第61話 とぅえんてぃふぉー!
路地裏へヒラヒラと吸い込まれていく鈴音の着物の袖を見て、ユウジは急いで駆け込む。
人気のない路地裏、男2人はぜえぜえと肩で息をしていた。
鈴音はお気楽に、追ってきてくれたユウジに手を振った。
「やったー!助けに来てくれた!」
「はいはい……鈴音さんもしかして酔ってる?」
「ちっちゃい小瓶開けたくらい」
「いつのまに……」
完全にシラフというわけではないことにホッとするユウジ。もし酔いが覚めていながらあのような行為に及んだなら、破天荒すぎる。
テロリストの男たちはキッとユウジを睨みつける。
「なんなんだ!こいつはお前の女か!?」
「私服警備兵か!?そうなんだろ!」
ユウジは言い淀む。毎度のことだが、自分が何者かを問われると、明確な答えを用意できない。
ふと、鈴音が期待した眼差しを向けていることに気づく。ユウジは、察した。
「僕は姫を助けに来た王子様です」
「わかってる〜!」
鈴音はウンウン、と頷いた。満足していただけたらしい。
一方、おままごとに付き合わされた男たちはワナワナと震えている。
「ふざけるなよガキ!俺らが今日という日をどれほど……」
起爆スイッチをポケットから漁る男。しかし出てこない。
「あ、あれ……?」
鈴音は、手のひらを差し出し、粉々になった起爆スイッチを見せる。
「スイッチなら壊しちゃいましたよ」
「なんだとぉ!?」
絶叫する男。鈴音もなんだかんだコソコソとやることはやっていたようだった。
鈴音はてってって、と袖をなびかせながら、ユウジの元に戻る。
「はい、これで穏便にテロリストを制圧完了!私もやるでしょ?」
「さすが鈴音さん」
ユウジは素直に誉めておくことにした。男たちを見ると、計画が失敗したことに、悲痛な表情を浮かべている。
「なんてことをしてくれたんだ……」
「もう俺たちは終わりだ……」
話くらい聞いてやるか、とユウジは男2人に近づく。
「未遂ですからわざわざ通報したりはしませんよ。せっかくならお話しを……」
「ちっちがうんだ……」
よく見ると、男たちの顔は脂汗まみれだった。
「ほんとうに爆発させるつもりはなくて……脅しのつもりだったんだ……!この爆弾のスイッチを俺たちが持っていることが重要だったんだ……!」
「………?どういうことです?」
ユウジは男たちの様子のおかしさに首を傾げる。スイッチは壊した。それ以上になにかあるというのか。
男は白状する。
「あのスイッチは逆なんだ……!俺たちの間では起爆スイッチと呼んでいたが、実際は時限爆弾を『止める』ためのスイッチ……!ゴーレムに埋め込まれた爆弾は時限式で爆発する!!!」
「あと6時間以内に町中の爆弾ゴーレムを探し出して破壊しないと、たいへんなことになるぞ!」
男たちは頭を抱えてうずくまった。
ユウジと鈴音は顔を見合わせる。
「…………すみませんさすがに酔いが覚めました」
「あの、責める気はないから、でも手伝うから……責任は取ろうか」
「はい……」
こうして、ユウジと鈴音は楽しいゴーレム祭りのなかで、ゴーレムを破壊するクエストをこなすことになったのだった。
『俺たちは魔石の業者だった。ゴーレム祭りの期間、時限式爆弾の術式を書き込んだ魔石を流通させたんだ』
『つまりどのゴーレムに爆弾の術式が書き込まれているのかは俺たちにもわからない。片っ端から壊していくしかない』
ユウジたちはその話を聞いて、まず最初に昨日行った、BLT(Big Long Tree)下のゴーレム作り体験を思い出した。
あそこにはたくさんの魔石があった。おそらく爆弾の術式が書き込まれたものも混ざっているに違いない。
タイムリミットもある。ユウジたちは大急ぎでBLTに向かった。
体験テントでは、たくさんの子どもたちが楽しそうに泥をこねて、思い思いのゴーレムを作っていた。
今日は、先日いた長身女性、ベコさんはいなかった。
別の指導員の優しそうなおじさんが、子どもたちに作り方を教えていた。
ユウジは、おじさんの元へ駆け寄る。
「すみません!事情を話している時間は無いんですか、ここのテント跡形もなく破壊してもいいですか?」
ぽかんと口を開けるおじさん。耳を疑っている。
「い、いいわけが……」
「鈴音さん!いいって!」
おじさんの返答を待たずに、ユウジは鈴音にゴーサインを出す。鈴音は大きく息を吸い込んだ。
「ふぅーーー!!!」
冷たい吐息が辺りを包む。キラキラと結晶が宙にうかび、あっというまにテント内のゴーレムすべてと魔石は凍りついてしまった。
氷の中に閉じ込めてしまえば、爆発を封じ込められる。鈴音は魔石を使い物にならなくしたのだ。
「え…あ、ああ…うわーーーん!」「僕のゴーレム凍っちゃったよー!」「かわいいのできそうだったのにー!」
一斉に泣き出す子どもたち。
「なにやっとんじゃあ!?」
呆然としていたおじさんも、子どもたちの声で我に帰った。
鈴音は礼儀正しく頭を下げる。
「失礼しました!」
「よし!次行こう!」
ユウジは鈴音の手を引いてその場から全速力で去っていった。
おじさんの怒りの声と、子どもたちの泣き叫ぶ声を背に、ユウジたちは街をかける!




