第68話 青春
ウィッチ・ド・サンの歴史に刻まれた天災、『黄金の雨』事件から2日。
ゴーレム祭りは中止になったことで、街からは人通りが消えて、静かになっていた。
祭りの露天も一斉に撤退したので、飛行船の出発までの時間を、観光して暇潰すこともできない。
そこで、ユウジたちは宿屋でボードゲームをして過ごした。
ウィッチ・ド・サン発祥のゲーム、「ポルゲート」。木製のボールと9つの金属ピン、青と緑柄のボードを扱う点取りゲーム。
4人対戦が可能だったので、みんなでお菓子や酒を飲み食いしながら楽しんでいた。
「イーツ。斜めのピンもーらい」
「あー見えてなかったです!スバルさんやりますね」
スバルは鈴音の所持してたピンを持ち上げる。これにより順位が変動して、スバルが1位となった。
「これで第4ゲームは終了です。僕は3位でした」
ユウジはふぅ、と背伸びをする。41点獲得だった。
一人負けしたのはランパ。悔し紛れに口いっぱいにお菓子をほおぼった。
「もぐもぐ……。次は勝ちます」
外は出られないわりに、それなりに充実していた。飽きたら寝たり、風呂に入ったりすればいい。
スバルは上機嫌にピンをつまんで初期配置にもどしていた。3つ目のピンを立てたところで、はっと思い出す。
「そういやユウジ、宿屋から聞いたんだが、もうすぐなんか客が来るらしいぞ」
「え?なんですそれ……ベコさんかな」
ユウジは首を傾げる。この街で知り合った人たちの中で、わざわざ会いに来るひとはあまり思いつかなかった。基本嫌われていたはずだった。
テロリストの男たちは律儀に自首したらしいが、門前払いされたらしい。兵たちは、いまは街に飛び散った金の回収に忙しく、たびたび現れる黄金の雨事件の自称主犯たちの相手をひとつひとつしてる暇などなかったのだ。
誰が会いに来るのか、想像を巡らせながら第5ゲームをやっていると、ひょっこりと宿屋の娘が顔を出した。
「お客さん来ましたよー通していいですか?」
「あっはいお願いしまーす」
「あ!ひと仕事終わったら後で私もそれ混ぜてください」
「いいですよ」
そうして、娘と入れ替わりで部屋に入ってきたのはフードを深々と被った女だった。
「……どちら様でしょう」
見覚えのない女に、ユウジは恐る恐る尋ねる。女は無言でフードを取り去り、整った顔を露わにした。
「ひゅー美人さん」
スバルが茶化す。ちなみにこの瞬間2つほどイカサマをして点数を入れ替えていた。
「どこかでお会いしました?」
「いや……初対面」
女はそれだけ言うと、じぃっとユウジの目を見た。
「えっと……」
「あなたが黄金の雨の主犯?」
女は……魔法研究者ソドムは、端的に尋ねた。彼女はこの二日間、人々から情報を集め、空中に一瞬純金のミントが浮かんでたという話を得た。
そして同時に、街中のゴーレムをミントで壊していた愉快犯の話も聞き、この二つを結びつけてユウジを探し出したのである。
ソドムの問いに、ユウジは首を振る。
「いや……僕はミント出しただけですよ」
ユウジからしたら、いきなり空でミントが黄金に変わったことのほうが意味不明な現象だった。
ソドムはその答えに、ふっと笑う。
「いや、それが聞けたら充分。お礼を言いにきただけ、ありがとう」
「は、はあ?」
自分勝手に納得してるソドムを、ユウジたちは不思議そうに見ていた。
鈴音は、この間に痛烈な一手を打ったが、気付いたのはランパだけだった。ほくそ笑む鈴音に対して、ランパは頭をかきむしる。
「よくわかんないですけど、この街では反感買いまくりだったので、ひとりにでも感謝されると悪い気はしないですね」
ユウジは、とりあえず礼だけ受け取ることにした。
「おいーユウジの番だぜ」
「あっ、はい」
ユウジは上の空でピンを動かす。それは神の一手だったのだが、低レベルな対戦相手同士においては、凡手としかならなかった。
「……じゃあね」
ソドムはフードを被り直し、去っていった。
これから彼女は仕事の研究に戻る。
青春の思い出ではなく、明日という現実を生きるために。
「はい、四ツ角とりです!」
「ぐわぁー!鈴音いつのまに仕掛けた!」
「ほらー!ユウジさんが変な手打つから防げなかったじゃないですか!」
「ありゃりゃ…ん?スバルさん点数おかしくないですか」
ソドムは背後から聞こえてくる楽しそうな会話に、懐かしさを感じた。
自分も昔はこんなふうに、仲間たちとあのゲームをして夜更かしをした。
休憩時間にでも、久しぶりに友人達に手紙でも書いてみようと心に決めた。
それからさらに2日後、ユウジたちは飛行船に乗船した。
空に浮かび、点のようになっていくウィッチ・ド・サン。BLTだけがいつまでも小さくならない。
「……そういえば行きの飛行船で、変な女の子がいたんですよ。ツインテールの子で」
「なあに?それ」
ユウジは、シアタールームで見知らぬ女の子に、意味深に『あなたとは縁があるかも』と囁かれたことを思い出した。
しかし、その女の子とは、ウィッチ・ド・サン滞在中、一度も会わなかった。降りた場所は同じというのに。
それを話すと、鈴音はつまらなそうに答えた。
「じゃあ縁がなかったってことじゃないですか?」
「……なるほど、たしかに」
「私たちとユウジさんの方がよっぽど縁があったってこと!さ、バイキングいこっ」
鈴音はユウジの腕を引っ張って食堂へ連れていった。
こうして、再びユウジたちは雲の上を渡って旅を続けるのだった。
なお余談だが、件のツインテールの女の子は、祭り初日に腹を壊して、一度たりとも外に出なかったという。今後もユウジたちが出会うことはないであろう。
ウィッチ・ド・サン編、完。




