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第85話 時と場合によりそば

 登山計画書と4人分の入山料を、登山口にいたおばちゃんに渡す。するとおばちゃんは、首にかける木札を渡してくれた。


「魔物避けの木札持っとくと登山者は魔物に襲われないからねぇ」


 木札には特殊な波動を出す効果があるらしく、野生の魔物はこれを嫌がり近づいてこないのだという。


「そういやユウジって女神に魔物に襲われやすい体質にされてなかったか?」


 スバルは、昔ユウジに聞いた話を思い出す。しかし長らく一緒に旅をしてきて、あまり実感はしなかった。


「んー女神様に許してもらえたんでしょうね」


 ユウジは楽観的に捉えるが、真実としては女神の運命操作は継続していた。


 ただしパーティに魔王四天王の鈴音がいることが抑止力になり、魔物たちは手を出せなくなっていただけなのだ。


「この札ってみなさんに渡してるんですか?」


 首に木札をかけながら、ランパが尋ねるとおばちゃんはにっこりと笑った。


「入山料を払ってくれたひとにはみーんなあげてるよぉ」


 登山口から100メートル歩いた時点で、道にはいくつかの人間の骨が散らばっていた。


 木陰には怪しく光る目が浮かび、グルルル…と獣の声も聞こえる。


「入山料払っといてよかったですね」


 ランパは冷や汗を垂らした。


 

 2合目を登るのにかかった時間は3時間くらいだった。腰を下ろせそうな広い岩場があったので、ユウジたちはそこで休憩をとることにした。


 あたりの景色は木々が生い茂るばかりで、まだいい景色は見られない。しかし着実に標高は高くなっているようで、次第に霧が立ち込めてきた。


「この森を抜けたら天気のいい日は、綺麗な景色が見えるんだけどね」


 鈴音は申し訳なさそうに言った。


「昼飯にしようぜ」


 スバルはザックから取り出したガスボンベに火をつけようとするが、なかなかつかない。


「あーボンベの底穴空いてますよ!ガス漏れちゃってたんだ」


 ランパはガスボンベを持ち上げて、底を指差す。角が凹んで、裂け目ができていた。


「マジかよ、買った時は大丈夫だったんだけどな」


「ザックを下ろした時の衝撃ですかね……うーんこれじゃ温かい食べ物は食べられませんね……」


 湯を入れればすぐに食べれるご飯を悲しそうにザックにしまう鈴音。


「まぁガスが漏れてる間にファイアボールを使わなかったのは不幸中の幸いじゃないですか」


 ユウジは気落ちするスバルの肩に手を置く。


「ユウジ……んっ?なんだあれ?山小屋?」


 顔をあげたスバルは、霧の狭間に浮かびあがる小屋に気づいた。


 看板には「Soba」と書かれている。


「あー山って蕎麦屋多いですよね。あそこでお昼食べましょうか」


 ユウジは懐かしい日本を思い出した。鈴音の国にも蕎麦はあったので馴染みがあるとのことだったが、スバルとランバは食べたことがないとのことだった。


「麺類ですからみんな好きだと思いますよ」


 店内に入ると、中心に木のテーブルがひとつだけドンっと置いてあった。客は全員相席で食べろということをあらわしている。


「いらっしゃいませ〜こちらメニューです」


 角刈りの男が奥から出てきてメニュー表を渡してくれる。


「へぇーいろんなメニューあるな」


 スバルは感心しながら、豊富なメニューに目を走らせる。


 ざるそば、月見そば、とろろ蕎麦、鴨南蛮…。定番の蕎麦はなんでもあった。


 鈴音は、いたわさと日本酒を頼みたかったが、これからまだ歩くのだからとみなに止められた。


 みなの注文が決まったところで、ユウジは店員を呼ぶ。


「すみませーん、ざる蕎麦2つと、カレー南蛮ひとつ、月見蕎麦ひとつで」


 すると店員は申し訳なそうに言った。


「実は現在そばは提供していないんです」


「えっ!なんでですか?」


 初めて食べるものを前にワクワクしていたランパはショックを受ける。店員は理由を語り始めた。


「今年の春頃から、長年蕎麦を打っていた父が蕎麦アレルギーになってしまいまして……僕が打った偽物の蕎麦ならお出しできますけど」


「偽物の蕎麦?」


 怪訝そうな目で店員を見るランパ。耳がしょげている。


「うどんです」


「うどんじゃないですか」


 ユウジは看板に偽りありと文句を言おうかと思ったが、そばとうどんならそんなに変わらないかと思い直し、口に出さずにとどめた。


 10分後、4人分のうどんが提供された。


「うまいなうどん」


「コシがありますね」


 スバルとランパは満足してくれたようだった。


 鈴音はデザートメニューとしてかかれていたガレットを指差し、店員に尋ねる。


「あのーこれも出せないですよね?」


 ガレットとは蕎麦粉を使ったクレープのような食べ物である。店員は悲しそうに頷いた。


「代わりにクレープをお出ししています」


「クレープじゃないですか」


 鈴音はガレットを食べたい時とクレープを食べたい時は微妙に違うと引っかかった。


 

 蕎麦屋から出たユウジたちは、クレープを片手にまた山を登り始める。


「クリームたっぷりで美味しいですね」


「口の端ついてるよ」


 鈴音はハンカチで、ランパの口元を拭ってあげた。


「そういやユウジ、さっに変なこと言ってたけどなんだったんだ?」


 スバルは、会計のときのユウジの奇妙な発言について尋ねた。


「ああ、僕の国では蕎麦屋で支払いするときには途中で時間を聞くのが習わしなんですよ」


「変な風習だな」

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