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第94話 異世界転生×異世界転移

 ユウジが魔王城に辿り着く前、ロスチュにて、女神はこの世界の仕組みを話した。


 それは、ユウジたち転生者にとっては実に酷な真実であった。


『お話ししましょう。魔王をなぜ倒さなければならないか。それを聞いて決めるのはあなたですが……。できれば私の味方になってくれれば嬉しいです』


 女神は、どこか悲しそうな目をして語った。



 ユウジが転生したこの異世界は、ユウジがもともといた世界と表裏一体の存在であった。


 表と裏の関係。ただし、このふたつの世界の互いは、世界の管理者である女神によって行われる、魂の異世界転生でしか、通常繋がることはない。


 普通の人間が、二つの世界を行き来することはできないのである。


 ただし、このルールに例外が起きるタイミングがある。


 1000年に一度。


 2つの世界を行き来できる時空の裂け目が、自然発生するのだ。

 

 時空の裂け目は、最初は小さな亀裂として、世界のどこかに現れる。人が潜るには小さすぎる亀裂である。


 時間経過に従って、次第に亀裂は広がっていき、やがてそれは半径5メートルほどの穴となる。


 互いの世界を繋ぐ道であり、潜ればもう一方の世界へ行くことができる穴。一度死んで女神に助けてもらわずとも、生きている誰もが簡単に異世界転移できるようになるのだ。


 だが、これだけなら話は複雑にはならない。


 問題なのがここからなのである。


 女神は、ユウジに対して口頭質問した。


『化学はお好きでしたか?』


『好きではないですけど、得意でもなかったです』


『………。浸透圧、濃度勾配。このような言葉を覚えてます?』


『あー。えーと濃い方から薄い方に行くやつですよね』


『上出来です。この穴は、生命体のみを通します。魔力濃度が濃い方から、薄い方へ。さて、ここからはわかりやすいようにユウジさんが元いた世界を「現実世界」、転生した世界を「魔力世界」と呼んで説明しましょう」


 魔力世界では、大気を魔力が満たしている。また、そこに住む魔物や人間たちも、からだにそれを取り込んでいるため、体内に魔力が貯蔵されている。


 一方で、現実世界には一切の魔力が大気に存在しない。奇跡も魔法もない、リアリストが生きる世界である。


 穴は、魔力濃度の勾配にしたがって、生命体を通す。その結果、魔力世界→現実世界の一方通行でのみ、生命体は世界転移をすることとなる。


『つまり……スバルさんたちは、僕が元いた世界に行けるけど、僕が元いた世界に住んでる人たちはそのままってことですか』


『その通りです。理解してくれて幸いです』


 この穴は凄まじい吸引力を誇る。


 魔力世界に住む生命体たちは、自分の意思とは関係なく、次々に穴に吸い込まれていくのだ。


 これは自然現象であり、通常逆らうことはできない。


 穴が発生してから、閉じるまで10年かかる。


 放っておくと、魔力世界は、生命体がみんな転移してしまって空っぽになる。かわりに、現実世界には溢れるほどの生命体が住むこととなる。


『これでは表裏一体の世界のバランスが崩れてしまうので、神々のルール上、ここで調整することが認められています』


『調整?』


『はい。穴が発生したタイミングで、私は現実世界に厄災をもたらし、そこに住む生命体を滅ぼすのです』


『ええっ?最悪じゃないですか』


『現実世界で生きていた魂は、すべて回収して、魔力世界のほうに異世界転生させます。こうやってバランスを取るのです』


 魔力世界の生命体は、現実世界へ異世界転移し。


 現実世界の生命体は、魔力世界へ異世界転生する。


 このように、自然現象である穴へ、女神は対処するのである。


『現実世界へ転移した人間や魔物たちは、やがて魔力の存在しない世界へ肉体が適応し、その身の異形がなりをひそめます。例えば、牛の魔物は魔力のないただの牛に、エルフはただのちょっと寿命が長い金髪美女になります』


『ふむふむ』


『逆に、魔力世界に転生した生命体たちは魔法を使いこなせる異世界人や魔物として生まれ変わります』


『なるほど……』


 女神曰く、ユウジのいた現実世界にて、魔物の伝説や、ハルマゲドンなどが語り継がれているのは、太古の昔にこの異世界転移による魔物の移動と、女神による生命体の一掃が行われた結果であるという。


 また、魔力世界のほうに、現実世界での文化がいくらか存在するのも、前世の記憶を引き継いだ何人かが持ち込んだからである。


 こうして、魔力世界と現実世界、表と裏に関する世界の真実を説明した女神は、付け加えるように語った。


『この穴による一連の動きは、自然現象に則るものです。世界は自然には従わなければなりません。逆らってはいけないのです』


『ああ……だから女神様は……』


 ユウジは、女神がなぜ魔王を倒そうとしているのか、ようやく納得がいった。


 魔王セガの能力は、時間の巻き戻し。


 セガは、世界にできた亀裂に、時間の巻き戻しの魔法をかけ続けることで、穴が広がるのを防いでいたのだ。


 魔王こそが、ふたつの世界を守る防波堤となっていたのである。


 女神は淡々としていた。


『つまり、ユウジさんらチート能力を授けた転生者たちには、世界を守ろうとする魔王を倒していただき、自然現象を推し進めてほしいのです。女神である私は、この自然現象を進めることこそが使命ですので』


『……………』


 話を聞いたユウジは、黙りこくっていた。


 真実を知った転生者たちが、魔王を前に、女神を裏切る理由。


 それは、簡単なことだったのだ。


 世界を守りたいから。


 ヒイロやカナエたちは、魔王に向ける刃を、鞘におさめたのだった。

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