第57話 飴上がり
「フルーツ飴ひとつください!」
スバルに肩車されて、高い位置から注文するランパ。
屋台の親父は、手を伸ばして飴を渡してくれた。
「あいよ、じゃんけんで俺に勝ったらもう一本サービスだけどどうする?」
「もちろん挑むぜこの屋台の飴全部かっさらってやるさ!」
土台のスバルが意気込む。親父は苦笑した。
「全部だって?はは、強欲なお嬢さんだ」
ランパは、スバルの頭をぺちんと叩く。
「勝ってももらえるのは1本ですってば」
へいへい、と叩かれた頭を撫でるスバル。しかし親父は、真剣な眼差しをして、拳を突き出した。
「……だが、悪くない。気に入った」
「は?」
「もし俺に勝てたら……ここの屋台の飴全部持っていきな」
親父は覚悟を決まった目をしていた。
その気迫に思わずスバルも息を飲む。
「な、なんだよ親父。なんだって急にそんなことを?」
「俺はこの街で露天商をしてもう20年経つ。創業当初から続けていたこのじゃんけんサービスをもう、極めてしまったんだ」
「じゃんけんを、極める……?」
訝しむランパ。じゃんけんなど、3択の手を出し合う運任せの勝負。運を極めることなどできない。しかし親父は決して冗談を言っているような雰囲気ではなっかった。
「お嬢ちゃん信じてないな、どれ、これはカウントしないから試しに一回どうだい」
「は、はあ」
ランパは疑いながら、じゃんけんぽん、の掛け声と共に、ぐーを出した。
親父の出した手は、パーだった。
「なんだと……」
スバルは後ずさる。親父はニヤリと笑った。
「じゃんけんってのは運じゃゃない。性格、心の動き、天気、湿度、ラッキーカラーなど複数の要素が複雑に絡み合っている。それら全てを総合的に判断することが重要なんだ」
得意げに語る親父を、ランパは白い目で見ていた。内心、ただの運だと思っていた。
一方でスバルは親父のじゃんけんの実力を認めているようだった。強者と対峙した時のように、体がこわばっていた。
スバルは尋ねる。
「……待て、私が勝ったらこの店の飴を全部もらえるんだな?じゃあ私が負けたらどうなる」
親父はしばし無言ののち、口を開いた。
「……そうだな、じゃあ有金を全部渡してもらおう。そして服を全部脱いでこの街を一周してもらおう。さらに俺の親戚の独身の男とお見合いしてもらおう。ついでに今日の店仕舞いまで店の手伝いと片付けを手伝ってもらおう」
スバルは頷く。
「なるほど、リスクとリターンはトントンと言ったところか」
「トントンでしたかね。やめましょうスバルさん。普通に一個だけ買って帰りましょうよこのおじさん変です」
ランパはスバルの頭をペシペシして、勝負を諦めさせようとするが、スバルの目は燃えていた。
「一応ルール確認する。じゃんけんぽんと同時に出した手で勝負する。それでいいな」
親父は拳を突き出した。
「何年じゃんけんやっていると思うんだ。さあ、やるぞ」
「フッ愚問だったか。恨みっこなしだぜ親父」
スバルは左手を突き出す。
「最初はぐー」
掛け声が始まる。ランパはこのバカな勝負に乗ってしまったスバルの愚かさに頭を抱えた。
裸で歩き回ることだけは、せめて勘弁してもらおう。そんなふうにランパが考えていると。
ゴンっ。
鈍い音が真下から聞こえた。
ランパは目の前の光景がなかなか現実として信じられなかった。
スバルは鞘のついたままの剣を、飴屋の親父の頭にぶつけて気絶させていたのだ。
「よしっと」
スバルは、気絶した親父の手をにぎにぎと形作り、パーを出させた。
「じゃんけんポイッと。はいチョキだから勝ち〜」
スバルは勝利のVサインを掲げると、屋台の中にある飴を、袋に詰め始めた。
ランパは、額から流れる汗が、鼻筋を伝った感覚で、正気を取り戻す。
「な、何してるんですか!」
「あん?勝ちは勝ちだろ」
スバルは無表情で飴を袋に入れ続ける。
ランパは彼女の行動が怖くなって泣いてしまった。王家に生まれても、冒険者として逞しくなりすぎると盗賊に落ちてしまうものなのだろうか、と。




