第92話 楽しいディナー
食堂の長いテーブルを囲む10人。
長方形のテーブルの、短辺にあたる席には、魔王セガが座り、対極のもう片方の短辺には、ユウジが向かい合って座っていた。
その間に、他のメンバーが並ぶ。料理は作った分をすべて出したので、ピースやガーナ、ランパも食卓を囲めた。
食卓に並んだたくさんの料理を見て、ヒイロは、ピースに礼を言う。
「いつもありがとうねピース。俺にはこういう生活的なことできないから助かってるよ」
「いいえー!料理作るの好きなので!ヒイロくんが美味しく食べてる姿かわいいし!」
「……ははは」
ピースとヒイロは互いに照れてしまっていた。ランパはその様子を見てこっそり笑った。
「あっ!これ食べてみてくださいみなさん!実はこれランパちゃんが作ったんですよー!」
ピースは籠に入った、小麦のパンを掲げる。細かい作業はガーナが手伝ったが、パンを捏ねるところはランパがやった。
ユウジは籠からひとつパンをもらい齧る。ドキドキと感想を待つランパ。
「うん、うんランパらしい味だね」
「……褒めてるんですかそれ」
じとーとユウジを見るランパ。ユウジは、パンを口に押し込めると、カクカクと無言で頷いた。
「ふんっ」
機嫌を損ねたランパを、ガーナがフォローする。
「大丈夫ですよ。ちゃんと美味しく焼けてます。ほら、ジャムとかもありますし、スープに浸して食べてもおいしいですよ。あっそうだ!ここで一曲歌わせていただきましょうか」
ガーナは突然席から立ち上がって、どこからか取り出したマイクを口に当てる。
魔王セガは、おっいいね!と手を叩く。
セイレーンは美しい歌声を持つ種族である。ガーナの美声が食卓を彩った。歌っているのは知らないどこかの国の民謡だったが、なぜかみんな懐かしい気持ちになれる歌だった。
あまりこの中に深い知り合いのいないベコは、少し肩身が狭かった。しかし、料理をひと口食べた途端、そんなことは気にならなくなった。
「このお肉おいしいですぅ!スープもいくらでも飲めちゃいますぅ……わっわっ舌が喜んでるぅ」
からだの大きいベコは、実は食いしん坊な側面もあったのだ。そのうち、長身で食卓中に腕を伸ばすので、むしろ周りの肩身を物理的に狭くし始めた。
「おいおい、遠くの皿は私が取るから落ち着けって。にしてもうめぇなたしかに」
スバルは、はしゃぐベコを落ち着かせつつも、自分を絶品料理に舌鼓をうっていた。
とくにスバルが気に入ったのは、刺身に甘辛いソースがかかった一品。港町サンワロック出身のスバルをも唸らせる新鮮さだった。
「山の上でこんないい魚が食えるとは思わなかったぜ」
「ああ、それは冷凍保存技術や輸送方法がいいんですよ。私みたいな氷系の魔物や飛行できる魔物たちが、魔王城に新鮮な食材を届けてくれるんです。お肉だって保存用の干し肉じゃなく、生肉を食べれるんですよ」
「へぇ!そりゃいいな」
すでに、ほろ酔い状態の鈴音が、グラスを揺らしながら説明する。本日飲んでいるのは、100年もののワイン。
魔王はいつも部屋に篭っているので、魔王城には、飲まれないまま熟成された年代物のワインがそこら中に転がっている。
鈴音が魔王城を気に入っているひとつの理由であった。
「酸味がさいこう……」
うっとりした鈴音は、ゆらゆらとからだを揺らし始めた。
「鈴音ちゃん相変わらずお酒好きだね!ドルチェ、さっき寝過ごして失敗したの落ち込んでたけど、気にしなくていいよ、鈴音ちゃんなんて二日酔いで廊下で寝てたこと何度もあるんだから」
「そうなんですか?」
魔王セガが、ドルチェに勝手に鈴音の過去を話す。鈴音は慌てた手を振った。
「たったまにですよ!それにいつもオウズが起こしてくれましたから大変なことになったことはないです!」
「へぇー先輩おっちょこちょいなんですね」
ドルチェはニヤニヤとしながら鈴音を見る。鈴音は赤ワインを持って、ドルチェの空いたグラスに、たっぷりと注ぐ。
「吸血鬼なんだから、赤い液体飲みましょうね〜!」
「うわっ先輩酔っ払ってる……アルハラですよいまどき」
ドルチェは嫌そうな態度をとりながらも、注いでもらってワインを美味しくいただいた。
賑やかな食卓だった。立場の違う各々が、心に壁を作ることなく、無礼講で食事をする。
