第53話 見送りと旅立ち
「……これは」
ヒイロは目の前に広がる光景に息を呑んだ。
「見ての通り、解決策は用意しました」
戦いの後、ユウジはヒイロをエルフたちが住む砂漠地帯に連れてきた。
エルフを追いやった首謀者である自分をそんなところに連れてきてどうするつもりかとヒイロは疑念を抱いていたが、見せられたものに納得がいった。
「これが君の能力か……」
「ええ、MINTのちからです」
ユウジはミントを繁殖させて、砂漠の一帯をミント畑にしたのだった。
一種類の植物だけによる強引な緑化であるが、以前より暮らしやすい場所になったのは明らかであった。
「獣人の方々はこの辺りにお家を建てて暮らせばいいと思います。エルフさんたちには許可を取りました」
エルフは、こくんと頷いた。
ヒイロはかつてこのあたりでは感じることのなかった、涼しい風に目を細める。
「何から何まで、君は平和な能力を手に入れたね羨ましいよ」
「ただのミントですよ」
ユウジは靴に生やしてしまっていたミントを摘んで捨てた。
ヒイロとピースは責任を取って、この国を去ることにしたという。
獣人とエルフの共存には、自分はむしろ邪魔だと身を引いたのだった。
「あとは彼らに任せるよ。きっとうまくいく。たぶん俺はそれを信じられていなかったんだ」
ヒイロはそう言って国を出て行った。
「またどこかで出会うことがあれば今度こそ敵ではなく味方であいたいね」
「ほんとに」
スバルはエルフたちからもらった袋いっぱいの宝を抱えて、ほくほく顔だった。
「いやあ私はいい仲間を持った。ランパご苦労様な」
「まったく面の皮の厚い…」
ランパはまんざらでもない様子だった。
鈴音はそろばんを弾く。
「旅費としては充分すぎるほど貰いましたね。換金するまで重い荷物になるのはネックですが、スバルさん頑張ってください」
「おいおい交代交代担ごうぜ?仲間だろ?」
スバルがだる絡みをしているところへ、ユウジが帰ってきた。
「ただいま。ヒイロさん見送ってたよ」
「あの人たちも根っからの悪人というわけではないですし、元気にやっていってほしいですね。……ユウジさんそれは?」
ランパは、ユウジが肩に担いでいた袋を指差す。スバルは身を乗り出す。
「なんだ?それも宝か?」
「違いますよ、でもエルフたちから貰ったものです」
ユウジは袋を開ける。その中に入っていたのは、木製のボウガンと矢筒だった。
「この先も旅を続けるなら武器の一つ持っておけって押し付けられちゃって。僕にはMINTがあるから大丈夫だと言ったんですけどね」
「へえ。いいんじゃね?便利そうだ。今度鳥が飛んでたら撃ち落としてくれよ」
「いきなり難易度高すぎますよ」
鈴音はボウガンをペタペタと触る。
「こういう弓もあるんだね」
「うん、普通の弓の構え方わからないって言ったらこれくれたんだ」
ランパも興味深そうに眺めていた。
「でもせっかくですからなにか撃っているところ見たいですね」
「そんな撃つものなんてそうない……」
ツリーハウスから顔を出し、木々を見渡す。
いま多くのツリーハウス群では、獣人とエルフの住居引き渡し作業が行われていた。
意外と喧嘩は起きていないのは、ヒイロが獣人たちの意見を誘導し、引っ越しを納得させたからである。
最後にヒイロはいい仕事をして去っていったのだった。
「あ、果物はっけん」
ユウジは5メートルほど離れた木に生えていた果物にボウガンの狙いを定めた。
光り輝いているうえに、表現しがたい、見たことない形の果物。
見た目から美味しいかは判断つかないが、欲しくなるような珍しさだった。
「ひゅーかっこいいぜ!」
「ユウジくんがんばってー」
「美味しい果物が食べたいです」
ユウジは乗せられて、カッコつけたような構えでボウガンを持ち、引き金を引いてみせた。
バシュッ。ビギナーズラックで、矢は見事に果物に当たり、地面に落下した。
「あちゃちゃ落ちちゃった」
「はっはっは!食えなきゃ意味ねえな!」
「あはは、ほんとですね」
和やかに笑い合うユウジたちだった。
その果物がエルフたちに取って「神の実」と呼ばれる1000年に一度のみ実る特別なものだったと判明したのは夕方ごろ。
ユウジたちは、矢の嵐に追われながら、エンベコピーを夜逃げしたのだった。
エンベコピー編完。




