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【異世界ミント無双】〜ミントテロで魔王倒します〜  作者: ぴとん
第四章 エンベコピー編
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第52話 これがミント無双

「ウサギは穴掘り名人なんだよ」


 ヒイロの言う通り、ピースは瞬く間にランパの周りにいくつもの穴を掘っていった。


 すべての穴は地中で繋がっているようで、穴から顔を出したり、引っ込めたりする姿は、まさにモグラ叩きゲームだった。


 初期位置から動かないまま固まるランパに、スバルが声をかける。


「ランパ!顔を出したらすぐ叩け!」


 ユウジもうんうん、と頷く。


「そうは言っても……」


「呼んだ?」


 ピースが穴から顔を出す。ランパはその穴まで駆け寄るが、爪が届く位置にきた頃にはすぐに引っこんでしまった。


 ランパは頬を膨らます。


「無理です!」


「じれったいですね……」


 鈴音はソワソワしていた。彼女ならばすべての穴に冷気を流せばそれで終わっていただろう。もどかしくなるのも無理はない。


「こっちだよー!」


 ぴょこぴょこと穴の中から耳を揺らすピース。ランパは漫画のようにムキーと叫んだ。


「これがウサギの戦い方ですか……」


 ヒイロは楽しそうなピースに手を振る。


「どうだい?牙のない草食動物も捨てたもんじゃないだろ?」


「ぐぬぬぬ、って感じです」


 ユウジは下唇を噛んで見せた。だが、そんなに焦ってはいない。ピースからランパへ加えられた攻撃自体はまだ一度もないからである。


「じゃあ、そろそろボディタッチいくよ!」


 ピースが親切にも攻撃の合図を出す。どこかの穴から聞こえた声。ランパはキョロキョロとどの穴からピースが出てくるか、注意深く見渡している。


 ランパの足元に影が多いかぶさる。


「後ろーーー」


 気配をすぐさま察知して、背後を振り向くランパ。その眼前には既に、ピースの健脚が伸びてきていた。


「吹っ飛んじゃえ!」


 ランパの腹に、ピースの足がめり込む。鈍重さを腹に感じたのもほんの束の間、まるで背中をゴムで引っ張られたかのように、ランパの体は後方に吹っ飛んだ。


「っっっ!」


 意識よりも先に、体が移動する妙な感覚。ランパは無重力空間に投げ出されたかのように、身動き取れないまま空中を舞う。


 そして、突然その空の旅は終わりを迎える。終点、木の幹がランパの体を受け止めたのだ。体腔から空気が押し出され、口から出ていく。遅れてじんわり、そして激しく全身に痛みが走る。


「ううう……」


 うめき声が漏れるランパ。


「大丈夫ー?降参する?」


 遠くから、声を張り上げるピース。彼女は、先ほどまでランパがいたところに立っていた。一瞬で2人の距離は大きく離されたのだった。


「骨折れてねえか!?」「ゆっくり、ゆっくり立ち上がってくださいね!」


 スバルと鈴音が、心配して声をかける。ランパは片目を瞑りながら、少しずつ起き上がっていった。


「頑丈な子だね、さすが獣人だ。でも、俺のUNCHAINを受け入れて入れば、もっとダメージを軽減できたろうに」


 数日前、ユウジたちは初対面のヒイロに、UNCHAINによって潜在能力を解放しないか、と提案されていた。しかし、それをユウジは断ったのだった。


「どうしてあの時断ったんだい?君たちに不利益なんてない提案だったのに」


「……だって、怖いんですもん。能力発動時のエフェクトっていうか……。狼の口の中に入るのって、怖すぎません?」


 ユウジは至極普通の感性で、パワーアップの誘いを断ったのだった。


「それに、潜在能力ってことは、これから強くなっていけば、開花するものなんでしょう?怖い思いして裏技スキップしなくてもいいかなって」


「……真面目だねえ」


 ヒイロは目を細めた。


 立ち上がったランパは、弱々しく両手を構えた。


 ピースは察する。次の一撃で、勝負は決まると。しかし、ランパがカウンターを狙っている可能性もある。それゆえ、ピースは自分からは近づかず、ランパがジリジリと、ピースの元に戻ってくるのを待った。


