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第90話 洗礼

 ユウジたちは階段を登り、3階にたどり着く。


 すると、階段からすぐの廊下に2人の黒スーツを着た少女が立っていた。


 黒スーツの少女たちは、上品に頭を下げて自己紹介をする。


「ようこそいらっしゃいました。私たちは魔王様の身の回りの世話をする側近、吸血鬼のドルチェと」


「セイレーンのガーナと申します」


 ドルチェは緋色の髪色をしており、どこか男性的な雰囲気があった。口元からは小さく牙が覗いている。


 ガーナは藍色の髪色をしており、可憐な街の少女といった感じであった。


「魔王様にご挨拶しにきました」


 ユウジがそう話しかけると、ドルチェとガーナは顔を見合わせて、クスリと笑った。


「いきなり魔王様に襲い掛かるような方ではないのですね」


「ヒイロさんやカナエちゃんとは大違いです」


「はぁ……」


 ヒイロとカナエは、いまは穏やかなふたりだが、女神の命令に従っていた時は、血気盛んだったらしい。ユウジにはあまり想像できなかった。


 とくに、カナエは豆腐小僧の能力でいったいどうやって魔王城まで旅をしてこれたのか全く想像できなかった。


「いちおう戦う準備はできてたのですが」


「運動不足解消のチャンスを逃しましたね」


 ドルチェとガーナは、少し残念そうな顔をして、隠し持っていた武器をちらりと見せる。


 吸血鬼のドルチェはナイフをくるりと手の中で回し、セイレーンのガーナは拳を開いてつけていたメリケンサックを取った。


「この間までは私がこの役をやってたんだよ。私が担当してた頃は転生者は来なかったけど。後輩が育ってて嬉しいな」


 鈴音はぶっそうな武器を持つ少女たちを褒め称えた。


「私たちも先輩にお会いできて光栄です」


「それでは、魔王様のお部屋にご案内いたしますね」


 ドルチェとガーナは、廊下を奥に奥に進んでいった。


 そして最後の行き止まりに、大きな石の扉の部屋があった。ところどころ宝石が埋め込まれており、また魔法陣のようなものが書かれている。


「「せーのっ」」


 ドルチェとガーナは、ふたりでタイミングを合わせて扉を押した。ズズズ……とゆっくりと扉が開く。ひとりでは開けられないほど重いらしかった。


「さっ、はやくこの隙間から潜ってください!」


「私たちが支えてる間に!」


「そうそう!この扉開けるのもひと苦労で魔王様にはご飯持ってくるの大変だったなぁ。オウズと力合わせて開けてたの。設計士に安全な部屋作るよう頼んだらこうなったって聞いたなぁ」


