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第95話 ミントのお茶会

 女神は、ユウジに出されたミントティーに口をつける。


 独特な風味だが、どこか安らぎの感じるひと口だった。


 目の前に座る仇敵を前に、落ち着きを取り戻した女神は、咳払いをする。


「コホン。さて、はじめまして魔王セガ。あなたのことは874年前から監視対象として注意深く観察しておりました」


 セガは、照れくさそうに右のツノをかく。


「いやぁそんなに見てたの?874年前って……あーちょうど私が穴の修復に携わりはじめたころか。そう言われるとズッ友のような気がしてくるね」


 会うのがはじめてなのに、親近感を抱くセガ。対して女神は、辛辣だった。


「あなたの一族、『時鬼』は以前から神々の間で話題に上ることがありました。あなた方の固有魔術『時戻し』は神性に値します。自然に反する魔物は滅ぼすべきだと」


 魔王セガの種族は時鬼と言った。時を戻すことができる特異な魔術を扱う種だった。


 それを聞いて、先ほどまでフランクだったセガも、目を細める。


「ふぅん……。そういえば子供の頃、私以外の一族みんなが、突然の自然災害で全滅したんだけど。もしかして女神さまの仕業?」


「……………」


 女神はその問いには答えず、ミントティーをすすった。魔王もそれ以上追及せず、同じくカップを傾ける。聞いても無駄だとわかっているのだ。


 一気に重くなった雰囲気を、ユウジは明るくしようと努める。慣れない役割だった。


「そういえば女神様、僕が転生するときにチート能力選ばしてくれましたけど、その中に時間を巻き戻す能力とかありませんでした?」


 ユウジはこのとき結果的にミント能力を選んだが、ほかにもチート能力はたくさん用意されていた。無尽蔵のスタミナ、特大容量の魔力などなど。その中に目を引くものとして、時間巻き戻しがあったのだ。


 しかし、女神は首を振る。


「あれは関心を呼ぶための誇大広告です。実際に選ばれたら、あなたには特性上合いません、と断っていました。そもそも転生者の方々に授けていたチート能力とは、世界からこぼれ落ちた魔物の力なのですから、時鬼がまだ存在する以上与えることはできません」


「……?どういうことです?」


 ユウジが首を傾げると、女神はヒイロを例に出して説明する。


「例えば、ヒイロさんに授けた能力はUNCHAIN。あらゆる鎖を破壊できるフェンリルの能力です。フェンリルは元々この魔力世界で神性を得た特別な魔物でしたが、前回の大転生のときに、魂が時空の狭間に紛れ込んでしまい、私が回収しました」


「そうして回収した能力を、転生者に授けてるってことですか」


「正確には魂ごと、ですが。まあ細かいことはいいでしょういまは」


 女神は話を打ち切った。ユウジは自分の能力ミントについてももう少し詳しく知りたかったが、それはまたの機会のお預けとなった。


 魔王セガは、不貞腐れたように女神に投げかける。


「ところで女神様さぁ。私があの穴が広がらないように修復することって、それは自然ではないの?穴は自然現象だから、それに逆らうのはよくないとか言ってたけど、この星に生まれた者が、知恵を絞って対処するのは、それもまた自然なことじゃない?」


 屁理屈なようで理屈の通ってそうな主張に、女神は首を振る。


「対症療法だから問題なのです。もし、この星に住むものが、あの穴を完全に制御することができたのなら、それもまた自然なものとして神々も認めるでしょう。ですが、あなたは急速に広がろうとする穴に対して、四六時中時戻しの魔術をかけて、なんとか食いとどめようとしているだけ。これではいけません」


「いけないの?」


「あなたは800年超、穴が広がらないようにしてきました。しかし、また次の穴の発生が近づいてきています。もしこのまま、もう一つ世界に穴が発生したら、あなたは対処できないでしょう」


「それは……」


「急速な吸引力を持つ穴が、同時に2つ世界にあった場合、穴は互いに空間を引き合い、やがて世界を引きちぎります。世界は崩壊するのです、それは見過ごせません。ですから、次の穴が発生する前に、必ず前の穴を処理しきらないといけないのです」


「…………」


 セガは唇を噛んだ。薄々気付いていたのだ。時鬼という種族が自分しか残っていない以上、ジリ貧になると。


「でも、ベコさんとソドムさんが、魔王様の魔術を扱えるゴーレムを作ってましたよ。もうひとつ穴が発生しても、ゴーレムの方をそちらに向かわせては?」


 ユウジはナイスアイディアを提案する。しかし、女神は首を振る。


「私もあれを見させていただきましたが、あれでは気休めですね。よく出来ていますが、セガのオリジナル魔術と比べると数段クオリティが落ちます。たまに席を開ける時に、少しの間任せられる程度でしょう。あれでは、ふたつ目の穴に対処しきれません」


「……だったらさぁ」


 セガはユウジの腕をとり、引き寄せる。


「もし、私が子どもを作ったらどうよ。私と同じ魔術を引き継いだ子供に、もうひとつの穴の管理をさせるの」


「僕に生ませる気ですか?」


 ディナーのときに言っていたことは、あながち冗談ではなかったと知るユウジ。セガはにこっと笑った。


「こう見えて耳年増だから、夜迦は期待していいよ」


 肉体はともかく、実際年増でもあるじゃないですか。という言葉を飲み込むユウジ。


「ダメですね。ゴーレムと同じです。ハーフの時鬼では出力が落ちます」


 女神はバッサリと切り捨てる。


「だったらなんで時鬼滅ぼしたのさ……。仲間が生きていればこんなことには」


「さすがに時戻しの魔術をポンポンとできる魔物を、野放しにはしておけませんから」


 女神と魔王が、睨み合う。また空気がわるくなった。


 ユウジは、気分を変えようと、自身の生み出したミントティーを飲む。すっきりとして、頭が冴え渡ってくる。これで妙案が思いつくとは限らないが、気分転換にはなった。


「そういえば」


 ユウジは、ミントの茶葉を見つめて、思いついたことをそのまま話す。


「穴は魔力を持つ生命体を吸い込むって言ってましたけど、植物はどうなんです?」


 女神は、つまらなそうに言った。


「植物ですか?それは例外です。詳しい原理はあなたに理解できるとは思えないので省きますが……根を張っていることが色々関係しています」


「そうなんですか?でも異世界には、僕の世界と同じくリンゴが存在しましたよ。どっちかの世界から移動してきたのではないのですか」


 ユウジは、ウィッチ・ド・サンで、スバルからしこたまリンゴ飴をもらったことを思い出す。


「神々は、世界創生の際、いくつかの植物を両方の世界に共通のものを生み出しました。リンゴはそのうちのひとつですね」


「へぇそうなんですね」


「あと余談ですが、ミントも元々両方の世界にありました。しかし、ミントを司る精霊(ニンフ)メンテーが時空の狭間に落っこちたせいで、魔力世界からは姿を消してしまったのです」


「はあ、そういう経緯が」


 ユウジが能力でミントを生み出したことで、数千年ぶりに、この異世界でミントは復活を遂げたのだった。


 話を聞いて、ミントティーを啜るユウジ。


「……………あっ」


 突然、ユウジは顔を上げる。口をぱくぱくさせている。


「どうしました?」


「なに?」


 なにかを言いたげなユウジに、女神と魔王セガは視線をむける。


 ユウジは頭の中がまとまり、ついに声に出す。


「解決法、思いついちゃったかもしれないです」

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