26
志乃は、キッチンでコーヒーを入れて寧々の部屋を訪ねた。
しかし、そこには相良と久司が居て、寧々は今、眠っているらしい。
どうやら、薬で眠らせているようだった。
「どこか病気というのではないが、本人も言っていたように疲れが出ているのだ。少し休めば楽になると思う。」と、相良は、手にあるカップを見た。「飲み物を持って来てくれたのか?」
志乃は、頷いた。
「はい。落ち着くかと思って。」
相良は、その黒い水面を見つめて言った。
「…ならば、それは君が。どちらにしろ、彼女はブラックコーヒーは飲まないからな。」
志乃は、え、と目を丸くした。
「一応、お砂糖とミルクも持って来ましたけど。」
相良は、苦笑して首を振った。
「一個ずつでは足りないのだ。砂糖もミルクもガンガン入れる方でね。」と、扉を引いた。「ではな。気遣いには感謝している。」
相良は、扉を閉じた。
…どうしてそんなに寧々さんに詳しいんだろう。
志乃はまた疑念の芽が伸びて来るのを感じたが、頭を振ってそれを振り払い、そうして仕方なくそのコーヒーを持って、自分の部屋へと帰って行ったのだった。
それから、結局6時までは志乃も部屋で休んでいた。
ちょっと休むつもりが、結局眠ってしまったのだ。
正俊が誘いに来てくれて、夕飯を食べに下へと降りたが、寧々や相良、久司の姿は見なかった。
7時半になって、やっと志乃は三人の姿を見ることができた。
寧々は、幾分顔色が良くなっていて、体も楽になっているように見える。
相良は、集まった皆に向かって、言った。
「では、投票前の議論をしよう。投票対象は美久さんと志乃さんの二人。明日からの占い先、及び吊り先に影響するので心して入れて欲しい。投票前に、二人とそれを擁護する他の人の意見があれば聞く。自由に発言してくれ。」
誰も、話さない。
志乃は、黙っているのもだったので、言った。
「私の意見はお昼に話したことが全てです。後はムラに任せます。」
美久は、黙っている。
相良は、美久を見た。
「美久さんは?」
美久は、恨めしげに相良を見た。
「…あなたは私を最初から疑っていたじゃないの。今さら何を言っても私を吊るつもりでしょう?」
相良は、首を振った。
「決めるのは私ではない。私一人で君を吊ることなどできない。村人の票に任せるつもりだ。ただ、私は君に入れるがね。」
美久は、またむっつりと黙る。
志乃目線では追い詰められた狼なので、もうあきらめたようにも見えた。
しばらく沈黙していた後、相良はふと、言った。
「…私は猫又だ。」皆が、何を分かりきったことを、と驚いて相良を見ると、相良は続けた。「だが、追い詰められた狼が、噛めないはずの私を噛んで来る可能性がある。それは、私が間違っていない時だ。私にはその可能性が見えるので、狩人の護衛は広く考えていると言っておく。つまり、私自身も護衛対象として考えているということだ。」
皆が、黙って聞いている。
相良は続けた。
「私の中では、恐らく久司と充希が真だと思っている。なので、そのつもりで進行していく。今の二人のグレーの中で、怪しんでいるのは隼人、全く話さない将也、冬也、そして色が見えているような薄い理由で志乃さんを吊り推していた健太。そして終わらなければ霊媒師の中に一人だ。仮に今夜私が噛まれて一人を道連れにしたとして13人、吊り縄は6。私が言った人達を脳死で吊りきっても縄は余るだろう。その間に充希と久司の占い結果も出る。もし私が死んだら、私が間違っていなかったということなので、粛々と今名前を上げたもの達を、占いつつも吊り上げて行ってくれ。藍のように手遅れにならない間に、言っておく。」
拓三が、困惑した顔で言った。
「…人狼が自分を犠牲にしても君を噛んで来ると?」
相良は、頷いた。
