第46話 耳すま
「おっ見てみろよあれ!バザーやってるぜ」
「ほんとですねぇ見てみましょうか」
太陽が真上に来た頃、ようやく活動を開始したスバルは、鈴音とともにエンベコピーを当てもなくフラフラと歩いていた。
商品が並ぶツリーハウスに登ると、ちらりと数人の獣人の視線に晒されたが、彼らも楽しい買い物に夢中だったので、すぐに目を背けられた。
並んでいたのは木工の食器や、木のおもちゃ、またぬいぐるみなどもあった。
「うぉフカフカしてる!これ獣人の毛玉集めて作ったのか?」
ネズミの獣人は、目を細めてこくりと頷いた。
このツリーハウスの上はスペースが広く、いくつかの露店が広げられていた。他にも石を繋げ合わせたアクセサリーや、果物なども並んでいた。
「手先が器用な方々がいるのですね」
鈴音が感心すると、ネズミ獣人はすこしモゴモゴした。
「ま、まあそういう奴もいるさ。俺は売るだけだからな」
「…………?」
不思議な反応に首を傾げる鈴音。
ザワザワ!
そのとき頭上の木々が大きくざわめいた。獣人たちが皆一斉に顔を上げる。
「お?お?なんだ?どうした?」
ぬいぐるみをフニフニしていたスバルは反応が出遅れて、明後日にキョロキョロしている。一方鈴音は、獣人に負けない反射神経で、その音の正体を捉えた。
「ヒト……いやあの長い耳は……」
人影はすぐに消えた。獣人たちはしばらく警戒して毛を逆立てていたが、気配が遠くに消えたからか、また買い物に戻った。
「チッこんな楽しい日にアレが来るなんて興醒めだな」「物騒よねぇ」「野蛮な奴らだ」
獣人たちは口々に文句を唱えていた。
「なんだぁ?街の嫌われ者でもいたのか?」
スバルは首を傾げている。
「……………まさか、そういうことですか」
鈴音は目の前に並ぶ精巧な木のおもちゃを見て、平和のない世界に少々ゲンナリとした。
「おい鈴音ーどこ行くんだよ」
鈴音はスバルを引っ張り、どこかへ向けて歩き始めた。
「人が少なく、でも開けた場所です。なるべく気を張っていてください。遠くからずっと監視されてます」
「えー気配わかんね。なんで私らのこと見られてんの?」
ツリーハウス郡から離れた、鬱蒼とした林に入った鈴音は止まらずにずかずかと歩く。そして、ぽっかりと木が生えていない広場のような空間にたどり着く。
足を止めた鈴音は腰に手を当てて声を張り上げた。
「こちらから手出しをするつもりはありません!出てきてください!話し合いをしましょう!」
風に枝葉が揺れる音のみが響く。
「なんも出てこねーな」
しかし直後、遠方から次第にスバルたちのいる方向へ向けて木々が揺れる。なにかが枝を飛び移りながらこちらに迫ってきている。
さすがにここまで来るとスバルもその正体がわかった。
「へぇーこんなところにいるもんなのか珍しい。私に劣らない金髪じゃないか」
ガササっ!スバルたちのすぐ手前の木の枝に、人影が立った。
その影の正体とは……。
「やはり、エルフでしたか」
鈴音はため息をついた。
美しいエルフが木の上から、スバルたちを見下ろしていた。
金色の髪を後ろでひと束に結ぶ高身長の女性。目はキリリっとしており背中には矢筒、手には弓を持っている。
「なんで獣人の国にエルフがいるんだ?」
スバルが疑問を口にすると、エルフはキッ!と睨みつけてきて矢に手をかけた。
「ちょ!ちょっと待ってください!まずはお話ししましょう!私たちはあなたの事情をまだ知らないのです」
鈴音が大声で叫ぶと、エルフも口を結んだまま、静かに矢から手を離した。
「なんなんだよいったい。気性が荒いエルフだな」
スバルは憤慨していたが、鈴音には予想がついていた。なぜ彼女が怒ったのか。
エルフは、スバルたちを睨みつけながら言い放った。
「汝らには我についてきてもらう。もし逆らえばすぐさまその心臓を撃ち抜こう」
「………ここは大人しく従いましょうスバルさん」
鈴音は、恐る恐るスバルを見たが、案外その顔は楽しそうだった。
「おうよ、なんだか面白そうなことに巻き込まれたぜ」
「……楽しそうなら何よりです」
鈴音は気持ちを切り替えた。このパーティと旅をする以上、厄介ごとにストレスを溜めていてはキリがない。
自分もなるべく困難を楽しめるようになろう、とスバルを見習うこととした鈴音であった。




