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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界恋愛・短編

幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた・短編

作者: まほりろ

腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。


私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。 


私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。


私は妹にはめられたのだ。


牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に仕えていた執事見習いのレイだった。





「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」





そう言って、レイはほほ笑んだ。


レイは私に仕えていた四年前より、ずっと背丈が伸び体格がよくなっていた。


でも金色のさらさらした髪も、サファイアのように輝く瞳も昔のままだ。 


侯爵家を出てから成功したのか、レイは上等そうな紫色のジュストコールを身にまとっている。


対して今の私の姿はどうだろう?


結い上げた銀髪は、兵士に連行されるときにほつれ。


卒業パーティに出席するために王宮から贈られてきたルビーレッドのドレスは、取り押さえられたときに飲み物をかけられ汚れてしまった。


レイに再会するならもっとまともな場所で、まともな格好をしているときが良かったわ。


「レイ、私はもうお嬢様じゃないの。

 第一王子に婚約破棄されたとき、ロイエンタール侯爵家の令嬢という身分も剥奪されたわ」 


「それは良かった」


レイがサファイアの瞳を細め、くすりと笑う。


「もう!

 私が人生最大の屈辱を味わい投獄されているというのに、何で笑っているのよ!」


「すみませんお嬢様。 

 この場で笑うのは不謹慎ですね。

 でも僕は嬉しいんです」


「どういう意味?」


「お嬢様がやっと第一王子の婚約者という立場と、ロイエンタール侯爵家の長女というしがらみから開放されたからです」


そう言って朗らかに笑ったレイは、とても嬉しそうだった。


「ホルン王国の第一王子とロイエンタール侯爵家が、お嬢様のことをいらないというなら、僕がお嬢様をいただきます」


「えっ?」


レイが決め顔でかっこつけて言ったので、思わずときめいてしまった! 


美形の決め顔の破壊力半端ない!


「お嬢様、とりあえずここから出ましょう」


「でも鍵がないわ」


牢屋の鍵はワルデマー殿下が持っている。


「ワルデマー殿下が兵士に連行されていく私に向かって、

『牢屋には強力な結界が張られている。物理攻撃も魔法攻撃も効かない。鍵がなければ絶対に牢屋から出られない。そして鍵は肌身離さず俺が持っている!』

 と楽しそうに語っていたわ」


「大丈夫ですよ、お嬢様。

 人間の張った結界ぐらい、僕の眷属(けんぞく)なら簡単に壊せますから」


「えっ?」


「お嬢様。

 ちょっと鉄格子の近くまで来てくださいますか?」


「分かったわ」


壁際に蹲っていた私は、立ち上がりレイに言われた通りに鉄格子の側まで行く。


鉄格子の前まで来たことで、鉄格子の向こう側に立っていたレイとの距離が縮まる。


近くで見るとレイの美形さがよりはっきりと分かる。


整った眉、長い睫毛、形の良い鼻と唇……神様に愛されて造形された顔って、レイのような顔のことを言うのね。


「お嬢様。

 昔からお美しかったですが、しばらく見ない間に一段とお美しくなられましたね」


レイが私の目を見てニコリと笑う。


「もうやめてよ、こんなときに……!」


レイは私の前でハニカムの禁止!  


私の心臓がドキドキしすぎておかしくなってしまうわ!


…………それに、こんなボロボロの格好をしている私が綺麗に見えるわけがない。


「準備ができたよドラッへ。

 壁を攻撃してくれ。

 但し中にいるお嬢様を攻撃したらただでは済まさないからな。

 壊すのは壁だけだ、分かったな?」


レイはポケットから魔石を取り出して、誰かと通信していた。


ドラッへって誰?


というか、通信用の魔石なんて貴重なものをなんでレイが持ってるの?


ホルン国の王族だって、通信用の魔石は二つしか持ってないのに。


そんな貴重な物をレイは、どこで手に入れたのだろう?