「ふと、今の空気にそれを感じてね。恐らく私は間違っていない。投票結果でも見えて来るはず。ま、ここまで言えば切って来るだろうがね。一GJで縄も増えるし、占い師、霊媒師、猫又の中で誰を噛むのか、そして誰を守るのか、勝負のしどころだな。」
確かに志乃目線では相良は間違っていないように見える。
何しろ、自分が真共有者なのだ。
早くからそれを気取って進めてくれていた。
そんな相良が、確定村人として村を導いていると、確かに狼には勝ち筋はないように見えた。
ならば、残りの人狼に望みをかけて、一人が犠牲になって相良を道連れにしようと考えてもおかしくはなかった。
「…なんと言おうと、あなたは間違ってる。」美久は、絞り出すように言った。「逆にそれを逆手に取って、あなたが怪しいと言う所が白でも噛んで来るかもしれないわよ?」
相良は、首を振った。
「それはない。人狼にとって一人の命を懸けるほど、切羽詰まった様になるのは私が正しい時だけだ。安全な位置に居るのに、わざわざ仲摩を減らしたりはしない。何しろ、本当に死ぬのだからね。」
美久は、また黙る。
モニターが、パッと点灯した。
『投票、10分前です。』
皆が、一気に緊張してモニターを見上げた。
1相良→3(美久)
3美久→7(志乃)
4将也→3(美久)
5隼人→7(志乃)
7志乃→3(美久)
9京太→3(美久)
10久司→3(美久)
11涼次→3(美久)
12拓三→3(美久)
13冬也→3(美久)
15寧々→3(美久)
16充希→3(美久)
17健太→3(美久)
18篤史→3(美久)
19あゆみ→3(美久)
20正俊→3(美久)
投票が、終わった。
志乃に入れているのは、美久の他には隼人だけだった。
『No.3は追放されます。』
美久は、ギュッと目を瞑った。
「後はお願い!」
そう言った瞬間、スッと美久の体は弛緩して、ぽかんと口を開けたまま、天井を仰いだ状態で動かなくなった。
『No.3は追放されました。夜時間に備えてください。』
皆、もう慣れてしまって声も上げなかった。
だが、隼人が立ち上がった。
「…運ぶよ。誰か手伝ってくれないか。」
正俊が、頷く。
「じゃあオレが。占い師は占い先を指定されるだろ?」
隼人は、美久の腕を掴みながら、言った。
「君は間違ってる!オレはなんと言われようと美久さんが真だったと思う。オレは村人だからな。」
相良は、頷いた。
「だろうな。君は村人だ。」隼人が驚いた顔をして固まる。相良は続けた。「投票先を見ろ。君以外は全員美久さんに入れている。怪しまれたくないから、切るのが狼の行動だ。それでも投票できるのは、間違っているのに気付いていない村人だけだ。まあ、君からしたら狼も真の美久さんに入れたからだと見えるだろうが、明日分かる。私は美久さんが狼なのだと信じているのだ。」
隼人は、顔をしかめたが、それ以上何も言わずに正俊と共に美久を運んで出て行った。
久司が、言った。
「で?今夜はどこを占えばいい。」
相良は、久司を見た。
「早く終わらせよう。君は、冬也か健太。充希は将也か篤史で頼む。」
二人は、頷いた。
「じゃあそれで。狩人にはまた指定するのか?」
相良は、苦笑した。
「いいや。私の考えは狩人には話してある。今夜話したのと同じことをな。それを踏まえて、狩人本人に決めてもらおう。狩人の能力は、狩人本人のものだからな。」
狩人はプレッシャーだろうな。
志乃は、それを聞いて思った。
だが、これで狼は一人居なくなった。
昨日の睦美と、志乃目線ではもう2人外、もしも美沙子が狐だったなら三人外処理できているのが見える。
志乃は希望を持って、部屋へと帰って明日霊媒師達が自分の真を証明してくれる、と楽しみに眠りについたのだった。




