第50話 対峙
「あなたがエルフですか。よろしくお願いします」
ユウジが握手を求めると、エルフは躊躇いつつもその手を握った。
「よろしく頼む。それで……大丈夫なのか?あの子で」
エルフは心配そうにランパを見た。幼い子供の、しかも獣人である。彼女が信頼たり得るのか、エルフには確証が得られなかった。
「我々は獣人を追い出すための運動をしているのだぞ。気に障ったらすまないが、それに旅の者とはいえ、獣人を駆り出すというのはどうなのだ」
反獣人のエルフ側の代表者が、獣人。それは傍から見ればちぐはぐなことだった。
「私も止めたんだけどな。そんなことしたら他の獣人に仲間外れにされちゃうぞって」
スバルか鈴音が代表で戦おうと言った時に、ランパは自ら挙手した。
もしランパが勝ってしまったら、否勝負の場に出てしまった時点で、彼女はどこにも味方がいない「コウモリ」になってしまう。
獣人からは裏切り者と呼ばれ、エルフからも仲間を裏切ってこちらへついたと蔑まれるだろう。
しかしランパは、なにも気にしていないようであった。
「別にこの国の誰に嫌われようがいいですよ。どうせここに私の親族はいないことがわかりましたから」
「ドライなヤツだなぁ」
スバルはランパの頭を撫でる。強がりはバレバレだった。ランパはフン、と鼻を鳴らした。
ランパはエンベコピーを探し回ったが、両親の手がかりはなにひとつ見つからなかった。
孤独を改めて思い知らされたショックは計り知れず、自暴自棄になってもおかしくない。
もしそうなら、ユウジたちはランパが戦うのを止めただろう。しかし、彼女が立候補した理由はもっと前向きなものだった。
「気づいたんですよ。いまの守るべき私の家族は、ユウジさんたちだって。だから私はこのパーティのために戦います」
「ランパ……」
あまりに嬉しい言葉に、ユウジも涙がこぼれそうになる。
ランパは、もう居場所を見つけていたのだった。これからは、孤独に打ちひしがれることはないのだ。
スバルと鈴音もうるりと来たようで、目頭を覆っている。
「ランパ、ずっと一緒にいるからな……!」
「ほんとに、ほんとにいい子……」
エルフは急に泣き出したユウジたちに囲まれて、居心地が悪かった。
「……そこまで仲間から信頼されてるなら構わん。お前に任せたぞ」
ランパは胸を叩いた。
「任せてください!報酬はたっぷりいただきますよ!」
スバルはウおんと泣いた。
「たくましい子に育って……!」
「あなたは少し反省してください」
スバルは、鈴音にツッコまれた。
ヒイロに指定された勝負の場は、薄暗い森の深部だった。観客は誰もいない。勝負の結果はごく限られた者しか知らないことになるのだ。
ユウジたちが到着すると、切り株に座っていたヒイロが手を振った。
「やあユウジくん。それとエルフさんもこんにちは。今日はよろしくね」
エルフは憎悪のこもった目でヒイロを見た。物腰柔らかなヒイロだが、彼はエルフたちにひどいことをしたのだ。
しかしユウジにはまだそれが信じられなかった。
「まさかヒイロさんと戦うことになるとは思いませんでした」
「ああ、そうだねまったくだよ代表戦には君が出るのかい?」
「いえ、この子ランパが出ます。……あの勝負の前に聞きたいんですけどいいですか?」
「どうぞ」
「どうしてヒイロさんはエルたちを森から追い出したんです?」
ヒイロは即答した。
「仕方なかったんだよ」
「仕方なかった……?」
エルフが拳を握りしめる。いまにも飛びかかりそうだったので、スバルはエルフの背後に回り込み、いつでも止められるようにする。
ヒイロは続ける。
「獣人とエルフでは文化が似てるようで違いすぎた。あのまま共生していれば、いつか大きな衝突が起こったろう。だから争いが起きる前にその芽をつんだんだ」
「でもエルフを追い出すほどの交渉術があるならヒイロさんには、争いの回避も可能だったのではないですか?」
ユウジが詰めると、ヒイロは首を振った。
「俺が死んだ後も、国は続くんだよ。もし俺がいなくなったら、獣人たちはまた路頭に迷う」
「……………」
「奴隷を解放した責任は、ちゃんと俺が取らなきゃいけないんだ」
ヒイロは立ち上がった。
「エルフたちを侵略する形になってしまったが、こちらにも譲れない事情はある。それじゃ、うちから選出した戦士を紹介するよ」
パチンと指を鳴らすヒイロ。茂みの中で待機していた代表戦士が姿を現す。
スバルは鈴音に耳打ちした。
「なんだよヒイロが戦うんじゃないならユウジ出せばよかったな……なあ、この展開、ランパの姉とかが出てくるんじゃねーの?」
「そんなさすがに……悪趣味すぎますよそしたら」
ヒイロが選んだ戦士が前に出る。
「あ、あなたは!」
ランパは見覚えのあるその人物に、声をあげる。
ヒイロは紹介した。
「うちからの代表戦士、ウサギの獣人ピースだ」
そこにいたのは、エンベコピーに来た時、ヒイロの世話をしていたウサギの獣人だった。
「よろしくお願いします!」
ピースと紹介された彼女は、頭を下げた。
長いウサギ耳がびよよんと揺れた。




