第66話 ゴーレム大戦争
「大地礼賛し恵みを返還する…」
ソドムは一枚、また一枚と魔本のページをめくっていく。
呪文が終わりに近づくにつれて、虚無感が襲ってきた。
自分勝手な意志決定で、この町の歴史の生き証人であるBLTを、俗物的な金塊に変えること。
それは果たして、釣り合いが取れることなのだろうか。
一時の利益になっても、いつかは金塊も底をつく。
生命の樹を、物言わぬ鉱物へと変えるのは、自然への冒涜であるというのに、そこまでの行いをしたとしても、いつか栄華は終わりを告げる。
自分がいまからすることは、長い目で見ればただの愚行、無駄なことなのではないか。
こんなことをするより、これまで通り愚かな王に従い、ただの観光の目玉として守り、そして思い出の象徴として、BLTを見上げているくらいが、この国の人間には似合いなのではないか。
「その生命力を糧に、黄金へと姿を変えろ……」
ソドムの詠唱は、それでも止まらなかった。
「どうですかぁ?これが私の最高傑作ゴーレム!その名も『砂城の宴!!!」
高らかに宣言するベコ。その背後には、国中のゴーレムを引き寄せて融合してできた、巨大な人型ゴーレムが聳え立っていた。
頭部ははるか天上にあるため、見上げようとすると、太陽が眩しい。全長は計り知れないが100メートルもあるのかもしれなかった。
あまりの存在感に、ゴーレムの足元に立つユウジと鈴音は、ただ圧倒されていた。
「いやあ、なんか、あまりにでかいもの見ると……なんも言えないね」
「うん、ここまで来ると命の危険とか感じないね」
彼らの視界に入るのは、せいぜい、足から股間部分まで。ゴーレムというより、茶色い土の塔が聳え立ってるようだった。
対照的に、テンションの高いベコ。
大人しそうな第一印象からうって変わって、おそらくこの国の歴史上最大規模のゴーレムを作り出した偉業に、酔いしれていた。
「ふっふっふ!これで金賞は私のものですぅ!」
BLTに匹敵するほどのゴーレムは、いまや国のどこにいたとて、目に入るほどの巨大さを誇っていた。
爪を研いでいたランパも、剣をぎらつかせていたスバルも、町の騒ぎに気が付き、顔を上げる。
「なんだあれ…あれもゴーレムなのか?」
「誰が作ったんでしょう……イベント?」
いまや街では、ゴーレム破壊テロよりも、突如現れた超巨大ゴーレムの正体について、皆が話していた。
ユウジは、腕を組んで唸った。
「あの大きさになっちゃうと、ミントで瓦解させちゃうと、壊れる時に上から土の塊降ってきて、街に被害出ちゃうな」
「私が凍らせても、壊れたら上から氷の塊降ってきちゃうね……こんなちっちゃいのだったらいいのに」
鈴音は手のひらに息を吹く。すると小さな雪だるまができた。
雪だるまは、かわいらしく手のひらでくるくると回った。
「雪女ってそういうのもできるんだ……ん、そうだ」
ユウジは鈴音に耳打ちする。鈴音は、しばらく考えたのち、頷いた。
「時間を貰えばできるかも」
「やった、よし、おーい!ベコさーん!実はこっちにもっともっとすごいゴーレムがあるんですけど!」
ベコは、ピクんと眉を動かし、反応する。
「へぇー私の砂城の宴よりすごいんですかぁ?」
「はい!お時間いただければ、ベコさんのゴーレムをも破壊できます!」
「……ふうん」
ベコは、あからさまな挑発に口元を歪ませた。彼女はプライドの高い芸術家気質だった。同じ土俵で勝負されるのは、我慢ならなかった。
「いいですよぉ。見せてください」
「ありがとうございます」
30分ほどもらい、ユウジは大量にミントを作り出した。鈴音はミントが生み出されるたびにそれを凍らせ、整形する。
そしてできあがったのが、ミントを芯に作った、鈴音の氷製ゴーレムだった。
全長は50メートルほどの人型。ベコの砂城の宴の半分以下だったが、充分に巨大な氷の巨人ができあがった。
