第77話 ジャックポット!
赤髪の女ミルコは、意気消沈の面持ちで頭を下げた。ランパは構えをといた。ミルコから発せられていた殺気が消えたのだった。
ミルコは物悲しそうに、手元に一枚だけ残った最後のメダルを見つめた。
「これは思い出にとっておくことにするのじゃ……」
スバルは、慎重に言葉を選びながら、話しかけた。
「ミルコ、あんたが国に力をかすなんてどういう風の吹き回しだ?」
「おぅスバルちゃん。大きくなったのぉ」
ミルコは目を細めた。
「国に手を貸してるわけではないんじゃよ。ワシはかわいいリズちゃんに頼まれて来ただけじゃ」
リズマリーは、ウィンクをする。ミルコはほっほっほと笑った。
情熱的な髪色をしており、容姿は若いわりに、ミルコは穏やかな老人のような喋り方と性格のようだった。孫たちの喧嘩を見守るように達観している。
「ちっ……んだよそれ。でもぜってー帰んねーからな私は強くなったんだ心配される筋合いはねえ」
スバルは舌打ちをした。すると、ミルコはふむ、と手に持ったメダルを指で上に弾いた。
「では、せめてコレくらいはいなせるかの?」
「っ!ディーラー!剣渡せっ!」
「!?はいっ!」
剣を預かっていたサキュバスが、急いでスバルに剣を渡す。
ミルコはコインを親指に乗せて、狙いを定める。
「バーン、じゃ」
瞬間、ガチンッ、と金属が弾けるような音がカジノ内に響き渡る。
ユウジには何も見えなかった。
ミルコは親指を跳ね上げた状態で立っており、スバルは剣を振り終えたポーズをとっていた。
「……………」
ただならぬ音がしたことで、ゲームを楽しんでいた客たちも手を止め、カジノ内に静寂が訪れる。
しかし、その静寂はすぐに打ち破られた。
『リンゴン!リンゴン!ジャックポット発生!!!』
「む?」「あん?」
ミコルの背後のスロットマシーンが突如雄叫びをあげる。筐体全体がピカピカと光っており、出目が777に揃っている。
「えっあれはっオーナー!オーナー!大変です!!!」
ディーラーが叫んで、バーカウンターのオウズが呼び出される。
「どうしたの♡ってえええ!!?ジャックポットぉぉぉ!?10年に一回しか出ない確率にしてたのに!!!」
グラス片手にやってきたズオウは、スロットマシーンの状態を見て、腰を抜かした。
その途端、ジャラジャラジャラ、とスロットからコインが溢れ出てくる。
「スバルさんが剣で弾いたコインが……投入口に入ったってことかな?」
「たぶんそういうことですかね」
ユウジとランパは呆然としながら、スロットの下に積み上がっていくコインの山を見つめていた。
「あっはっは!これは愉快じゃな!大当たりじゃ」
突如、ミルコが笑い出す。スバルは怪訝な顔をする。
「あん?」
「ワシの最後のコインが一花さかせおった!なんと数奇なこと!ワシは天運に愛されているのぉ!大儲けじゃ!」
「いやちょっと待てや」
スバルは、ツカツカとミルコの前へ進むの、恐れずにその胸ぐらを掴んだ。
「あんたは私に向かってメダルを弾いた。アレはメダルをくれたってことだよなぁ?」
「なんじゃと?」
「あんたから貰ったメダルを、私がスロットに入れたら大当たりがでた。私が引き当てたんだ。つまり、そのメダルの山はすべて私のものってことだ」
「貴様……小童が馬鹿なことを言うものでないぞ」
スバルとミルコは、いまにも殴り合いそうな雰囲気だった。
一触即発のなか、2人の間にこのカジノのオーナー、オウズが飛び込む。
「待った!待った待った待ったー!お客様がたぁ♡申し訳ございませんがコレはマシーンの不具合でございます♡」
オウズは引き攣った笑顔を浮かべながら主張する。
「スロットマシーンの遊び方はご存じですね♡メダルを入れてレバーを回し、ボタンを押して絵柄を揃える。この過程を経て引いた当たりのみ、認められます♡」
「何が言いたい……?」「親切心で言うが、次に発する言葉は選んだ方がいいぜ……?」
今日一番の殺気が、ミルコとスバルから同時に湧き立つ。
「どうしたの〜?うわぁ!?」
カジノ内の異変を感じ取り、様子を見に来た鈴音は、無防備に殺気に当てられたことで、一気に酔いが覚めてその場にへたり込んだ。
「ぐすっぐすっ……」
野生の勘が人一倍強い獣人のランパなどは、泣き出してしまった。それと誰にも気づかれないで済んだが少し漏らしてもいた。
ゼロ距離で殺気に直面しているオウズは、気を失いそうになりながらも、ロスチュの王として意地を見せて、自分の主張を最後まで言い切る。
「ですから、このジャックポットは無効でございます♡」
ああ、やばい。とさすがのユウジも察した。
そこで間に合うかは賭けだったが、スバルたち3人の間にミントの群生を発生させる。
ズボボボボと、3人の足元に生えたミントは、とてつもない速度で繁殖して、各々の肉体にも根をはりはじめる。
あっという間にスバル、ミルコ、オウズのからだは緑に覆われて、ミントだるまが三体出来上がった。
「ミントのリラックス効果で、どうにかここは矛を収めてください」
「………」「………」「………」
ユウジが語りかけると、3体のミントだるまは、ひとまず距離を取り合った。
これがミントの効果によるものなのかは定かではないが、ひとまず衝突は避けられた。
一体のミントだるま、スバルはユウジの元に戻ってきて囁いた。
「ユウジ、いまはお前の顔に免じてやめとくが、あとでアイツ殺すからな」
「……物騒なことで」
ミントだるまに話しかけられて、ユウジは空気を読まずに笑ってしまいそうになった。




