第49話 対立!
「やあ、観光でもしていたのかい?留守にしていたから、果物はハウスの中に置いておいたよ」
寝床のツリーハウスまであと少しというところで、ユウジとランパはヒイロにバッタリと会った。
「果物届けてくれたんですか?ありがとうございます。昨日のも美味しかったです」
「それはよかった」
ヒイロは柔和な表情を見せる。優しい彼のことをユウジは信用していた。
「実は今日一日私の家族を知る人がいないかを探していたんです、幼い頃に生き別れてしまって…」
ランパは打ち明ける。ヒイロも犬科の獣人である。なにかを知っているかもしれないと思ったのだ。
しかしヒイロは困ったような顔をした。
「ごめんねランパちゃん、言いにくいんだけど……。俺はエンベコピーの獣人のことを事細かに知っている。だけど犬科の獣人で娘と生き別れたってひとはこの国に1人もいないよ」
「ひ、ひとりもですか?」
「ああ、奴隷として売られるときは家族セットだったりしてね。一応、犬科だと息子と生き別れになったひとはいるね。あと猫とクジラの獣人で娘と離れ離れになった話は聞いたところはある」
「そんな……」
少なからずショックを受けるランパ。かける言葉が見つからなかったユウジは、ランパの手をぎゅっと握った。
ユウジはヒイロに尋ねる。
「この国の獣人さんたちはどこから集まってきたんですか?」
「主に東からだね。君たちが来た方向からだ。まだ西は未探索だから、もしいるとしたらそっちの方かもしれないね」
「……見つかりますかね」
ランパは弱気になってしまった。希望が消えかかり、意気消沈だった。
「無責任に絶対見つかるとは言えない。言えないけど……いつか出会えるはずだよ」
「そう、ですかね……」
しょんぼりと耳が倒れるランパ。そこでヒイロは提案する。
「もしよかったらエンベコピーに残らないかい?」
「え」
ユウジの口から声が漏れる。
「いまやエンベコピーは獣人国家として名高い。世界中から獣人を呼び寄せてくれる。この国で待ってる方が会える確率は高いんじゃないか」
「……一理ありますね」
ヒイロの案に小さく頷くランパ。ユウジはソワソワとランパをチラ見していた。
「まあそういう選択肢もあるって話さ。うちはいつでも歓迎するよ」
「………」
ランパは深く考えこむ素振りを見せた。ついユウジは、彼女の手をぎゅっと握ってしまった。
そのとき。
風を切る音とともに、一本の矢がヒイロとユウジたちの間に飛んできた。
地面に突き刺さったその矢の尻には、紙が結び付けられていた。
やれやれ、とヒイロがしゃがみ込み、手紙に目を通す。
「また彼らか。すまない用事ができた。ここで失礼させてもらうよ」
「?はい」
ヒイロは頭をかきながら帰っていった。
陽が沈んだころ、スバルと鈴音が寝床に帰ってきた。
「ただいまー!」
「ただいま戻りました」
鈴音はげんなりした表情、スバルは上機嫌と対照的だった。
「なにかあったんですか?」
ユウジが尋ねると、鈴音はため息と共に事情を話し始めた。
「実は……」
話を聞いたユウジは顔をしかめた。
「エルフか……。まさかヒイロさんがそんなことを……」
エルフの要求はこうだった。ヒイロ含む獣人全員の森からの撤退。
エンベコピーという国を丸ごと返せと言っているのである。
「共存という道はないのですか?」
ランパが尋ねると、鈴音は首を振った。
「エルフは獣人にかなりの敵意を持っていましたからね。妥協は出来なさそうでした」
難民生活を送るエルフたち。彼女たちの生活は苦しく、早くに改善しなければ、不満が爆発して、獣人との全面戦争もあり得るとのことだった。
「むしろよく堪えてるほうだぜ。私なら即戦争だな」
果物にかぶりつきながら、スバルはのんきに言う。
「で、スバルさんはこの件に関してなにを引き受けたんですか?」
「引き受けたのは私たち、な?協力しようぜ。お宝は山分けだ」
「……いい性格してますね」
「エルフから頼まれたのは、タイマン勝負の代理人だ」
ニッと笑うスバル。
「どういうことです?」
「エルフは以前からヒイロに対してこの土地を明け渡すように要求していた。だけどヒイロのやろーは血を流したくないとかでのらりくらりと逃げていた。
そこでエルフからこんな案が出されたんだ。
互いの陣営から代表をひとり選出して戦わせて、勝った方が所属する陣営がエンベコピーを統治するのはどうだってな」
代表同士のタイマン勝負。たしかにそれならば流れる血はごく僅かですむ。
ユウジは先ほどの矢文を思いだす。あそこにはおそらくこのことが書いていたのだろう。
「スマートな方法ですけど、それヒイロさんは呑んだんですか?」
「ああ、呑んだらしい。あっちとしても乗っ取りの大義名分が欲しいんだろう」
「それで……僕らはその件に関してなにをするって言うんです?」
話の流れから嫌な予感はしていたが、ユウジは尋ねた。するとスバルは彼の肩をポンポンと叩いた。
「つーわけで、エルフ側の代表、ユウジよろしくな?」
「そりゃないですよ……」
「ごめんねユウジくん、スバルさんのこと止め切れなくて…」
鈴音は申し訳なさそうにした。
エルフは集団で狩りをする民族である。一対一の戦闘にはあまり慣れていない。
全面戦争を回避し、エルフに不利な勝負を仕掛けさせたヒイロの政治的手腕は、優れたものだった。
「行けるだろユウジなら!お前のミント能力があればどんなやつだろーが瞬殺よ!」
「ちょっと待ってくださいよ……ヒイロさんが代表として出てきたらどうするんですか。あの人のUNCAINは僕のMINTのメタ能力みたいなもんですよ」
もしユウジがヒイロが戦ったら、いくら彼の体をミントだらけにしたところで、それを拘束と見做して解除されてしまう。
ユウジにとってヒイロは唯一と言っていい天敵であった。
「能力が効かないからって腕っぷし勝負になったら、僕もう勝てませんよ」
スバルは腕を組んで宙を見上げた。
「誤算だな」
「どうするんですか、エルフたちから恨まれたら……」
鈴音は唸る。
「うー、仕方ありません、スバルさんか私が責任をとって出ますか……。クラーケンのときは理由がありましたけどあんまり魔王四天王同士で戦いたくないんですけど」
「くそー楽して稼げると思ったのに!」
スバルが頭をワシワシとかいていると、ランパが手を上げた。
「あのー」
一堂の視線がランパに集まる。
「私が戦いましょうか?」




