第82話 夢から覚めて
パンッ。
テント内で眠っていた者たちの風船が一斉に割れる。
ユウジはゆっくりとからだを動かして目を開けた。
スバルは大きく伸びをして立っていた。
「おはようございます」
「おはようさん」
スバルはこれまでになく晴れやかな笑顔だった。
ジャックポットで当てたメダルは、カジノの外にある小さな小屋で換金してもらえた。
金貨が詰まった小袋を渡され、スバルはホクホク顔だった。
「いやぁ儲けた儲けた」
「……持ちましょうか?」
「いや!金は私が持っておく!」
スバルが重い荷物を持つことに、ランパは気を使ったが断られた。
ランパは口を尖らせる。
「少しくらい頼ってくれてもいいんですけど……」
「わかってるよランパが頼りになることは必要なときはすぐに助けを求めるさ」
スバルはランパを抱きかかえた。
カジノのバーで、オウズと鈴音は最後の酒盛りをしていた。
「それで♡鈴音ちゃんたちはこのまま魔王さまのところに行くの♡」
「うん、その予定だよ。なにか伝言とかある?」
「うーん♡」
オウズは、尻尾をくねらせながら考える。
「たまにはお外出て遊んでください♡って伝えておいて♡」
鈴音はフフっと笑う。
「オウズらしいね」
リズマリーは、ミルコとともに馬車に乗り込んで帰り支度をしていた。
「あなたはお姉さまたちについていく方が楽しいんじゃありませんこと?」
大人しく読みかけの本を開くミルコは、首を振った。
「釣れないことを言うもんじゃないぞよ。ワシの仕事はリズちゃんの護衛じゃ。帰り道盗賊に襲われたらどうする」
「それもそうですわね。わたくしお姉さまと違ってか弱いですもの」
リズマリーは、窓の外を見てつぶやく。
「連れ戻すつもりでしたけど、旅を続けるというなら、ただ迷惑をかけただけになってしまいましたわね」
「いいのではないかのぉ。お主は千里眼で常に姉の様子を見れるが、スバルの方は会えて嬉しかったと思うぞ」
「そうかしら……」
「もう少し話していけばよかろうに」
リズマリーは照れくさそうに、扇で顔を仰いだ。
そのとき、馬車に向けて、たったったとスバルが走ってきた。
「おい、リズマリー!」
「お姉さま……」
口元が緩むリズマリー。窓から身を乗り出す。
「もう行くんだろ、国のみんなによろしくな。会えて嬉しかったぜ」
「わたくしも……嬉しかったですわ」
「なあリズマリー。無事に魔王倒したらさ。私のこと王国直属の騎士にしてくれよ」
リズマリーは目を丸くした。いままでスバルは冒険者として自由気ままに生きていた。そんな姉が国に仕えようとするとは予想外だったのだ。
「どうしましたの急に……」
「急っていうか……いや昔のこと思い出したんだけどさぁ私ってもともと可愛い妹のお前を守るために強くなろうとしてたんだよ。だから、そろそろ戻ろうかなって」
気恥ずかしそうに鼻をかくスバル。それを聞き、口元が緩んだリズマリーはまた扇で顔を隠した。
ミルコは似た者同士の姉妹だと、苦笑した。
リズマリーはコホンと咳払いをした。
「まずは無事に帰ってきてからですわよ。遠くからお姉さまの活躍、拝見させていただきますわ」
「おうよ、カッコいいところ見せてやるからな」
スバルは親指を立てた。頼もしい姿だった。
「……あっそうですわ伝え忘れたことがありましたのユウジさんのことなのですけど」
突然リズマリーは、はっと思い出した顔した。
「ユウジの?ああ指名手配取り消してくれたやつ?あれありがとな」
「ええ、それもあるのですがもうひとつ。いくつかの国での評価を取りまとめた結果なのですが……」
リズマリーの言葉に、スバルはポカンと口を開けた。
「ま、まじかよユウジが?」
ミルコはため息をついた。
「ほんとはワシはユウジくんと戦ってみたかったんじゃがのぉ。リズマリーに止められたわ」
「評判を聞く限りいくらミルコでもユウジさんの能力には敵いそうもありませんもの。大切な戦力であるあなたを失うわけにはいきませんわ」
リズマリーはミルコを宥めた。
「そういうわけですから、伝えておいてください。あまりこだわる方には思えませんでしたが」
そして、最後の別れの挨拶を済ませたリズマリーたちは、馬車に乗って国に帰って行った。
一日空けて、ユウジたちも旅支度を整えて、ロスチュを発った。
「それじゃ行きましょうか、魔王の元に」
「おうよ。最後の旅だな」
「ちょっと怖いけどユウジさんたちとなら楽しみですね」
「魔王様元気かなぁ」
ユウジを先頭に、彼の頼れるパーティが続く。
A級冒険者 剣士 自称龍殺しのスバル
C級冒険者 獣人 自称覇王の牙ランパ
魔王四天王 雪女 鈴音
ユウジは自分には勿体無いほど頼もしい仲間ができたと、誇らしげだった。
しばらく歩いたところで、スバルが伝言を思い出す。
「あ、そうだ。ユウジ。リズマリーに聞いたんだけど各国ギルドからお前S級冒険者に指定されたらしいぞ」
「え、そうなんですか。S級なるとなんかいいことあるんですか?」
「それは」
スバルは言葉が出てこなかった。ミルコに憧れてS級を目指してきたが、考えてみれば、S級とは名誉以外のなにも特権などない称号だった。
「……ちょっと自慢ができるようになる」
「ふーん、いいですねそれ」
ユウジは、あまり興味がなさそうに言った。
「そんなもんか……」
スバルはユウジの反応に、いままで心のどこかで抱えていた強者たちへのコンプレックスが晴れた。
ただの名誉など、そんなものなのである。