 懐かしむ鈴音。ランパはその話を聞いて呆れる。


「この洋館改装したひと馬鹿なんですか」


「おいさっさと通ってやろうぜ、こいつら辛そうだぞ」


 スバルに急かされて、ユウジたちはささっと魔王のいる部屋に入った。


 部屋の中は窓ひとつなく薄暗かった。完全なる密室。王室というよりは監禁部屋のようだった。


 煌びやかな部屋を想像していたユウジだったが、実際見てみると、まるで王が幽閉されているかのような印象を受けた。


 部屋の中央には、巨大な椅子があった。巨人の王が座るような、人間サイズには不釣り合いな王座である。


 その王座に深く座っている者がいた。


 からだは小さいようだが、全身に妖しい紫色のオーラを纏っており、その顔はうかがいしれない。


 玉座から微動だにせず、無言の圧力を発するそれは、思わず跪いてしまいそうになる迫力があった。


「あれが……魔王か」


「すごい風格ですね……」


 スバルとランパは唾を飲み込んだ。いざ対面してみると、さすがのユウジも少し物おじした。


 しかし、鈴音だけは不審そうな顔をしていた。


「あれ……魔王様?」


「え?」


 鈴音の方を向くユウジたち。鈴音は首を傾げる。


「いや……魔王様ってけっこうお喋りだから全然喋らないのおかしいなーって」


「そうなんだ」


 魔王がお喋りなことにイメージが崩れそうになるユウジ。


「よく気づいたね鈴音ちゃん。あれは偽物だよ」


「私の作ったゴーレムなんだよぉ」


「わっ!びっくりしました……」


 背後からヌッと現れたのは、ヒイロとベコだった。扉の隙間から入り込んできたらしい。いきなり現れたふたりに、ランパはビクッと毛を逆立てさせた。


 ちなみにドルチェとガーナは、いま扉の前でへたり込んでいた。腕が疲れたので休憩中である。


「ゴーレム?もしかしてそれがヒイロさんの用事ですか」


 ユウジの言葉に、ヒイロは頷く。


「ああ。黄金の雨事件の噂と一緒に、ウィッチ・ド・サンに腕のいいゴーレム職人がいるという話を聞いてね。魔王様の仕事を楽にさせてあげるために、ベコさんにゴーレムで魔王様と同じ魔術を使える分身を作ってもらったんだ」


「いえーい」


 ベコは、小さくVサインをつくった。


「魔王様の魔術は特殊だから、魔石に術式を書き込むのが難しくてね。優秀な魔法研究者を探して見つかったソドムさんにも協力してもらったんだ。そうして昨日完成したのがあの分身」


 ヒイロは、王座に座るゴーレムを指差した。


 ユウジは王座に近づいてみる。たしかに、紫オーラの隙間から覗ける顔面は、土色だった。


「あんまり近づきすぎないほうがいいよ。そのオーラに触れると魔術の影響を受ける」


「あ、そうなんですか。危ない」


 ヒイロに注意されて、ユウジは身を引く。


 魔王との対面をじらされ、スバルは頭をかいた。


「んでよー、結局どこにいるんだ?魔王は」


「さっき2階通ったらシャワールームに灯りがついていたから、水浴びしてるらしい。それを伝えにきたんだ」


 ヒイロの言葉に、鈴音はええっ!と大げさに驚く。


「魔王様のがお風呂ですか!?数100年入ってないと聞いてましたけど!」


「ええ……常識的に考えて不衛生じゃないですかそれ」


 ドン引きするランパに、鈴音は慌ててフォローする。


「魔王様はその使命のために、王座から動けないの。この部屋から出られないし、お風呂にも行けなくて。だから、お世話がかりの私たちがちゃんと体ふいてあげたりしてたんだよ」


「ほぼ介護じゃないですか……。鈴音さんお疲れ様でした」


 ランパは、鈴音を労った。


「じゃあ上がってるまでまた下で待ってたほうがよさそうですね」


「ああ、そうした方がいいだろう。数100年ぶりだからゆっくり湯船に浸かってるだろうし」


 ユウジたちは、みんなで重い扉を押して、一度魔王の部屋から出た。


 廊下で待っていたドルチェとガーナは、照れくさそうにしていた。


「すみません、さっきまでふたりとも仮眠のつもりが熟睡してて」


「その間に魔王様シャワールーム行ってたみたいです……失態です」


 鈴音は、後輩たちの頭に手を伸ばした。


 先輩からの叱責がくると思い、身を縮こませるドルチェとガーナだったが、鈴音はその頭を撫でた。


「もう、おっちょこちょいなんだから」


 優しい鈴音に、泣き顔になるドルチェたちふたり。


「先輩やさしい〜」


「影で鈴音さんの首をとれば次の四天王だねって言っててごめんなさい〜」


「おぅふ……」


 正直な後輩たちに、さすがの鈴音も顔を引き攣らせた。

 



 数時間後、すっかり綺麗になってバスローブに身を包んだ魔王が、ユウジたちの前に現れた。


「ようこそ魔王城へ!なんにもないところだけどゆっくりしていってよ!まずは旅の話を聞かせて!」


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