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【異世界ミント無双】〜ミントテロで魔王倒します〜  作者: ぴとん
第六章 ロスチュ編
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第80話 スバルの夢

 スバル、7歳。


 この頃彼女は、誕生日に買ってもらったぬいぐるみを抱いて眠る愛らしい少女であった。


 王城のふかふかのベッドで横たわる彼女は、明日はじめて会う、剣の指導者の姿を想像していた。


 この世にほんの数人しかいないS級冒険者のひとり、竜人ミルコ。生きる伝説に剣の教えをこえるとは恵まれたことだった。


 どんな人なんだろう。怖い人じゃないかな。かっこいい人なのかな。


 スバルは期待と不安が入り混じった感情で、布団に潜っていた。


「……でも私はリズマリーのこと守れる強い騎士になるんだからっ」


 ぬいぐるみに語りかけるスバル。ぬいぐるみは無表情に見返してきた。


 ドンッ!!!


 そのときベッドが軋み、城全体が揺れた。


 棚は倒れ、ガラスは割れ、天井からは土埃が落ちてきた。


 スバルはとっさに布団に潜り込み、頭を保護した。


「な、なに……!?」


 数秒後、揺れがおさまったので、布団から抜け出し、窓に駆け寄るスバル。


 窓から見えたのは、地面が割れた庭と、崩れた煉瓦の山。塔にあったはずの大きな鐘も、瓦礫のなかに埋もれているのが隙間から覗けた。


「地震……?いや……」


 地面の亀裂を辿っていくと、その先には大剣を持った女が立っていた。


 酔っているようで、ふらふらと足を揺らして、そのままペタンとその場に座り込んだ。


「だれかー!水を持ってきてくれんかのぉ〜」


 暗闇に浮かぶ赤髪と竜の鱗。女は強烈なオーラを放っていた。


「あのひとが……やったの?」


 スバルには信じられなかった。等身大の人間が、剣の一振りで城を壊すなど。


 これが、スバルがはじめてミルコを目にした夜だった。





 場面は変わって、スバルがミルコに弟子入りしてしばらく経った頃。


 休憩中、スバルは無邪気にミルコに尋ねた。


「ねぇねぇミルコ。私も剣の修行続ければ、いつかミルコみたいに強くなれる?」


 この日は人里離れた山奥で、スバルは修行していた。野営に慣れつつ、このあたりの弱い魔物との実戦経験を積む目的だった。


 ミルコはあまり手を出さず、たまに後ろからアドバイスをするだけで、手持ち無沙汰だったので、スバルに構ってもらえて上機嫌に答えた。


「そうじゃのお。頑張ればきっとなれるぞよ」


「ほんと!?」


「ああほんとじゃよぉ」


 2人の仲は良好で、いつも和気藹々と修行していた。スバルは圧倒的な力を持つ師匠に、親しみとともに、憧れや尊敬の念を抱いていた。


 水浴びをしようと、池に立ち寄ったとき、ミルコは背後から殺気を感じて振り返った。


「どうしたのミルコ」


「おやおやこいつはスバルちゃんにはまだ早いねぇ」


 ミルコは剣を抜いた。スバルは彼女の後ろに隠れた。


 地面が盛り上がり、地中からニョキニョキと極太のチューブのようなものが這い出てきた。


 頭部はグロテスクな牙の生えた口で、目のようなものはどこにも見当たらない。


 ポイズンワーム。危険度の高い巨大魔物である。


 周囲の木々よりも高く、その身を地中に出しながらも、その半身はまだ深く地下に潜り込んでおり、全長をうかがい知ることはできなかった。


「どこかの山から飯でも求めてやってきたのかのぉ。気持ち悪いから排除してやろう」


 このとき、力が有り余っていたミルコは、やり過ぎた。


「ふんぬっ」


 ミルコの一振りは、強烈な爆風を巻き起こし、直撃したポイズンワームを跡形もなく吹き飛ばすどころか、その余波で、背後に聳えていた山の頭頂部を、「切断した」。


 尖った形の山の先が破壊され、砕け散る。見事な三角形として有名な山だったが、これにより地形は変わり、台形になってしまった。


 土煙が晴れたとき、ミルコは気まずそうに頬をかいた。


「すまんのぉ。スバルちゃん。嘘をついた。ワシは竜人じゃからこんなことができる。ただの人間には限界があるかものぉ」


 こうして、スバルは人生の序盤で己の限界を知ったのだった。


