第63話 ゴーレムバトルトーナメント!
魔法局にて錬金術を研究する魔術師、ソドムは、このゴーレム祭りに合わせて、ウィッチ・ド・サンの周りに大きな魔法陣を仕込んでおいた。
あとは呪文を唱えるだけで発動できる、その状況まで持ってきたのである。
ソドムは祭りの喧騒から離れて、街一帯が見渡せる丘に来ていた。
深く被っていたフードをとり、精悍な顔立ちをあらわにする。
「ここは落ち着くな……」
BLTを中心に広がるこのウィッチ・ド・サン。ソドムは10の時からここで魔法を学んできていた。
かつては、仲間たちと魔法研究に勤しむ毎日だった。
純粋に新しい魔法を開発したり、より高度な術式を何週間もかけて編み込んだり。
ひたすらやりたい研究に没頭できた。
しかし王の代替わりによって転換された国の方針により、研究資金が削減されるようになってからはすっかり変わってしまった。
やりたい研究は予算申請してもやらせてもらえず、直接国の利益になるような研究しか承認が降りなくなっていったのだ。
ソドムの仲間たちは、国に愛想をつかせて去っていった。
ただしソドムは国を離れなかった。青春の思い出に彼女は囚われていたのだ。
またこの街が魔法研究に注力するようになれば、彼らは戻ってきてくれる、そう信じていた。
金にならない研究だけでは国を運営できない現実は理解している。
だからソドムは錬金術を専攻し、無限に金を生み出す方法について研究を始めた。
そして、2年前理論は完成した。
大量の魔力と生命力を糧に、黄金を生成する方法をついに完成させたのだ。
その舞台にふさわしかったのが、今日この日、ゴーレム祭り。必要な材料がすべて揃う絶好のチャンスだった。
ソドムは、魔力の篭ったたくさんのゴーレムを生贄とし、街に聳える巨大な樹木BLTを「黄金の木」に変えようとしているのだ。
「…………」
ソドムはBLTをしっかりと目に焼き付けた。
研究帰り学友たちと見上げた街のシンボルを黄金に変えてしまうこと。それは彼女の思い出のひとつを消すということ。
「……でも、最後まで街のみんなを守れたらあなたも本望でしょう?」
ソドムは、返ってくるはずのない問いを、BLTへ投げかけた。
バトルゴーレムトーナメント!
3日間にわけて行われるこの大会は、いま白熱の試合の真っ最中だった。
「いけ!ダークゴーレム!闇に包み込み終末のカーテンを下ろせ!」
プレイヤーがゴーレムに指示をだす。ダークゴーレムは体内から黒いモヤを噴出させて、対峙する相手のゴーレムを飲み込もうとした。
「きかん!ミラーゴーレム!鏡面の写身を破り散らせ!」
ミラーゴーレムは目の前に大きな鏡を出現させた。おそいくる闇のモヤは鏡に阻まれて、途切れてしまった。
『一進一退!優勝候補同士の潰し合いがこんなに序盤で起こってしまうとはー!』
「うおおお!」
観客のなかにいた女騎士、スバルは剣ではなく、券を片手に雄叫びをあげていた。
スバルはミラーゴーレムに賭けていた。
ゴーレムバトルトーナメントは、プレイヤーがゴーレムに指示をして、ゴーレム同士を試合させる。
ゴーレムの動きが止まる、場外へ出される、破壊されるなどしたら試合は終了。トーナメントを勝ち上がっていく。
試合に伴い、賭けも行われていて、スバルはこれが目当てだった。
「しゃあああ!ミラーゴーレムの勝ちだぁぁぁ!」
試合が決した時には、スバルはプレイヤーより大きな声で歓声をあげていた。
そんなふうに彼女なりにゴーレム祭りを楽しんでいたのだが、試合と試合のインターバルの間に、なにやら噂話が聞こえた。
「おい、聞いたか?ゴーレム壊しのうわさ」
「ああさっき聞いた。街中で他人のゴーレムを壊して回っているとんでもないやつらがいるんだろ?」
スバルは思わず振り抜いた。こんな熱いバトルを繰り広げてくれるゴーレムを壊すなんてとんでもないやつらがいたものだと、憤ったのだ。
「もしそんな奴らが現れたら私が切り刻んでやるぜ!あ、フレイムゴーレムが勝ちにひと口」
スバルは券を握ると、意気揚々と決闘場に向かった。
「うおーいけー!」
今回の試合は、スバルが賭けたフレイムゴーレムが大苦戦していた。スバルはいままでの勝ち分をつぎ込んだので、負けられてはかなり困る。
リングに乗り出さないように、と警備員に注意されるほど、スバルは熱心に応援していた。
『おおっと!フレイムゴーレムがスリップ!どこからどう見てもガラ空きだー!』
敵のゴーレムが止めの一撃を、思いっきり打ち込もうとしている。
「くそー!かわせー!お願いだー!」
スバルは強く券を握りしめて願った。
そのとき、フレイムゴーレムに向かって拳を伸ばしていた相手のゴーレムが、巨大な氷柱に貫かれた。
『なんだー!フレイムゴーレムの隠し技かー!?』
相手のゴーレムは、跡形もなくボロボロと崩れる。試合は決した。
「うおおお!?なんだ!?勝ち!?勝ったのか!?」
スバルは汗まみれの首を振りながら辺りを見渡した。
フレイムゴーレムの使い手はぽかーんと口を開けているが、レフェリーは告げる。
『勝者!フレイムゴーレム……!』
観客たちから一斉に雄叫びがあがる。番狂わせが起きたのだ!
「しゃあああ!10倍だあああ!」
スバルは興奮して飛び跳ねる。
しかし、次の瞬間。
フレイムゴーレムもまた爆散した。
「ええっ!?」
目を疑うスバル。フレイムゴーレムを形作っていた土の塊には、多数の緑色の点がついており、それはよく見ればあの植物だった。
「み、ミント……?ってことはまさか」
スバルは、リングの端に立っているヒョロイ男に気がつく。
「ユウジィー!!!」
呼びかけられたユウジは手を振る。
「あ、すみません、会場のゴーレムはいまからすべて壊しますんでよろしくお願いします」
「ああん!?」
そういうとユウジは、あたりにいるゴーレムに片っ端からミントを生やし、根を張り巡らせることで土の塊へと瓦解させていった。
『な、なんだー!?妨害かー!』
パニックになるトーナメント会場。これまで勝利を重ねてきた歴戦のゴーレムたちも、ユウジの前にはなすすべもなかった。
「…………」
スバルは、無言で受付に行く。
「あの、フレイムゴーレムに賭けてたんですけど」
受付のおじさんは邪険にあしらった。
「無効に決まってんでしょ妨害判明したんだから」
「…………」
スバルは、鞘から剣を抜いて、ユウジに特攻しにいった。
「死ぬにはいい日だなぁ!おい!」
ユウジは、首の皮一枚でなんとかトーナメント参加ゴーレムをすべて破壊しつつ、スバルから逃れられた。
「これ終わったら仲直りできるかな……?」
「たぶんね」
不安そうな鈴音に、ユウジは肩をすくめた。