「ぐおおおおおおおおおおお…………!!」


そんなことを考えていると、床や壁が揺れるほどの大きな唸り声が聞こえた。


何? 今の声……?


まるでドラゴンの咆哮みたい……?


ドッゴーーーーン!


と何かが砕ける音がして、私は咄嗟に目を閉じる。


目を開けると壁に大きな穴が開いていた。


塔の外に目を向けると、漆黒の翼と鱗を持つ五本指のドラゴンが………!


「なっ、えっ?

 ……ど、どどどドラゴンがどうしてここに……?」


私は恐怖と驚きのあまり、その場にへたりこんでしまった。


ドラゴンが鋭い爪を振るうと真空波が起き、次の瞬間には牢屋の鉄格子がスッパリと切られていた。


「ありがとうドラッへ。

 これでお嬢様と僕を隔てる障害が完全になくなったよ」


レイは顔色一つ変えずにそう言うと、切られて役目を果たさなくなった鉄格子をまたいだ。


「すみませんお嬢様。

 怖い思いをさせてしまいましたね」


レイが私の前に跪き、そっと私の右手を取る。


「外にいるドラゴンさんはレイの知り合いなの?」


「僕の眷属のブラックドラゴンのドラッヘです」


「へっ?」


間抜けな声を出してしまった。


「ドラゴンが眷属って、レイあなた一体……?」


「話は後でいたしましょう。

 騒ぎを聞きつけて人が集まって来ると面倒です」


レイが私の腕を引っ張り立たせてくれた。


「お嬢様を傷つけようとする輩が目の前に現れたら、殺してしまいそうだから……」


そうボソリとつぶやいたレイの目は、氷のように冷たかった。


「さぁ、お嬢様、一、二の三でドラゴンの背に飛び移りますよ」


「えっ?」


ここは確か十階建ての塔の最上階……。


遠くの山に太陽が沈んで行くのが見える。


塔の下に目を向けると、塔の周りに人が集まっていた。


塔の下にいる人が豆粒ほどの大きさに見える……。


私は足がすくみ、二、三歩後退してしまう。


ドラゴンは私たちがいる場所の一メートル下で待機していた。


ドラゴンの背が広いとはいえ、飛び移るのに失敗したら、地上まで真っ逆さまだ。


「行きますよ、お嬢様!」


レイが私の肩に手を回す。


「ちょっ、ちょっと待ってレイ……!こっ、心の準備が……」


「怖いですか?」


「こっ、怖くなんてないわよ!

 ただちょっと心の準備が必要なだけで……」


「仕方ありませんね、ではこうしましょう」


「ひゃあ……!」


レイにお姫様抱っこされてしまった。


レイが侯爵家に仕えていた頃は、ひょろひょろの体型で私より背も低かった。


それがたった数年会わない間に見違えるほどたくましくなって、こうも簡単に抱き上げられてしまうとは……。


レイの成長が嬉しいような、ちょっとだけ悔しいような。


「では、今度こそ行きますよ。 

 一、二の……」


「ちょっ……だめっ!

 やっぱり怖い!」


「……三!」


レイは私の制止を無視して、ドラゴンの背に飛び移った。


「きゃああああああああっ!!」


私の絶叫が響いたのは言うまでもない。





「レイのバカバカ!『三』って言う前に飛んでたでしょう!」


ここはドラゴンの背の上。


ブラックドラゴンのドラッへさんは、どこだかよく分からない広い森の上を飛行している。


いつの間にかすっかり日は落ち、空には満天の星が広がっている。


「すみません。

 せっかちな性分でして……」


レイが「テヘッ」と言って舌を出す。


美形のテヘペロの威力半端ない!


仕方ない! 許す!


「ところでドラッへさんはどこに向かっているの?」


「シュテルンベルク帝国です」


「えっ?」


シュテルンベルク帝国って、あのシュテルンベルク帝国??


