第78話 抱いて眠る
「ミルコは私の師匠なんだ」
スバルに生えたミントを、一本一本抜きながら、ユウジは話を聞いていた。
「本妻の子のリズマリーとは違い、私は王位継承権を持ってなかったから、私は早々に独り立ちするために剣を習い始めた。
その時王家のコネで呼び寄せた凄腕の剣の師匠が、ミルコだった」
「じゃあ長い付き合いだったんですね」
「まあな。あいつの剣は凄かったぞ。私なんか子供扱いだ。じっさい子供だったんだけど」
スバルは生肌をさすさすと触った。古傷を思い出したのだ。
「いまはどうなんです?」
ユウジは期待を込めた目で尋ねたが、スバルは気まずそうにそっぽを向いた。
「あいつはS級、あいつはA級それがすべてだ」
「S級ってどのくらいすごいんですか?あの殺気、思い出したくもないです」
ランパはブルっと震えた。さきほど漏らしたパンツは隙を見つけてこっそりと履き替えた。
「……私は身の丈ほどの大岩くらいなら斬れる。それに対してミルコは『山を斬れる』」
「や、山を……?さすがに盛りすぎでは?」
ポカーンと口を開ける鈴音。魔王四天王の実力者である彼女でさえも、にわかには信じがたかった。
しかし、スバルは大真面目だった。
「目の前で見たことがある。破壊力で言えば、ユウジに劣らないだろう」
「……………」
一同は黙ってしまう。なんてひとに喧嘩を売ってしまったのかと。
「メダルくらい諦めません?」
ユウジは心配するが、スバルは首を振るう。
「そっちを諦めたところで、リズマリーは私を連れ帰ろうとしてる。どうせこのままだと剣を交えることになったろうよ」
先ほどオウズは、ミルコとスバルの喧嘩に割って入り(利益を守るために)、折衷案を出した。
2人にはロスチュのなかで戦ってもらい、勝った方にジャックポットで出たメダルの2/3を渡そうと提案したのだ。
ミルコは譲歩する気がなかったが、リズマリーにより条件を飲むように制されて、了承してくれた。
こうしてスバルとミルコによる師弟対決が実現したのである。
もし現実で戦ったのなら、敗色濃厚だったろう。しかし、夢の中での戦いなら別。相手に気押されない限り、弱者でも強者を倒し得た。
スバルは剣を手繰り寄せた。
「ロスチュに来て、私は小さい頃の夢を見た。嫌な夢だったよ。ミルコにボコボコにされる夢だった。それはもうズタボロになった。早々にリベンジする機会が来て嬉しいぜ」
「……大怪我しそうならすぐに降参してくださいね」
「ばーか夢だぞ?変に想像しない限り痛くはねぇ。それに」
スバルは、ポンっとユウジの頭に手を置いた。
「もし負けたらここでお別れだ。絶対に私はユウジについていく。お前は危なっかしいからな。私が守ってあげないと」
「スバルさん……」
「にしし」
スバルは、まるで姉のように優しく笑った。
ユウジたちは、最初のサーカステントに集まっていた。
ステージの中央で、オウズはポールに掴まりながら、声を張る。
「本日は貸切です。お二人にはロスチュで気の済むまで戦っていただきます♡致死量ダメージを受けた場合、あるいは敗北を認めた場合目が覚めますので、それで勝敗を決めさせていただきます♡」
スバルとミルコは、ステージを挟んで座っていた。
スバルが睨んでいるのに対して、ミルコは楽しそうだった。
「小童がどれほど強くなったか、楽しみじゃのぉ」
「……チッ」
スバルは舌打ちをした。ユウジは、そんなスバルに耳打ちする。
「勝算はあるんですか?」
「ああ、あるぜ。これだ」
膝元にぬいぐるみを置くスバル。それは、かつてユウジがあげたものだった。
「悪夢を見た理由がわかったぜ。いつもみたいに、このぬいぐるみ抱いて寝なかったからだ」
スバルは、ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめながら、ミルコを一層強く睨みつけた。
「さぁ……やろうぜ!」
「うむ、全力でやりあおうぞ!」
「それでは準備ができましたので、夢の中へ誘いいたします♡」
オウズの掛け声とともに、ミルコとスバルの耳に、部下のサキュバスたちが口を近づける。
「トクン…♡トクン…♡」
「………!」「………っ」
カクン、と意識が落ちるスバルとミルコ。先ほどまで闘志を漲らせていたふたりが、一瞬でかわいい寝顔になった。
相変わらず、外から見るとシュールなものだな、とユウジは思った。
リズマリーは礼儀正しく頭を下げる。
「それでは向こうで一緒にお姉さまの戦いを見守りいたしましょう」
「あ、はい」
ユウジたちも、スバルに続いてロスチュの中にダイブした。