「おかえりなさいっ」


「お待たせしました」


 ランパは律儀に頭を下げる。ピースは頷くと、足を後ろに引いた。トドメを刺される覚悟があると、受け取ったのだ。


 ピースの蹴りは、馬の獣人ほど強くはない。しかし、潜在能力を解放された今、その威力は跳ね上がり、雄馬を越える蹴りを放てるようになっている。


 うっかり、ランパを殺さないように、手加減しなければいけない。ピースはこのくらいの勢いがちょうどいいか、と調整して蹴りを放つ。


「おやすみ、ランパちゃん」


 ランパは迫る蹴りに対して、無防備に受けた。


「うおお!?ランパー!」


 スバルが思わず叫ぶ。ランパの体は今度は上空に高く飛び上がったのだ。鈴音はすっかり青ざめた。


 エルフは目を伏せる。ここまでか。代理の者に大事な勝負を任せたのだ。甘んじて結果を受け入れよう、と心の整理を始めた。


 ヒイロは、チラリとユウジに視線を移す。勝負が決まったことを確認するために。しかし、ユウジは表情を崩していなかった。それどころか、どこか余裕そうである。


「……?」

 

 ヒイロの胸がざわめく。経験上、敵がこのような反応をするときは、なにかがある。彼がいままで異世界で生きてきて、何度も味わってきた。


 厄介な敵ーーー。


 ランパが空から降ってきた。大きな衝突音とともに、地面に全身を打ち付ける。受け身すらとっていない。


 普通なら、大きなダメージである。二度の蹴りに、立ち上がることはできない。


 そのはずなのに。


「いたたた…」


 ランパは、ゆっくりと立ち上がった。


「………!?」


 困惑するピース。手加減しすぎた?いや、そんなことはない。充分な威力だったはずである。


「どういうことかな」


 ヒイロは苦笑いで尋ねる。ユウジはあっさりと種明かしをする。


「背中のアレですよ」


 ユウジはランパの背中を指差す。そこには目を凝らさないとわからないほど小さな緑の点があった。


 たった一株のミント。ランパの背中には、試合前にユウジが生やしたそれがあった。


「ミントには治癒効果がありますからね」


 ヒイロはしばらくその言葉を噛み砕く。……そして首を傾げる。


「……ミントってそんなに効くものだっけ?」


「がおー」


 ランパはすっかり元気そうに、爪を掲げてピースを威嚇した。


 ユウジは、クラーケンを倒したときにこれまでにない量のミントを生成した。そのかいあって、彼の能力MINTは一段性能が上がったのだった。




 ユニークスキル名【MINT】

・ミントはスキル所持者のレベルによってその性質が強化される。

(例 繁殖力、香り、薬効など



 これによりミントの治癒力が強化され、ミントをからだに宿した者は、多少のダメージならばすぐに回復するほどになったのだ。



 ピースは冷や汗を垂らしながら、ヒイロの方を見る。もっと本気を出してよいのか、と。


 ヒイロは小さく頷く。敵が耐久型ならば、倒し切るまでやる。それが彼らのやり方であった。


 ピースは再び大きく溜めを作り、蹴りを放つ。目が慣れてきたのか、今度はランパも腕を十字にしてそれを防ぐ。


「すごいですユウジさん。全然疲れないです!……でもやっぱ打撃受ける瞬間は痛いですねこれ」


 ユウジはサムズアップを見せた。


 ピースは焦っていた。


 ヒイロのUNCAINは肉体の潜在能力を解放する。これは言い換えれば普段肉体がセーブをかけている鎖を無理やり引きちぎるのである。

 

 もし、肉体が筋肉の断裂などを無視して稼働すれば、もちろん威力はあがる。だが、その代償は大きく、限界を迎えた四肢はいずれ機能しなくなる。


 ヒイロが今回戦いの場に出なかったのも、それが理由である。数日前、ユウジたちにこの能力を披露した際、腕がすでに限界を迎えていたのである。


 ピースが放てる高威力の蹴りも、あと数回がいいところだった。なるべく最短で倒せるよう、急所に狙いを定める。


「はぁ!」


 ピースは勢いよく蹴りを放つ。しかしこめかみに脚が届く前に、ランパはそれを止める。


「重いですが……先ほどよりキレが落ちてきましたね」

 

「………っ!」


 ランパはミントでほぼ無限に体力を回復する。


 一方、ピースには限界が迫ってきている。


 この勝負はもう決したも同然だった。


 それから何度かの攻防ののち、ピースが膝をついた。


 もう立っていることすらできないほどに、脚を酷使したのである。


「そんな……まさか……」


 一方でランパは清々しいほどに無傷であった。申し訳なさそうに、エルフの方を見る。


 エルフは、頷く。


「決着、でいいな?ヒイロ」


「……ああ、完敗だ。まさかミントで無双されるなんて夢にも思わなかったよ」


 ヒイロは天を仰いだ。


「勝者、ランパ!」


 エルフの声に、ランパは「やりました」とピースサインを出した。

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