大陸で一番の領土を誇っていて、科学、数学、天文学、魔法、剣術、乗馬、財力、軍事力、どれを取っても他国の追随を許さない、あのシュテルンベルク帝国??


「なんでシュテルンベルク帝国に行くの?

 あの国は出入国に厳しいのよ。

 侯爵令嬢だったころならともかく、今の私は第一王子に婚約破棄され、貴族の身分を剥奪され、牢屋から脱獄して、逃亡中の身。

 シュテルンベルク帝国に入ろうとしても、検問に引っかかってしまうわ。

 それよりもドラゴンなんかに乗ってシュテルンベルク帝国の領土内に侵入したら、魔法や弓で攻撃され、撃ち落とされてしまうんじゃ……?」


「大丈夫ですよお嬢様。

 皇族の許可は取ってありますから」


「はっ?

 皇族の許可を取っている?

 皇族の許可なんて、そんなに簡単には下りないはずよ」

 

「それが簡単に降りてしまうんです。

 何を隠そう僕はシュテルンベルク帝国の皇族ですから」


「はぁぁぁぁぁぁああああ?!」


今日イチ大きな声が出た。


「どういうことなのレイ! 

 説明して!」


「お嬢様、お顔が怖いですよ。

 美人が台無しです」


思わずレイに詰め寄ってしまった。


レイは苦笑いを浮かべ困った顔をしている。


「実はですね……」


レイは十二歳のとき、冒険者になると言って家を出ていった。


レイはロイエンタール侯爵家の住み込みの使用人の息子だった。


レイの父親は庭師のラルドおじさん、母親はメイドのカーラおばさん。


二人ともとても気さくで良い人たちだった。


ラルドおじさんとカーラおばさんは、侯爵夫人だった母と仲が良かった。


そのせいか、私とレイは幼いときから兄弟のように育ち、何をするのも一緒だった。


だからレイが冒険者になると言って、屋敷から出て行ってしまったときはショックだった。


冒険者になるために家を出たレイは、メキメキと頭角を現し、四年でAランク冒険者になったそうだ。


ある日、レイは冒険者ギルドからの依頼を受けて、シュテルンベルク帝国にモンスター退治に行った。


依頼自体は簡単なもので、すぐに達成できたらしい。


帰りに帝都に寄ったとき、レイの前に一台の豪華な馬車が止まり、貴婦人が降りてきて、

「レイナード! 生きていたのね!!」

と言ってレイを抱きしめたそうな。


「その貴婦人が僕の生き別れの母親で、皇帝の側室だったんですよ。

 実母は十六年前、皇后一派との勢力争いに巻き込まれ、赤ん坊だった僕は皇后派に誘拐された。

 ちなみに実母が僕が生き別れの息子だと気づいたのは、皇帝の若い頃の顔に、僕がそっくりだったからです。

 実母との再会後、僕は宮廷で魔力鑑定を受け皇帝の実の息子だと判明しました。

 何年も前に皇后一派は一掃され、今は政権が安定しているので、僕がお嬢様を連れてシュテルンベルク帝国に行っても問題ありません」


「じゃあ、ラルドとカーラは……」


「僕の本当の親ではありません。

 何らかの理由で誘拐犯が死んだか、誘拐犯が僕を手放した。

 義父母は赤ん坊の僕を拾い、実の子として育ててくれたのです」


「ラルドとカーラに会えたの?

 あの二人は三年前に……」


「知ってます。

 先代の奥様が亡くなったときに解雇されたんですよね?

 大丈夫ですよ、育ての親のことは必ず探し出して保護しますから」


「ごめんなさい。

 二人を守ってあげられなくて。

 あの二人が解雇されたのは私のせいなの。

 ラルドとカーラは、継母と腹違いの妹から私をかばってそれで……」


母が亡くなってすぐ、父は愛人と結婚した。


父と愛人の間には、私の一つ下の妹がいた。


私に味方する使用人は次々と解雇され、その中にはラルドとカーラもいた。


「お嬢様のせいではありませんよ。

 お嬢様も先代の奥様が亡くなられてから、辛い思いをされたのですよね。

 僕の方こそすみません。

 お嬢様が一番辛いときに側にいてあげられなくて」


「冒険者として世界中を飛び回っていたんでしょう?

