第75話 カジノ・ルーレット
風呂上がりにユウジたちは、また集合した。
「へへっサウナ入ってたら倒れちまったぜ」
「ええっ?大丈夫ですか?」
ランパには心配されていたが、スバルもその頃にはすっかりと元気になっており、いつもどおりの様子だった。
オウズは廊下を歩きながら説明する。
「ロスチュは夢の国だからね♡来訪のとき睡眠したし、みんな温泉でさっぱりしてももう眠くないでしょ?だからここには宿泊施設がないんだ♡」
「そうなんですか」
「まだここに滞在するなら暇つぶしする場所としてカジノが一軒あるけど♡」
「カジノか!」
目を輝かせるスバル。彼女は賭け事を好んでいた。
鈴音はチラリとユウジを見る。
「どうします?魔王さまのところに行くには、ここからあと4日ほど歩けば着くよ。準備ができればいつでも私はよいけど」
「……だったら、まだしばらくロスチュにいていいかな。心の準備したいし」
「わかりました」
鈴音はにっこりと笑った。これから敵対することになるかもしれないのに。もしかしたら鈴音もこれより先に歩を進めたくないのかもしれない、とユウジは思った。
「スバルさんお金はあるんですか?」
「……おう!」
「なんですかいまの間は」
ランパに問い詰められ、目を逸らすスバル。エンベコピーでエルフたちからもらった金銀財宝。その1/3をウィッチ・ド・サンで行われていたゴーレムバトルの賭けで溶かしていた。
ランパはため息をつく。
「仕方ないですね、じゃあやるなら私たちが見張ります」
「やらせてくれるのか!」
「カジノは私も興味があるので……」
カジノとは大人の世界である。子供1人では入れない。ランパくらいの子どもにとっては、非常に興味深い場所であったのだ。
オウズが尻尾をくねらせた。
「じゃあ行こうか♡急ぐ旅じゃないならゆっくりしていってね〜」
温泉施設から更に奥に進んだところに、今度はドーム状のテントがあり、ネオンの看板にはカジノと書かれていた。
「国としてはメインの事業じゃないから、そんなに大きくないんだけど、ひと通りは揃ってるよ」
オウズに連れられて、ユウジたちはテントの中に入る。
「うわぁ」
その煌びやかな内観に、ランパが声を上げた。
謙遜などいらないほどに、あたり一面金ピカで豪華な内装だった。置いてある設備も、スロット、ルーレット、トランプ、サイコロ……。思いつく限りのゲームはほぼできそうだった。
温泉施設とは違って、こちらにはユウジたちのほかに数人の客たちがいてゲームを楽しんでおり、各テーブルでは扇情的なバニー衣装を着たサキュバスディーラーが取り仕切っていた。
ランパに許可された分だけ、現金をカジノチップに変える。それでもゲームをしばらく楽しむには充分そうな量だった。
「スバルさんはなにをしたいんですか?」
鈴音に尋ねられると、スバルはふっふっふと笑い、ビッとひとつのテーブルを指差した。
「最初から決めてたぜ。ルーレットだ!」
「それまたどうしてです?」
ユウジが聞くと、スバルは腕を組んだ。
「逆に聞くがお前らはルーレット以外のゲームのルールを完璧に把握してるか?」
「ポーカーやブラックジャックくらいなら……いやカジノルールってなると意外と知らないですね」
「ルーレットなら当たるところに賭ければいいだけ、かんたんだろ?赤と黒どっちに来るかを賭けることだってできる。それに駆け引きなんてまどろっこしいことをせずにすむ」
「たしかに……」
サキュバスディーラーの前にどかっと座るスバル。腰につけた剣は預けられた。
「まずは赤の5に10枚……」
「はぁー?」
ズズズとチップを移動させるスバルに、ランパは口を開けた。
「あのギャンブルなんて詳しくないですけど、そんな1箇所にずんって賭けるもんなんですか!?」
「数字は36まであるから、36分の……あ、0もあるんだじゃあ1/37かスバルさん、無茶です」
ユウジも賭け方に物申したが、スバルはなんのそのと言った感じでディーラーにルーレットを回すように促した。
「は、はぁ……」
サキュバスディーラーは、豪快な賭け方に困惑しながら、ルーレットを回す。
こういった賭け方をする客もいることにはいるが、スバルにあまりに自信満々な顔をされたので、イカサマでも仕込まれたかとディーラーは不安になっていた。
カラカラカラカラ……。玉が軽快な音を立ててルーレット盤を転がる。
スバルはおもむろに語り出す。
「昔からなぁ……私の人生は私中心に回っているんだ……すべてがうまくいくように……できてんだ」
ユウジとランパは何言ってんだコイツ、と冷ややかな目で見ていた。当たることを信じてる者はいなかった。
鈴音とオウズに至っては、カジノのバーカウンターに直行したので、ルーレットすら見ていない。
カタっ、カタッ、カタッ。ルーレットの回転が減速し、そろそろ玉はどのマスに入るかを考え始めた。
「………っ」
止まりそうになると、ユウジとランパはなんだかんだで固唾を飲んでルーレット盤を注視した。
スバルは椅子に深く腰をかけて、優雅に待っている。
カタッ……コロン。
玉がマスに入った。
サキュバスディーラーが、冷や汗を垂らして申し上げる。
「0に入りました……」
「んあっ!」
仰反るスバル。無情にもチップは回収されていく。
「だから言ったじゃないですかー!」
「おいおいランパ落ち着け。たまに起こるんだよこういうことも。カジノには魔物が潜むんだ」
スバルはヒラヒラと手を振っておどける。ランパは頬を膨らませた。
「お嬢さん、お隣よろしいかしら?」
「んあ?どうぞー……」
そこへ他の客がやってきて、スバルの隣の椅子に腰をかけた。チラリとその客の顔に目を移した途端、スバルはヒィエッと短く声を上げる。
「どうしました?スバルさん」
心配してユウジが尋ねると、スバルは目をパチクリしながら聞き返してきた。
「お、おいここって夢か?現実か?」
「現実ですけど……頬っぺたつねります?」
ユウジとランパは、ふたりで両側からスバルの左右の頬をつねった。
いてて、と顔を振るうスバル。そして頬を抑えながら、再度隣の客を見つめる。
「マジかよ……なんでこんなとこにいるんだ?」
隣に座った客は女だった。カジノにふさわしいような豪華なドレスを召している。赤と黒を基調にした上品なドレス、手には羽毛の生えた扇を持っている。髪型も艶のある金髪ストレートで、ほのかに芳しい香水も漂わせる。
身分の高さを感じさせるが、顔は幼く、おそらくスバルより2〜3歳下……というよりスバルをそのまま2〜3歳幼くしたような顔の作りをした少女だった。
「ご機嫌麗しゅう、『お姉さま』」
「り、リズマリー……」
そこにいたのは、王国サンワロックの王位継承権所持者、スバルの妹リズマリーであった。
リズマリーは、宝石のような瞳を光らせた。
「さぁさ、次はどのマスにお賭けになりますか?お姉さま」




