目を開いた。

そこには、時間と一日の流れが書かれてあった。

…え、全部決められてるんだ。

志乃は、驚いた。

声は、続けた。

『まず、朝6時に、お部屋の鍵が開きます。そこから自由時間となり、夜8時にこちらの場所へと集まって投票していただきます。午後10時には、お部屋が自動的に施錠されますので、必ず各自のお部屋へと戻って頂きますよう、よろしくお願い致します。午後10時から11時までは村役職の役職行使時間となり、午前0時から午前4時までの間、人狼陣営のかたの役職行使のお時間となります。人狼陣営の方々のみ、このお時間の間部屋の外へと出ることが可能となっておりますが、午前4時にはまた施錠されますので、必ずお部屋へお戻りになるようにお願い致します。』

徹底してるんだ…。

志乃は、思った。

だが、こんなにハッキリと決められていたら、新婚旅行に来た二人はどうするんだろう。

志乃は思ったが、ただ黙って説明を聞いていた。

『次に、ゲームについてです。次のページをご覧ください。』皆が、次のページを開く。『事前にお伝えしております通り、こちらではリアル人狼をして頂きます。役職は、村人5人、人狼4人、狂信者1人、占い師2人、霊媒師2人、狩人1人、共有者2人、猫又1人、狐2人の20人のレギュレーションになります。初日占いお告げあり、狩人の連続ガード有り。初日のお告げが狐に当たることはありません。村が役職を騙ることは禁止しておりません。各役職のご説明は、栞を参考にしてください。狼は、必ず襲撃しなければなりません。仲間を襲撃することはできません。ルール違反の場合、追放となります。』

追放になったら、どうなるんだろう。

志乃は、じっと栞を見ながら思った。

声は、容赦なく続けた。

『お時間の所でご説明しましたが、毎日、夜8時になりましたら、案内に従って必ず誰かに投票してください。投票しない場合、しなかった人もルール違反で追放となります。投票は、皆様の左腕に装着して頂いている腕時計からして頂きます。カバーを開いてください。』

志乃は、カバーって?と思いながら隣りの藍を見る。

すると、藍は微笑みながらパカと志乃にそれを開いて見せた。

ああ、そうやるんだ。

志乃が、手前の下から指で上へと上げると、カバーがパカと音を立てて開いた。

中には、液晶画面と、小さなテンキーが並んでいた。

『その、テンキーで投票したい人の番号を入力し、最後に0を三回入力してください。それで、投票となります。また、役職行使の際も、占い師のかたは占いたい人の番号を入力して0を三回押して頂くと、結果が液晶画面に表示されます。また、霊媒師の方も前日処刑されたかたの結果が、こちらに10時から11時までの間表示されます。狩人のかたも、こちらに守りたい人の番号を入力して0を三回入力してください。人狼のかたも、生き残っている人狼の誰か一人の腕時計から、襲撃したい人の番号を入力して、0を三回入力してください。この腕時計は完全防水となっておりますので、ゲームの間は取り外しができなくなっております。予めご了承ください。』

取れないんだ。

志乃は、試しに振ってみたが、ビクともしないほどぴったりとくっついていた。

声は、皆が理解したかどうかも確かめることなく、先へと続けた。

『では、役職の配布を致します。液晶画面にこれから表示されますので、人狼、狐、共有者のかたは仲間の番号の表示も見逃さないようにしてください。表示時間は、一分です。』

全員が、慌てて自分の液晶画面を手で覆った。

志乃も、遅れながら必死に液晶画面を覆って隠す。

そこには、『あなたは共有者です。仲間は6です。』と書かれてあった。

え…私共有者…?!

しかも、6番は隣りに居る藍だ。

藍だけは、これからも信用できるということだった。

…でも、見たら回りにバレるかもしれない。

志乃は、思って必死に踏ん張って藍の方を見ないようにした。

そうして、パッと液晶からそれが消えたのを見てホッと肩の力を抜くと、皆が同じように顔を上げたのが分かった。

『役職確認が終わりました。』声が言った。『では、只今、午後11時05分です。本日はお時間が過ぎておりますので、この後すぐにお部屋へと戻って頂き、人狼の襲撃がありませんので占い師のかたの腕時計の液晶画面に初日のお告げ先を送信致します。飲み物などはお部屋の冷蔵庫にございますのでそちらをご利用ください。必ず、ご自分の番号のお部屋へお帰りください。他の部屋へと戻った場合、追放となります。その他ルール違反は全て追放となりますので、お部屋で各自必ずご確認ください。最後に、この度はゲームカード発売企画のリアル人狼ゲームにご参加いただきまして、誠にありがとうございます。皆様に最高のスリルを味わっていただけますよう、運営一同努めてまいりますので、どうぞよろしくお願い致します。』

「え、ちょっと…」

誰かが、質問をしたそうな声を出した。

だが、ブツッという音がして、モニターはまた、唐突に真っ暗になったのだった。

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