 ロイエンタール侯爵家の事情に気づけなくても仕方ないわ」


「情けない話ですよね。

 お嬢様のお側にいたくて、そのためには爵位が必要で、Sランク冒険者になれば爵位が手に入ると聞いて、家を飛び出して冒険者になって、それからはがむしゃらにランクを上げることに固執した……。

 その間に大恩ある先代の奥様が亡くなり、義父母が侯爵家を解雇され、お嬢様が継母と腹違いの妹にいじめられ、婚約者に酷い仕打ちをされていたことに気づきもしなかったなんて……」


「自分を責めないでレイ」


レイは皇族なのよね。


レイなんて呼び方は失礼に当たるわ。


「これからは、レイのことレイナード殿下とお呼びするわ。

 敬語も使う」


「今まで通り『レイ』とお呼び下さい。

 敬語なんていりませんよ、お嬢様」


「……でも」


「その代わり、僕もメリセントお嬢様のことを【メリー】とお呼びしてよよろしいでしょうか?」


「……えっ? 

 それは別に構わないけど」


愛称なんて亡くなったお母様にしか呼ばれたことないから、戸惑ってしまう。


「愛してます、メリー。

 子供の頃からずっとあなたのことだけを思ってきました」


レイからの突然の告白に、私の顔に熱が集まる。


「婚約破棄されたばかりのあなたに、こんなことを言うのは卑怯かもしれません。

 でもあなたの傷が癒え、そのとき他の男があなたの隣にいるのは嫌なのです。

 僕と結婚してください、メリー」


「へっ……?!」


今日イチ間抜けな声が出たと思う。


幼い頃のレイはひ弱で泣き虫だった。


だけど誰よりも優しくて、お父様やお母様に叱られたときは、いつも私のそばにいて慰めてくれた。


「私もレイの事が好き。

 子供の頃からずっと……」


「良かった、振られたらどうしようかと内心ドキドキしてました」

 

「でも……私、もう貴族じゃないの。

 ホルン王国の第一王子に婚約破棄された傷物だし、

 侯爵令嬢の身分は剥奪されたし、

 ホルン王国の人は私が妹を虐げた悪女だと信じているわ。

 シュテルンベルク帝国の皇子のレイとは釣り合わない……」


レイの未来を邪魔したくない。


レイはやっと本当のお父さんのお母さんに会えて、幸せに暮らしているのに。


「そんなこと些細なことです。

 シュテルンベルク帝国の力があれば、ホルン王国の王子風情が『黒』と言ったことを、『白』に変えることなど造作もないことです。

 シュテルンベルク帝国にはそれだけの力がありますから」


そう言ってレイが笑う、その笑顔はとても黒かった。


「身分のことも心配いりません。

 現侯爵夫人とその娘の不正を暴き、裁きを受けさせます。

 ロイエンタール侯爵家から出ていくことになるのは、彼らの方です」


「そんなことができるの?」


「できます。

 シュテルンベルク帝国の力を持ってすれば、出来ないことはありません!

 だからメリー、僕を受け入れて下さい」


「私もレイの事が大好き!

 誰にも渡したくないよ!」


「ありがとうメリー!

 その言葉が聞きたかった!」


レイにぎゅっと抱きしめられた。


レイに顎くいされ、レイの唇が私の唇に触れた。


レイに後頭部を押さえられ、角度を変えて何度もキスされた。


「もう……レイったら、がっつきすぎ。

 私、キスしたの今日が初めてだったのに……」


「すみません、嬉しくてつい」


心臓が今でもドキドキしてる。


「もうキスするならするって言ってよ!

