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第97話 TOFU

 さて。


 この物語を締める語り部として、果たして私が適当かといえば、決して誰も認めないはずだ。


 かといって他に適任者がいるかと言えば、怪しい。あまりにユウジに親しい存在に任せると、贔屓目が入ってしまうし、関係ない第三者がやるくらいがちょうどいいのだ。


 チート能力MINTを操る異世界転生者、ユウジは、長い旅の末、ついに魔王を引退させて、世界に平和をもたらした。


 内情を聞くと正確には逆で、世界に平和をもたらしたから、魔王が引退したのだけど、ささいなことはこの際いい。


 彼を追う物語は、ここで一旦終了である。


 ハッピーエンドで終わったのだ。なんならここで読むのをやめてもらってもいい。


 ここから始まるのは、綺麗に整備された草原を、泥のついた靴で踏みつぶす無粋な物語だ。


 ただ、踏めば踏むほど強くなる雑草もある。


 ミントがそれに該当するのかは、私は植物博士ではないので知らないのだけど。




 魔王城が頂上に所在するグルーベ山。その1合下の、9合目の温泉街で、私はここ数年お世話になっている。


 まだ空に日も登らないうちから、私は布団から起き出す。


「うーん、今日も一日がんばるぞい」


 鏡を見ながら髪を整えて、作務衣を着たところで私のいちにちはスタートする。


 作業場に行くと、私の店で住み込みで働いている男性スタッフがすでにセカセカと働いていた。


「おはよう、はやいね」


「あっおはようございます!今日はシズ旅館さんに団体が来るらしくて、大量発注がかかってるんです。カナエさんお願いします!」


「あいよー一丁やりますか」


 私は空の桶を、両手で持って念じた。


 TOFU、発動。


 目を開けると、先程までなにも入ってなかった桶のなかに水が張っており、一丁の豆腐が浮かんでいた。


 形を崩さないように、スタッフが用意してくれた配送用のケースに、豆腐を移動する。


「さて何個だっけ」


「とりあえず52個お願いします。数は自分が数えますんで」


「あいよー」


 私は桶のなかに、次々と豆腐を出現させた。あっという間に注文分の生産が終わる。


「では届けてきますんで!」


 男性スタッフは、豆腐が詰まったケースを運び、滑車に乗せて、注文先に出向いて行った。


 これでほぼ、私のいちにちの労働は終わったようなものである。


 あとは、業者以外の一般客に、気ままに豆腐を売り歩きながら、暇を潰すとしよう。


 その前に、割烹着を着て、住み込みスタッフの分も含めて朝ご飯をつくる。


 ごはん、焼き魚、漬物、豆腐の味噌汁。朝からたっぷりなメニューである。


 私は自分の分をペロリと食べて、帰ってきたスタッフと入れ替わりで、朝のお散歩及び街への売り歩きに出向く。


 

 私の名前はカナエ。


 読者の皆様は、記憶に残っているだろうか。88話にてモブのように登場した、異世界転生の先輩である。


 自虐的な自己紹介になってしまったが、今の私は、この世界の一員として、本当にモブのような生活をしている。


 世界を救うことも、魔王を倒すことも、他の大きな野望を抱くこともなく。


 無双することも、大金持ちになることも、貴族や領主になりあがることもなく。


 戦いから降りた私は、気ままなスローライフを送っているのだ。


 魔王城の城下町で、気ままに暮らすのも悪くない。元々いた世界では、忙しさに追われていた。だから、気楽ないまの生活は気に入ってる。


 下駄をカツカツと鳴らしながら、石畳を歩いていると、道の向こうからわちゃわちゃと賑やかな一向がやってきた。


 こんな朝早くに団体客とは珍しい。朝風呂目当ての登山客だろうか。


「……んっ?」


 その中のひとりに、つい昨日会ったばかりの相手を見つける。


「ユウジくん」


「あっカナエさんおはようございます。ほらランパ、豆腐アイスくれたひとだよ」


 彼らは大所帯で、魔王城から帰ってきた。


 ユウジくんと、その仲間のスバルさん、ランパちゃん、鈴音さん。


 そして背後に竜に乗ったソドムさん、ゴーレムに乗ったベコさん。


 転生者のヒイロさん、そのパートナーのピースちゃん。


 魔王の側近ドルチェとガーナ、魔王四天王オウズ。


 そして、部屋から篭りっきりで出てこないはずの……魔王セガ。


 私はその光景を見て、すべてを察する。


「そっか、終わったんだ。すごいねユウジくん」


「みなさんのおかげでした」


 温泉宿の団体客とは、彼らだったらしい。


 私は、ユウジくんから事のあらましを聞いた。全てが解決したことを知り、嬉しくなったが、同時にユウジくんが気がかりだった。


「なるほどね、女神様が……。それで、これから君はどうするの?」


 お節介かもしれないが、私は心配していた。目的を失った転生者は、生きる意味を見つけるのに苦労している例を聞く。


 ユウジくんは、あまり他の目的もなく生きているように感じた。


 ミントの能力は凶悪である。もし暇に明かして、人類に反旗を翻したら目も当てられない。


 すると、ユウジくんはこう語った。


「実は、夢思いついたんです」


「夢?」


「僕、国を作ろうかと思いまして」





 大いなる蛇足。余談も余談の物語にしばしお付き合いください。

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