 王城のもとで生まれながらも、権力では後継者の妹には敵わない。


 冒険者として生きるにも、生まれながらの強者であるミルコには敵わない。


 それでも彼女は自分の限界ギリギリまで強くなれるよう、剣の修行を怠らなかった。


 そしてミルコとの修行の期限が来たとき、スバルは卒業試験として、ミルコと一騎討ちの勝負をした。


「いくよ、ミルコ。本気で倒しにいくから」


「ふむ。ここまで長い間剣を教えたのは初めてじゃからのぉ。期待しておるぞ」


 ミルコの教え方は丁寧で、この国の騎士に伝わる由緒正しい剣術を、余すことなく伝えられた。


 スバルはたしかに強者に育った。


 しかし、教わった剣技を惜しみなく使った攻撃も、ミルコには微塵も通じなかった。


 疲れて倒れるスバルに、ミルコは笑いかける。


「合格じゃよ。教えたことがしっかりできておる。立派に冒険者としてやっていけるじゃろう」


 スバルは、悔しさに拳を握った。師匠越えをできずに、なにが卒業かと。



 その後スバルは冒険者として、多くの活動をした。


 盗賊を討伐したり、魔物を成敗したり、その強さを持って功績を得ていき、またたくまにA級冒険者の称号を手にした。


「なあ、S級にはなれないのか?」


 スバルが尋ねると、ギルドの受付嬢は困ったように答えた。


「S級はその強さを多くの人に認められなければなりません。ギルドだけの一存では決められないのです」



 これらは、はじめてロスチュに来たときに、スバルが見た夢の一部である。


「くそ……いやな夢だったな」


 スバルは、自我を取り戻し、大きくため息をついた。


「絶対的な強者を、弱者が倒すことってできねぇのかな……」


 このあとスバルはここが夢だと自覚した上で、いくつかの実験を行った。


 それは、スバルが一段上に強くなる鍵となった。





「いくぞ!ミルコ!」


 突き刺す動作で、特攻するスバル。


 ミルコはそれを手で掴んだ。


「自分より強い人型の魔物に突きは悪手ではないかのぉ。受け止められてしまうぞ」


「こんなことができるのはあんたくらいだよ!ファイアボール!」


 スバルは片手を剣からはなし、0距離で火魔法による火球を打ち込んだ。


 ミルコはその熱に一瞬怯む。


「むぅ。あつい火傷するかと思ったぞ」


 しかし、ミルコは握った剣は離さない。そのまま片手に持った剣を上に持ち上げた。


「どうするスバル。このまま剣を振り下ろせば、一刀両断じゃが、お主は剣を捨てて逃げるか?」


「………」


 スバルは微動だにせず、答えなかった。剣を握ったまま、離す気はない。


「強情じゃのお。ではこれで決まりじゃ」


 ミルコは、剣を振り下ろした。



「スバルさん!避けてください!」


 ユウジは叫んだが、スバルは動かなかった。


 剣がスバルの頭部にめり込み、そのままざっくりと地面に向かって振り下ろされ。


 スバルの全身は真っ二つになった。


「………っ!」


 口に手を当てて絶句するランパ。鈴音も思わず目を逸らした。


 夢の中だからと言って、仲間があんな残酷な死に方をするのを見たくはない。


 ユウジは残酷な光景に、放心状態になった。


「むっ……なんじゃ……これは?」


 ミルコが、拍子抜けした声をあげる。


 真っ二つになったスバルの体。その断面から噴き出したのは、鮮血ではなかったのだ。


 白いモコモコとした物体がぶわっと体積を広げて飛び出す。


「あ、あれは綿?」


 綿を噴き出しながら倒れるスバルのからだ。


 ユウジたちはポカーンと謎の光景を見ていた。


 両断されたスバルの半身が、ポンっと煙を出して姿を変える。


「なんじゃこれ……」


 地面に落ちていたのは、真っ二つになった、スバルがユウジからもらって大切にしていたぬいぐるみだった。


 そのとき、ミルコの背後に、突如殺気が現れる。


「死ねぇ!」


「!?」


 剣を横に薙ぐスバル。ミルコは反応が間に合わず、振り返れなかった。


 ザクッ!


 スバルの剣が、ミルコの背中を切り裂いた。


 血肉とともに、数枚の竜の鱗が宙に舞い散った。

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