第73話 鈴音の夢
風が吹いて、風鈴がリン…と鳴る。
鈴音の夢の中の季節設定はどうやら夏のようだった。しかし、暑さは感じない。そこは雪女である彼女に都合の良いようにされているらしかった。
「ずずず…。鈴音さんはいい夢見れていいですね。コツあるんですか?私の夢はフワフワ〜って展開に流されるままでしたよ」
ランパはコップを握りしめ、ストローで冷たいジュースを啜っていた。その愛らしい姿に、鈴音は目を細めて、獣耳の間の頭部を撫でる。
「うーん慣れかなぁ。オウズちゃんにはよく夢のなかで遊んでたから」
「……ふーん慣れれば、もっと自由に夢見れるのか」
スバルは頬杖をついていた。よほど悪い夢を見たのか、ご機嫌斜めだった。
「あらら♡もしご不満なら明日もご利用なさいますか?」
オウズの言葉に、スバルはそっぽを向いて、考えておく、とだけつぶやいた。
ところで、とランパ。
「鈴音さんは私たちが合流するまでどんな夢見てたんですか?」
「ええっ?も、もういいよその話はぁ」
鈴音は顔を赤らめた。その反応をオウズは面白がる。
「まったくカマトトぶっちゃって♡昔は私と一緒に男遊びたくさんしてたじゃない♡いまさら夢の中でユウジくんと一緒の布団で寝てたくらい……」
「ちょっ!ちょっと!言わないでって!それに男遊びしてたのはオウズちゃんだけでしょ!私はしてないし!」
「えぇ〜♡でもいつも興味津々に、私が男の人から精力搾り取ってるの見てたじゃん♡」
オウズはケラケラと笑う。鈴音は顔を真っ赤にして、そんな彼女の背中をバンバン叩いた。
純粋なランパは、いまいち会話の意味がわかっていないようで、首を傾げていた。
「せいりょくを搾りとるってなんですか?」
オウズは、チラリと舌を出して、エロティックに言う。
「ふふ、性器と性器をね…♡」
「生々しい言い方しないで!」
鈴音は、慌ててオウズの口を塞いだ。オウズはその手のひらを舌でペロリと舐めた。ぶるる、と震える鈴音。
「うひゃ…もう……!ほんと性に奔放なんだから」
「しょうがないでしょーサキュバスなんだから♡それにエッチなことするのは夢の中だけだよ?現実の私のからだはまだ清いままだし♡」
「……?よくわからないですけど、夢の中でひとからエネルギー的なものを取るってことですか」
ランパは、なんとなくニュアンスで理解した。
スバルは、キョロキョロと古民家を見渡す。
「そういやここって鈴音の実家がモデルになってんのか?」
「ええ、恥ずかしながら」
「夢には少なからず願望が反映されるからねー♡鈴音っちはマザコンだから実家なのかな?」
またもやオウズに茶化された鈴音。ぷぅ、と頬を膨らませる。
「別にいいでしょー。でも私の願望かぁ…」
鈴音は、自分の作り出した世界を見渡す。実家に似た古民家、暑くない夏、冷たい飲み物。特別なものがあるわけでもない。
「ふふっ私ってみんなで楽しく過ごすことできれば、それだけで幸せなのかも」
鈴音は小さく笑った。
魔王の元にいるのも働きがいがあるが、本心で望んでいるのは、このくらいの小さな幸せなのだと気づいた。
オウズは、鈴音の頬に、ぷにっと指を突き刺した。
「みんな、の中に私もいれてほしいなぁー♡」
「はいはい……スペースがあったらね」
その言葉とともに、縁側が少しだけ広くなった。
それからまたしばらくした後、ようやくユウジも空間の裂け目を通って、鈴音の夢に合流した。
「あれ?大丈夫?顔色が」
「ユウジさんもスバルさんみたく悪夢見たんですか?」
ユウジにしては珍しく、先ほどのスバルに劣らないくらい、思い詰めたような顔をしていた。
「……いや、なんでもないよ。火山の上で、あっつい鍋を、こたつに入りながら食べる夢見てた」
「聞くだけで暑くなりそうな夢だね……」
鈴音は額に浮かんだ汗を拭った。
ユウジは麦茶をもらうと、ぐっと流し込んだ。夢だとわかっていても、なんだか喉が涼しくなって、すっきりとした。
オウズは、ユウジに擦り寄る。
「ねえねえ、さっき鈴音がねえ♡」
「ふんぬ!」
鈴音は氷の棍棒を作り出して、手加減なくオウズを殴りとばした。
ズザアアア、と地面に擦り付けられるオウズ。
「おいおいやりすぎだろ」
「ふにゃあ〜ひどいよ〜♡」
スバルは苦笑しながら、オウズを抱き起こす。オウズは目を回して、擦り傷だらけだった。
「この世界では怪我なんてしても想像しない限り痛くないですし、治ってる想像すればすぐ治りますしいいんです!」
「そうだけどぉ♡」
オウズは、ぱっぱっと砂埃を払って、立ち上がった。鈴音の言う通り、オウズの傷はみるみるうちに塞がっていった。
スバルは感心したように、その治癒変化をみる。
「……便利だな。怪我がない世界か」
「ぜーんぶ自分の想像次第だよ♡現実とまったく同じ身体にすることもできれば、スーパーマンになることもできる♡自由に各自設定してね〜」
ランパは手を上げた。
「からだ変化できるんですか?じゃあ私大きい怪獣になりたいです!」
「ランパそんな願望あったの?」
「子どもの夢としてはメジャーだよ♡じゃあまずランパちゃんは目を閉じてなりたい姿をイメージして〜」
「はい!」
ランパは、ワクワクと目を閉じてうーんと唸り始めた。すると、彼女の体はだんだん大きくなって毛深くなっていき……。
「おいおいデカすぎだろ」
スバルは冷や汗を流した。ユウジたちは、ランパの姿に、息を呑む。
この後、18メートルの巨大な犬になったランパに食われないように夢の中を逃げ回る、鬼ごっこが繰り広げられた。
想像しなければ痛くないとは聞いたが、ランパに半身を食いちぎられたユウジは、イメージの激痛で動けなくなった。
人肉の味を覚えたランパは、元に戻ったあとも、たまにユウジの腕を甘噛みする癖がついてしまったのだった。




