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第96話 MINT

「……………」


 ユウジの案を聞いた女神は、しばらく黙りこくっていた。


 静かな佇まいは、まるで芸術品のよう。


 ユウジは、自分がいま神と対峙しているのだと、改めて自覚した。


 女神はゆっくりと口を開く。神の裁定が下される。


「素直に認めましょう。それは実にいい考えですよね」


 ユウジは胸を撫で下ろす。女神は続ける。


「たしかに、自然に則っていると言えましょう。他の神々と議論する必要もありますが……」


「じゃ、そっからは女神ちゃんの仕事ってことだねっ頑張れー」


 肩の荷が降りたセガは、テーブルにつっぷした。放り投げるようなその態度に、女神はめくじらを立てる。


「むっなんですかその態度は。こちらの苦労も知らずに」


「知らないよーだ。だっていままで教えてくれようともしなかったじゃん」


 こてんと頭を転がし、セガは不満そうに顔を向ける。女神もむっとした表情となる。


「私は神々のルールに従って行動してるまでです。あなたの前に現れて、こちらの意思を直接伝えるのはルール違反でしたので」


「はいはいはい。だから転生者をどんどん送ってきたのね。毎度、あいつらの相手をする身にもなってよ。集中して穴に魔術をかけてる時に、盲目的に襲い掛かってくるやつの説得するの大変なんだよ」


「それこそ知りませんよ。世界の裂け目をいち早く発見したあなたの自己責任です。抱えきれないならさっさと放りだせばいいじゃないですか。救世主気取りする方が悪いのです」


「こっちはいいことしてるつもりだったんだよ?それをさー余計なお世話ってわけー?もう嫌になっちゃうよ。はーあ。あの穴の仕組みに気づいてからは、使命感に囚われた生き方してきちゃったよもう。

穴に魔術をかけ続けて。他の勢力にそれを邪魔されないように、魔物たちをまとめ上げて魔王軍を組織して。

いつのまにか魔王なんて呼ばれるようになっちゃって。

このー私の青春かえせー」


 ジタバタ暴れるセガ。女神はため息をついた。


「魔王になるならなるで、魔物をちゃんとまとめ上げてください。あなたの部下が各地でどれだけ迷惑をかけてたと思うんです」


「クラーケンやブリザードみたく、荒くれものに仕切らせてたのはごめんって。でもそんなやつじゃないと他の魔物たちへの抑止力にならないから」


 まるで長年の友人のように言い合うふたりだった。


 ユウジはその光景を見て、詩的な感情をおぼえる。


 魔王と女神にとってお互いは、転生者を通した文通相手のようなものだったのだ。


 何百年もの間、やりとりを続けていた文通相手に、ようやく会い、因縁にかたをつける。なんとも壮大で、どこかロマンチックな話だった。


「いわば僕はラブレターってことですか……」


 ユウジはポツリと独り言を漏らす。自分の立場をそう表現してみた。


「は?」


「なにそれ」


 ガールズトークの最中に、空気の読めないポエムを放り込んでしまい、ユウジはふたりに変な目でみられた。


 魔王セガは溜まっていた鬱憤を全部女神にぶつけ終わったのか、うーんと伸びをしきった。そして、緩んだ顔でユウジに話しかける。


「それにしても、これで魔王の役目は終わりかーいやーユウジくんに魔王ちゃん倒されちゃったよ。おめでとう勇者くんってとこかな。さーてこれから私は旅にでも出ようかなぁ」