 髪はボサボサだし、ドレスは泥だらけだし。

 ファーストキスはもっときれいな格好しているときに、お花畑が見える綺麗な湖にボートを浮かべて、ロマンチックなムードでしたかったのに……」

 

「星空の下で、ドラゴンの背に乗って空中散歩というシチュエーションもなかなかロマンチックだと思いますよ」


「そうだけど、服と髪型が……」


「ならメリーのドレスを脱がせば……」


バシン……!


レイの頬をひっぱたいていた。


「変……態!」


自身の胸の前で手を当て、あとずさる。


「メリー、あんまり後退すると落ちますよ」


ドラゴンの背の上だと言うことを忘れていた。


バランスを崩し落ちそうになった私を、レイが抱き寄せる。


レイから距離を取るはずが、逆にレイに近づく結果に終わってしまった。


「誰のせいよ……」


眉根を寄せ、レイを睨む。


「すねた顔のメリーも可愛いです」


レイが私の髪にキスをした。


「もうからかわないで……レイ!」


「すみません。

 ですが先程メリーのドレスを脱がしたいと言ったのは、いやらしい意味じゃないんです」


「ならどういう意味で言ったの?」


「メリーが今身につけているその真っ赤ドレスは、もしかしてホルン王国の第一王子の瞳の色ですか?」


ワルデマー殿下は赤い髪と赤い瞳をしていた。


パーティの度に王宮から届くドレスは真紅色で、私はいつも赤いドレスを身にまとっていた。


銀色の髪に紫の瞳の私には、真っ赤なドレスはあまり似合わない。


嫌いな男の瞳の色のドレスを着て、パーティに参加するのはなかなかの苦行だった。


ふわふわしたピンクの髪の妹のマダリンなら、赤いドレスも似合っただろう。


そういえば私が断罪されたパーティでも、妹は真紅のドレスを纏っていたわね。


ワルデマー殿下は私の物よというアピールだったのかしら?


それとも「赤いドレスはお姉様より私の方が似合うのよ」と言いたかったのかしら?


もう関係ないし、どうでもいいけど。


「そうよ。

 私が今身につけているドレスはワルデマー殿下の瞳の色よ。

 ワルデマー殿下の瞳の色のドレスを身につけるなんて嫌だけど、王宮から贈られてきた物だから着るしかなかったの」


ワルデマー殿下からではなく、王妃様の名前で贈られてきたんだけどね。


王家からの贈り物を拒否することはできない。


だから仕方なく、真っ赤なドレスを纏ってパーティに参加したのだ。


嫌いな男の瞳の色だろうが、似合わなかろうが、私に拒否権はなかった。


「好きな人が他の男の瞳の色のドレスを纏っているのを見せられるのは苦痛です。

 だから僕はメリーのドレスを脱がしたいと言ったのです。

 決していかがわしい意味ではなく、他の服に着替えてほしいという意味で……」


「叩いてごめん、勘違いしてた」


私もレイが他の女の子の瞳の色の服を着ていたら嫌だ。


「分かって貰えればいいんです。

 その代わりこれからメリーには、僕の瞳の色と髪の色のドレスしか着せませんから覚悟していて下さい」


レイの瞳の色はブルー、髪の色は金。


一生、青か金(もしくは黄色)のドレスかぁ……それも悪くないかも。


「いいわよ。

 その代わり、レイも私の瞳と髪の色の服しか着ないで」


私の髪の色は銀、瞳の色は紫、どちらの色もレイなら上手に着こなせそう。


「もちろんです。メリー」


レイはそう言って破顔した。


「もしかしてレイが今着ている服も?」


レイが身にまとっているのは藤色のジュストコールだ。


「僕は旅に出てからずっと、メリーの瞳の色の服しか着ていません」


嬉しいけど、なんか恥ずかしいな。


「おかげで【紫のレイ】という二つ名が付きました」


二つ名がつくほど有名だったの?


「やっぱりお互いの髪と瞳の色の服だけ着るのはやめにしようか?」


傍から見たらただのバカップルだ。


「だめですよメリー!

