第89話 魔王城、到着
石階段を螺旋状にぐるぐると登っていると、スバルが声を上げた。
「おっ、あれか?」
先の尖った塔の先が、木々の隙間から覗いたのである。数日間に登る登山の末、ようやく魔王城は彼らの前に姿を現したのだ。
「もうすぐだから頑張って登ろっ」
「ふぅ……ふぅ……」
息も絶え絶えになっていたユウジの背中を、鈴音が押す。物理的に。ぐいぐいと後ろから押されてユウジの足は、自分の意思とは無関係に頂上へ向かう。
ランパはふと疑問に思う。
「こんなに近づかなければお城見えないんですね」
「うん、峠とかその、地形の問題でね」
あまり詳しくないながらも、鈴音が説明する。
ほどなくして、ユウジたちは最後の一段を踏み終えて、グルーべ山な10合目に登頂する。
頂上は快晴だった。後ろを振り返ると、登ってきた道はモヤがかってる。いつのまにか「雲の上」まで登ってきたのである。
実はユウジは、これが人生で初めての登山であった。そのため、山頂のイメージは三角形の山を描いたときのテッペン、尖った先っぽのようになっており、足の踏み場がないと思っていた。
しかし、その想像とは違って、山頂は駆け回れるくらい広い荒野になっていた。
あたりに植物はもう生えておらず、完全な岩場である。その殺風景な風景の真ん中に、ドンと存在感を放って立つ建物。
魔王城である。
ユウジは首を捻る。
「……城?」
目の前にあったのは、古い洋館であった。壁の外装にはびっしりとツタが張っており、ところどころ煉瓦が欠けている。
人が住んでるとも怪しい建物だった。
「魔王城と言っても普段から魔王様が住むところだから、住みやすいように200年前に城から洋館にリフォームしたんだ。……でも、こんなにボロボロだったかな?業者呼ぶように言っておこう」
鈴音は、ずんずんと洋館のほうへ進んでいった。ユウジたちはまだ、その魔王城(洋館)にたどり着いた余韻に浸ってるうちに。
木製扉にかかったベルを、鈴音は鳴らす。
「ほら、みんな入ろうよ」
「あ、ああ……」「はい……」
鈴音に手招きされて、スバルとランパはぎこちなく動き出す。緊張しているのだ。
「ユウジくんもはやく〜」
「…………よし」
この後のことを頭の中で軽くシュミレーションして、ユウジも扉の方へ向かった。
「やぁ、よくきたね。魔王様には話通してるから。まずはお茶でもどう?」
扉から出迎えしてくれたのは、ヒイロだった。なかへ案内してくれて、一階の応接間に通される。
応接間には、複雑な刺繍のカーペットが敷かれていた。ソファやテーブルも趣のある調度品が揃っている。歴史のある館であることが伺える。
先に来ていたソドムとベコは、そのソファでお茶菓子をつまみながら、くつろいでいた。
「長旅お疲れ様」「あがってあがってぇ」
2人はもう自分の家のように馴染んでいるようだった。
来客を聞きつけ、ポッドを持ったピースも、食堂から現れる。
「あ、ランパちゃんたち!お茶でもいかが?クッキー缶あるよ!」
ユウジたちは顔を見合わせた。こんなにゆるく歓迎されるとは思っていなかった。
「お、お構いなく」
せっかくなので、ユウジにミントティーを作ってもらい、みなでテーブルを囲んで団欒することにした。
「魔王様のいる階は、3階だからね。心の準備ができたら向かうといいよ」
カップを傾けるヒイロに、ユウジは尋ねる。
「ヒイロさんたちの用事はもう終わったんですか?」
「ああ、ソドムさんとベコさんのおかげでね。いい仕事をしてくれたよ」
ベコとソドムは、まんざらでもない様子だった。
「えへへへ〜むしろあんなの作らせてもらえてこっちが感謝したいくらいですよぉ」
「ふっ……困った時はまた私を頼ってもいいわよ」
ユウジはそれを確認すると、ひとつ頼みごとをした。
「まだお時間あれば、ですけど……」
ソドムは、それを聞き即答した。
「いいわよ。すぐに終わるし。それにあなたからの頼みごとも断わることはないわ」
「は、はぁ、ありがとうございます」
ほとんど知らないソドムからの好感度が高くて、ユウジは変な気分になった。
1時間後、ユウジの頼まれごとを預かったソドムは、龍にまたがって空を飛んだ。
「1日もしないうちに帰ってくるから」
「ありがとうございます」
ソドムはそう言い残して、山の向こうに消えていった。
「……で、どうすんだ?」
龍を見送って、スバルはユウジに尋ねる。
ユウジは、そうですねと頷いた。
「とりあえず、魔王様に挨拶でもしておきますか」




