第43話 ツリーハウスフレンズ
獣人とは、獣の性質と人間の性質を併せ持った種族である。
一括りに獣人と言っても、その種族は多様で、彼らは多種多様な獣の特徴を持っており、また獣化している範囲もさまざまである。
エンベコピーの門の前に着き、ユウジらは巨大な槍を持つふたりの門番に話しかけた。
ひとりはワニの獣人、もうひとりはカバである。屈強な体つきをしており、威圧感を纏っていた。
「こんにちは、旅のものなのですが入国したいです」
ワニの獣人は、ギョロリと丸い目を動かした。
「なにか身分証明書はあるか?」
ユウジは冒険者証を差し出す。ワニは、ふむ、とそれを眺める。
「犯罪者か。ずいぶん遠いところまで逃げてきたんだな」
「へへ、すみません」
ユウジはしたてに出た。ワニは冒険者証を返すと、くいっと首を動かした。
「問題ない、入れ」
「ええ?いいんですか?」
これまでになくあっさり入国許可が出たので拍子抜けするユウジ。
「ああ、犯罪歴はあるが、指名手配が取り消されているしな。お前、この国にコネでもあるのか?」
「え?まじで?」
スバルは、ユウジの冒険証を覗き込む。するといつのまにか内容が更新されており、たしかに指名手配の旨が消えていた。
「えーなんでだ?王が許すわけないし……だとすると妹か?気の利くことしてくれるなぁ」
「スバルさんの妹?」
「ああ、リズマリーっつーんだけど、いやー姉の旅路をサポートしてくれるとはできた妹だわ」
スバルは自慢げに話した。リズマリーは王位継承権を持っており、このような取計らいができるのは彼女くらいだそうだ。
「なにはともあれよかったですねユウジさん。これからはただの前科者です」
「うーんせっかくなら犯罪歴ごと消してほしかった」
エンベコピーの門は、たくさんの丸太が積み重なった木製だった。門をくぐるときに木の匂いがほのかに香ってきた。
門からしばらく歩いたところ現れたのは、木々が茂る林だった。
木々は等間隔に植えられており、見上げると小屋のようなものが枝の間に作られている。
「ツリーハウスってやつか」
日差しに目を細めるスバル。
木の上の小屋のなかでは、小さなこどもの獣人が果物を齧っており、奥には洗濯物を畳んでいる母親の獣人がいた。
「あれは……猫耳?あっちは熊の耳かな?いろんな獣人さんがいるんですねぇ」
鈴音が木々を見渡して言った。木々の上には多くの小屋が作られており、地上から浮いたところに生活が形成されている。
ランパは、目を輝かせていた。自分の仲間が見渡す限りにいる光景を、初めて見たのだった。
ユウジは、浮き足立つランパの頭を撫でた。
「親族とかいたらいいね。さて、まずは宿探そうか」
4人は木々の下を歩いていく。たまに地上を歩く獣人ともすれ違い、頭を下げて挨拶などをしたが、獣人たちの反応は決まって沈黙しながらこちらの顔を凝視してくるだけだった。
「獣人以外の人間が珍しいんですかね」
「まー浮くわな。ランパ〜耳か尻尾かしてくれよ」
しばらく木々の間を歩いていくと、開けた場所に出て、大きなウッドハウスが現れた。
これは木の上ではなく、地上に建っていた。看板には『案内所』と書かれている。
「ここに聞けば宿屋知ってるか」
ユウジは、ウッドハウスの扉をコンコン、と叩く。すると、ギィと扉が開き、ウサギ耳の獣人が現れた。
「にょわ!耳がない!?取れちゃいましたか!?」
ウサギ耳獣人は、びっくりしたような顔をした。
「いえ、獣人ではないので。旅の者です」
ユウジが訂正すると、ウサギ耳の獣人ははえーと感嘆の声をあげた。
「獣人以外の種族の方なんて久しく見てないからびっくりしました。えぇと、どうしてこの国に?」
どうして、と言われると明確な理由が難しい。ユウジが返事をしかねていると、鈴音が前に出た。
「この国に魔王四天王さんはいらっしゃいますか?お会いしたいのですが」
ウサギ耳がピョコッと立ち上がる。
「あーヒイロさんのことですね!お知り合いですか!ここに居ますよ!お入りしてお待ちください!」
ぴょんぴょんとスキップで奥に消えるウサギ耳。
ユウジたちはウッドハウスの中に入り、木製テーブルに腰をかけて待つことにした。
数分後、ウサギ耳がひとりの男を連れてきた。天然パーマの頭には犬科の耳が生えている。長身だが背筋が悪く、さらに痩せ型で、まるで折れた棒のようだった。
細い目は起きているのか寝ているのか判断がつかず、全体的に気だるげな雰囲気を纏っている。
「こちらがヒイロさんです!」
「あっす、ども……」
乾いた声で、ヒイロと紹介された男は挨拶をした。
「こんにちは、あなたが魔王四天王の…?」
鈴音の問いに、ヒイロは頷いた。
「ヒイロっす。あ……もしかして君鈴音さん?雪女の。新しく魔王四天王なったんだって?よろしくね」
ヒイロという男には、まったく覇気がなかった。一応獣人だが、ヒョロく、戦えるような見た目ではない。
「はい、新しく就任しましたのでご挨拶にと。こちら手土産のミントクッキーです」
鈴音はミントを練り込んだクッキーを差し出した。宝籠省を出る前に作っていたのだ。
「おりゃ、これはありがとう。ちょうどお茶の時間だ。コーヒーでも飲もう」
ヒイロはウサギ耳の獣人にお湯を沸かすように頼んだ。
「俺はエンベコピーの若い衆のリーダーのひとりというか……政治家?みたいな立場なんだよ。国の方針を決めるときに会議に出席して、一意見を申すみたいな」
「……失礼ながらクラーケンさんと比べると、落ち着いた立場ですね」
「あいつは裏の王だっけ。権力は持ちすぎると大変だからね。このくらいがいいんだ」
ウサギ耳がコーヒーを配る。ごゆっくり、と頭を下げると耳がユウジの鼻にばしん、と当たった。
ヒイロはコーヒーを一口飲む。
「しばらくこの国に滞在するつもりかな?泊まるなら、東の方に空き家があるからそこを使うといいよ」
「お気遣いありがとうございます」
「ところで、そちらのお連れの方々は?旅のお仲間かな」
「ええ、そんなものです。実はここだけの話、ユウジさんは転生者で魔王様を倒しに行こうとしてるんですよ」
鈴音の発言に、ユウジは慌てる。
「ちょ、ちょっと鈴音さん。そんなこと言っていいんですか?」
「あれ?ダメだった?」
キョトンとする鈴音。彼女はユウジに対して寛容すぎて、彼が敵対勢力である意識が薄かった。
ヒイロはそのやりとりに苦笑する。
「はは、そりゃすごいや。まあ僕は魔王様に会いに行くのは止めないよ。君と戦うつもりもない。好きにすればいいさ」
「は、はぁ……そうですか?」
「うん、なんたって俺はもともと君と同じような立場だったからね」
「……?どういう意味ですか?」
ヒイロは、ミントクッキーを齧って飲み込む。
「おいしいねこれ。ミントクッキーなんて向こうでも食べなかったよ。
………何を隠そう実は俺も、転生者なんだ」
「え」
ヒイロの言葉に、ユウジたちは固まった。