ユウジは胸をはる。
「どうです!ベコさん!これが俺たちの合作!えーと…『砂に勝つ(サンド・カツ)です!」
「えー命名権欲しかったな」
ぷぅ、とほおを膨らます鈴音。
ベコは、ワナワナと肩を震わせていた。
「馬鹿にしてるのぉ……?この日差しの強い国で、氷で作ったゴーレムの紛い物なんて……相性最悪じゃないのぉ」
ベコの指摘はもっともだった。
氷のゴーレムは、大きく造るほど、太陽に近づき、熱で溶けやすくなる。これ以上の大きさを保つのは難しかった。芯にミントを使い、補強したのも、その脆弱性を物語っている。
「……大丈夫かな」
鈴音が不安そうにしてると、ユウジは自信満々に頷いた。
「大丈夫。いま破壊できなくも、僕らのゴーレムのほうが優れてるって素直にベコさんに認めさせれば、話を聞いてもらえるよ」
「できるかな」
「任せて。ベコさん!どっちのゴーレムが優れてるか証明するために、戦わせませんか!?」
「ふーん?いいわよぉ。どうせ相手にならないしぃ」
ユウジは、「砂に勝つ(サンド・カツ)」に命令する。
「いけ!土人形をぶっつぶせ!」
氷の巨人は、砂の巨人に向かって体当たりをした。砂の巨人は微動だにしなかったが、その振動は地面を揺らす。
それを見て、ベコは素朴な疑問を口にする。
「……あなたたちのゴーレムってぇ。どうして動くのぉ?魔石使ってないでしょぉ」
「ああそれは、氷の中でミントを繁殖させてるんですよ。ミントが増えたら、そこを鈴音さんに凍らせてもらい、まるで動いてるかのようにしてるんです」
氷の巨人の操作は、ユウジのミントの繁殖力と、鈴音の細かな冷気操作ができる技だった。
氷の巨人は、果敢に体当たりするが、砂の巨人は全く動かない。たまに表面の砂が削れるくらいだった。
巨人ふたりの大戦争が展開され、街の人々は興味を持ちつつも、その巻き添えを喰らうことを恐れて、いまはみんな建物の中に避難していた。
観光地とは思えないほどに、街の道はガラガラだった。
そこへ、ユウジたちの元に、そもそもの元凶の爆破テロリスト(未遂)のふたり組の男がやってきた。
「おい、あんたらこりゃなんだ!なんでこんなことになってる!」
「いや、成り行きで」
「そんな成り行きがあるか!」
「でも見てくださいよ、ほら。この街いまガラガラですよ。あなたたちの願いも叶ったじゃないですか」
「………っそれはっ……そう、だが…」
男たちは、顔を見合わせた。自分達はこの状況を望んでいたのだろうか、と。
一方そのころ、スバルとランパは合流し、共に行動していた。
騒ぎの元凶はどうせユウジたちだろうと当たりをつけていたのだ。
「なぁ、ランパ。お前もユウジにやられたんだろ」
「ええ、なにか事情はあるのかもしれませんが気が治りません」
「じゃあ、一発……やるか!」
「スバルさん……乗りましたよ」
スバルとランパは、2人で高台へ行った。ここでは、ゴーレム祭りのフィナーレのために、花火を打ち上げる装置が置いてあった。
スバルは装置を調べて、仕組みを理解する。
「どうです?使えそうですか?」
「おうよ、職人たち花火玉ここに置いたまま、ゴーレム大戦争見て避難したみたいだ。パクっちまおうぜ」
ランパは、花火の打ち上げ台の方向を微調整した。スバルは、筒のなかに花火玉を詰め込む。
その射出口は、ゴーレム大戦争の方向に向かっている。
「これで、あいつらの楽しそうなゴーレム遊びをめちゃくちゃにするって寸法よ」
「私たちも楽しみを壊されましたからね、やっちゃいましょうよ」
花火玉を詰めて、遠くの目標に当てるために使う。まるで砲台だった。
スバルはファイアボールを使い、花火の導火線に点火する。
ジジジジジ……。
「きっしっしっし」「ふっふっふっふ」
スバルとランパは楽しそうに笑っていた。