 清々しい気分の魔王は、ゆったりと目を閉じた。


 すると、雲の上のどこかから、鋭くも妖艶な声が飛んできた。


「あっ♡夢の中で寝ない方がいいですよ♡魔王様!」


 セガの背後で、雲がモコモコっと盛り上がった。


 現れたのは、小さな背中とくねった尻尾を生やした小悪魔サキュバス。


 ソドムによって、ロスチュから連れてこられた魔王四天王、オウズだった。


 ユウジの提案した、この夢の中のお茶会を実現させたのは彼女の能力によるものであった。


 ユウジの夢の中に魔王を招き、女神が現れるのを待つ。それによってお茶会をセッティングしたのだ。


「おっありがとねオウズちゃん」


「いーえ〜♡」


 パタパタと翼を動かして、セガに近づくオウズ。ただし、目は女神から話さず、敵として警戒していた。


 女神はその釣れない態度に、ため息をついた。


「隠れていたのはわかっていましたよ四天王オウズ。大方、交渉が決裂した時は、あなたの催眠術で、私を夢の中に閉じ込めるつもりだったんでしょう」


「うっバレてた……♡」


 ぎくっとするオウズ。図星だった。翼をたたんで、セガの背中に隠れる。


「まったく油断も好きもない」


 口ではまだ文句を言いながらも、女神は晴れやかな顔をしていた。


 最後にユウジに挨拶をする。


「それでは私は他の神々を納得させてきます。あとはよろしくお願いしますね」


 そう言って、女神は全身を光の球に変えて、夢のなかから消えていった。


「はい、任せてください女神様」


 女神の去った席のティーカップは、空になっていた。



 ユウジは回想する。


 世界の仕組みを語った時、女神は悲しそうな顔をしていた。


 ほんとうのところ、送り出した転生者に魔王を倒させ、人間を滅ぼさなければいけない自分の役目が嫌になっていたのではないか。


 ユウジは女神の内心をそう推し量って、この話し合いの場を提案したのだ。


 じっくり話せばこちら側に傾いてくれると踏んで。


「……さて、じゃあ最後のひと仕事と行くか」


 オウズに頼んで、ユウジは雲上のお茶会を後にした




 目が覚めたユウジは、さっそく魔王の部屋に連れていってもらう。


「はい、がんばってー」


 パンパンと手を叩くセガ。


 魔王の側近ドルチェとガーナが、歯を食いしばりながら、重い扉を押し込む。


「はやく通ってください〜」


「この役目もそろそろ卒業したいです〜」


 ユウジはふたりに礼を言って、中に入った。


 そして、部屋の中央、魔王の玉座に座る身代わりゴーレムをどかす。


「ご苦労様。ベコちゃんたちがせっかく作ってくれたのにお早い引退だったね」


 件の穴は、玉座の中腹あたりの空間に、ぽっかりと空いていた。


 20センチくらいの穴は、覗き込むと繋がった向こうの世界がうかがえる。だが、向こうの世界はどうやらいまは夜なようで、様子は伺えなかった。


 魔王は尋ねる。


「いまなら、ユウジくん向こうの世界にノーリスクで帰れちゃうけどどうする?」


「え?いやーいいですよあちらの世界にはもう未練ありませんし」


 ユウジは考えもしなかったことを聞かれて、すぐに否定した。セガはあまりにさっぱりとした回答に、ほんとかなぁと首を傾げた。


「では、行きます」


 ユウジは、玉座の上に浮かぶ穴に向かって、ミントを大量発生させた。


 お茶会にて、ユウジが思いついた解決策は、以下のようなものであった。


『いまやミントたちは、意思をもち始めました。僕が命令を下すと、それを遂行するために、自律して繁殖行動を起こすようになったんです』


『……それで?』


『はい、世界のどこかに裂け目が発生したら、ミントにそこで繁殖するように、と命令するんです。時空の裂け目があればそこで繁殖する、ミントをそういう性質の植物にしてしまうんですよ」


『はぁ……。……!そういうことですか!」


 訝しんでいた女神は、すぐに意図を理解した。



 穴は、植物を吸い込まない。



 つまり穴の前に大量のミント置けば。



 ミントが天然の蓋となって、穴が生物を吸い込もうとするのを、阻害するのである。



 魔王城の穴は、ユウジが直接ミントを発生させて塞げばいいし。



 数百年後、世界のどこかにまた穴が発生しても、ユウジの命令を引き継いだミントが、そこまで辿り着き、自分で繁殖して、穴を塞いでくれる。


 これは、自然現象に対する、自然の対抗である。


 神も文句をつけようがない。


「……まあ、最初は僕がミントに命令を下してるっていうことを、神様たちが無視してくれればいいんだけど」


 そこの不安要素は、女神の説得に任せることとした。


 魔王の部屋が、あっという間にミントで埋め尽くされていく。


 穴は、緑の蓋でふさがり、もう見えなくなった。


「……………」


 何百年も閉じこもっていた部屋が、緑一色に模様替えされていくのを、セガは感傷的に見ていた。その手をユウジは引く。


「さっ外の世界に出ましょうか。『元・魔王様』」


 気の利いたその一言に、セガは思わず吹き出した。


「このカッコつけ〜。あとでみんなに言っちゃおっと」


「うわっやめてください」


 子供のようにケタケタ笑いながら、セガはユウジとともに部屋を後にした。


 セガは生涯、二度とこの部屋に立ち入ることはなかったという。



 こうして、ミントの能力によって。


 ユウジは、魔王をその座から引き摺り下ろしたのであった。







 【異世界ミント無双】


 〜ミントテロで魔王倒します〜

 

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