まるで平和の象徴のようなディナーである。
セガは、反対側にいるユウジに向かって尋ねる。少し声を張り上げて。
「そういやユウジくんはあの3人の中の誰かと付き合ってんのー?」
「えっいやそういうのはないですけどー」
いきなりのプライベートな質問に、言葉を詰まらせるユウジ。セガは、その言葉に笑顔になる。
「それじゃ今度子作りしてくれない?」
「魔王様ー?」
鈴音が、ガタンと席を立ち上がり、セガを睨みつける。なにを言い出すのだうちのボスは、と。酔って気が大きくなってるので、軽く叛逆してしまいそうな心持ちだった。
「おおこわっ!鈴音ちゃん狙ってんの?いやねーほら私ってずっと部屋に篭って時間巻き戻す魔術使ってたじゃん?その影響でこの通りからだも幼いままなわけよ!でもヒイロっちたちがゴーレム作ってくれたおかげでこうして場を離れることができるようになったわけだし、せっかくだから、ちょっとばかしからだ成長させて子供でも作ってみようかなーって」
スバルは苦笑する。
「ユウジの子どもだ〜?教育しっかりできんのかぁ?ユウジみたいな親の背中見て育ったら碌な大人にならねえぞ」
失礼なことを言うスバルに、ユウジは反論する。
「そんなことないですよ、僕は子供できたら愛情を持って接するので、いい子に育つはずです」
「いーや信用ならねぇね。もし子供できたら私が育てるぜ。つーかいっそ私との間に産むか?」
「スバルさん!?」
思わぬことを言い出すスバルに、ランパが噴き出す。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。子供なら私がいるじゃないですか。私のことを大事に育ててください」
「そっちのスタンスでくるのかよ」
自分のことを指差して、必死に自己主張するランパ。スバルは、それを見てケタケタ笑う。
「まずはユウジさんは私のことを育てて、親の練習をしてください。そして私が大きくなったら……ん?魔王さんもいまから成長するとしたら、私が大きくなった時と魔王様が大きくなった時はタイミングいっしょですか?」
ランパに尋ねられ、セガは頷く。
「 うん私は時間を巻き戻せるだけで進めることはできないよ。だから子供産める年齢になるまであと何年か待たなきゃだね」
「……あっーそうですか。ふーん。うーん」
途端に悩み始めるランパ。ちらりとユウジを見る。
「もしそのくらい待ってくれるなら私もレースに参加できる……?その頃までにお母さんと再会できたら夫として紹介……?」
ブツブツとつぶやくランパ。頭の中を様々な思惑が渦巻いていた。
セガはその様子を見て、楽しそうに笑った。
「ほんとに仲のいいパーティだねぇユウジくんはいい仲間をもったね!」
「はい……」
「ところで、気になってたんだけどソドムちゃんはどこ?昨日までいたよね?」
セガは食卓をキョロキョロ見渡すが、ソドムの姿がない。ユウジはその件について説明する。
「実は僕のお願いで、ソドムさんに、ロスチュに行ってもらってオウズさんを、迎えに行ってもらってるんですよ」
「オウズちゃんを?えー来てくれるの?嬉しい!でもなんで?」
魔王は、鈴音に続き久しぶりに部下と再会できることを喜んだ。
ユウジは、食卓を見渡しながら言った。
「旅をしてきて何度か思ったんですよね。あの時こうしてればどうだったのか、とか対立せずにすんだんじゃないか、とか。
わかったんです。一番大事なのは話し合いだったんじゃないかと」
首を傾げるセガに、ユウジはこれから起こそうとしている「とんでもない計画」について打ち明ける。
「……ってわけです」
話を聞いたセガは、しばらく固まっていた。そして、大笑いする。
「あっはっはっは!ユウジくん面白いね!そんなこと思いつくなんて、ちょっと、頭おかしいよ!あっはっはっ!」
スバルは、頭を抱えていた。
「ほらなーやっぱユウジは私がついてなきゃダメなんだよ。そのうちお前が魔王になっちまうんじゃないか?」
「僕が魔王ですか?そうなったら、みなさんで頑張って僕のこと倒してくださいね」
いけしゃあしゃあと言うユウジは、ランパの作ったパンをまた齧った。
楽しいディナーで、夜は更けていく。