 一度約束したことを反故(ほご)にするなんて!

 いけないことです!」


レイが悲しそうな顔で私を見る。


「分かったわよ。

 約束したもんね。

 これからはずっとお互いの髪と瞳の色の服だけを着て過ごそう」


「はい。メリー」


レイが喜んでくれるなら周りからバカップル扱いされてもいいかな。




それから隣国に着くまでの間、レイと昔の思い出話をした。


「ところでずっと気になっていたんだけど、このドラゴンさんはどうしたの?

 レイの眷属なの?」


「シュテルンベルク帝国の皇子と証明された日に、皇帝陛下(父親)に『今まで誕生日に贈り物が出来なかったわびだ』と言われプレゼントされました」


五本指のドラゴンをポーンと誕生日プレゼントとして息子に与えるなんて、シュテルンベルク帝国の皇帝は凄いな。


「じゃあ、通信用の魔石も皇帝陛下から?」


「それは実母からプレゼントされました。 赤子を誘拐されたトラウマから、二時間おきに僕と連絡を取らないと不安になるようで」


過保護系の母親か……。


「シュテルンベルク帝国に着いたら、いっぱいメリーを甘やかして溺愛します。

 それから義父母の捜索をして保護します。

 ホルン王国の王子をメタメタにして、メリーの名誉を回復させます」


「忙しくなりそうね」


私もラルドおじさんと、カーラおばさんに会いたい。


「安心してくださいメリー。

 ホルン王国の第一王子と、ロイエンタール侯爵夫妻とその娘をボッコボコにして、再起不能にまるまで叩き潰してやりますから」


そう言ってほほ笑んだレイは、真っ黒なオーラを纏っていた。


私は「ほどほどにね」とだけ伝えておいた。












一年後、父と継母と妹が私を虐待していたことが白日の下にさらされた。


ワルデマー殿下は、国王陛下夫妻が留守の時に勝手に貴族令嬢を断罪した罪に問われ、廃嫡された。 


父と継母は侯爵と侯爵夫人の身分を剥奪され、マダリンも含め三人とも平民になった。


ドラゴンさんが壊した塔は再建され、平民になったワルデマー元殿下と父と継母とマダリンが収容されたという。


私は無実が証明され、ホルン王国からがっぽり慰謝料を頂いて、ロイエンタール侯爵家の家督を継いで女侯爵になった。


レイこと、シュテルンベルク帝国の第一皇子レイナード・シュテルンベルクと婚約中。


ロイエンタール侯爵家の領地視察は家令に任せ、私はシュテルンベルク帝国に住んでいる。


通信用の魔石を使い、シュテルンベルク帝国からリモートで仕事をしてる。


レイの実母とはレイの取り合いになって時々バトっているけど、そんな日常もなかなか楽しい。


レイは一年かけて、ホルン王国の片田舎にある港町で、漁師をしていたラルドおじさんとカーラおばさんを発見した。


二人とも苦労をしたせいか、四年の間にとても老け込んでいたが元気だった。


レイはラルドおじさんとカーラおばさんをシュテルンベルク帝国に連れていき、宮殿の近くに住まわせた。


ラルドおじさんとカーラおばさんの家で、レイとラルドおじさんとカーラおばさんと私の四人で、お母様の思い出話をするときが一番楽しいのは、レイの実のお母さんには内緒。




――終わり――

読んで下さりありがとうございます。

少しでも面白いと思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。執筆の励みになります。


本作と似たような内容ですが、こちらの作品をよろしくお願いします。

【短編】「お迎えに上がりました、お嬢様」 https://ncode.syosetu.com/n7662ho/ #narou #narouN7662HO

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[一言] 九頭竜坂先生、 こんにちは。おはようございます。 先日は 「彼女を愛することはない〜王太子に婚約破棄された私の嫁ぎ先は 呪われた王兄殿下が暮らす北の森でした」 の件のメッセージにご返信いた…
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