第42話 幽霊列車
4人は日差しが降り注ぐ中、レールの上を歩いていた。
辺り一面は荒野。建物ひとつない。
ずっと変わらない景色を歩いていると、だんだんと意識がボーとしてくる。
ユウジは視界がぼんやりして、いま見ているのが夢なのか現実なのかもわからなくなっていた。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
「ん……?なんだあれ」
ゆえに、後ろから聞こえた音に、ユウジはしばし理解が追いつかなかった。
「あれ?走ってんじゃん機関車」
スバルが振り返って声を上げたことで、ユウジはそれが現実だと知る。
後ろから走ってきたのは、蒸気を撒き散らかす黒光りの機関車だった。段々とこちらへ迫り、点が像になっていく。
「あれ……?おかしいな列車は止まってるはず」
鈴音は首を傾げる。そして、すぐハッとする。
「ちょっ!あの列車こっちに向かってきてますって!みなさんはやく線路の上からどいてください!」
朦朧とした意識から素早く覚醒した鈴音は、気つけに、みなに冷気を注ぎ込む。
ひゃっと声を上げて、覚醒する他3人。
「あわわわ、右行きます?左行きます?」
ランパは動揺して線路の上でウロウロしていたので、ユウジが彼女の腕を引っ張り、左へやる。
線路からどいたところで、スバルがそうだ、と提案する。
「なあお前ら!いまからくる列車に飛び乗っちまわねえか?」
「ええっ?そんな走ってくる列車に?無理ですよ」
ユウジは、無茶を止めようとするが、スバルは熱く語る。
「ユウジが線路上にミント生み出して緩衝材にすることで、列車のスピードを殺すんだ。どうだ?いい考えだろ?ついでに鈴音が車輪凍らせてもいいな」
「ええ……うーん鈴音さん、このまま歩いてエンベコピーに行くとしたら何日かかりそう?」
「3〜4日かな」
「長え長え!列車に乗れば一瞬だぜ!?」
そうこう言ってるうちに列車が近くに迫ってきた。ユウジはため息をついて、仕方なくミントを生み出し始める。
一瞬にして、荒野に緑が萌ゆ。線路の上には巨大なミントのクッションが完成した。
「あれ?ユウジさんミント作るの早くなってないですか?」
ランパの指摘通り、いままでよりユウジは格段にはやくミントを発生させており、さらにその増殖スピードも上がっていた。
「クラーケン倒してレベル上がったのかな?ミント能力が進化してる」
風とともに、列車の頭が勢いよくミントのクッションに突っ込む。根が車輪に絡まったのか、若干スピードが遅くなった気がした。
「いまだ!とびのれ!」
スバルと掛け声とともに、4人は列車に飛び乗った。
「………なんかおかしくないですか?」
ランパは寒気がして、腕をさすさすと撫でた。
「あん?そうかぁ?偶然客がいない日なんだろ」
スバルは気にせず、広々とした対面座席に腰をかける。
ユウジたちは、客室号車に乗り込んだ。しかし、客室にはひとっこひとりいなかったのだ。
「ううん、もしかしたら臨時とか振り替え輸送とか……なにか理由があって運行してる列車なのかもしれませんね」
鈴音は少し不思議に思いつつも、スバルの横に座った。
「気にしすぎですかね……」
「大丈夫だって、おいユウジ、ランパのこと抱っこして座ってやれ」
「はい」
ユウジはランパのことを持ち上げる。ランパは、うー、と唸りながらも抵抗せずに持ち上げられた。手に温もりが伝わって、少しほっこりするユウジ。
ランパは、小さくチョコンとユウジのうえに座った。縫製店で作ってもらったロリータ服のおかげで、本物の人形のようだった。
可愛らしかったので、ユウジがその頭を撫でると、いつになく気が抜けたように、ランパは目を細めた。
スバルは、頬杖をつきながら車窓を見た。
「やっぱ乗りもんははえーな、列車ならどんくらいで着くんだ?」
「1日もしないんじゃないでしょうか」
そのとき、カツカツカツ。
隣の車両のほうから、足音が聞こえた。
「車掌が切符切りにきたか?」
「無賃乗車になっちゃいますね非常識なことをしてしまいました…」
「お金払えばキセルにはならないんじゃないかな」
ぎい、と客室号車の扉が開く。
現れたのは、車掌服を着た、ガイコツだった。
「…………」
口をぱくぱくするランパ。いつもおしゃべりなスバルも黙ってしまった。
ガイコツには、カタカタと音を立てながら、首を振るう。目玉もないのに、列車の中を点検してるようだった。
白色というより、茶色がかった骨の色。動く死体は、ひとつひとつ席を覗き込み、ユウジたちの座る座席に近づいてくる。
「…………!」
ガイコツが、足を止める。吸い込まれるような眼窩が、ユウジとランパを覗き込む。
「ゴユックリ……オスゴシクダサイ……」
歯をカタカタ鳴らして、ガイコツは喋った。
「え、あ、はい……」
ユウジはとりあえず返事をしておいた。
ガイコツは、そのまま何もせず、カツカツと歩をすすめ、客室号車から出て行った。
「……………」
静まりかえる一同。
どうやらユウジたちは幽霊列車に乗ったようだった。
「で、でも」
雰囲気を明るくしようと、ユウジが口を開く。
「キセルにならなくてよかったですね」
「……………」
誰も反応するものはいなかった。全員、暗い表情で黙っている。
ユウジたちを乗せた幽霊列車は、その後なんのイベントもないまま、普通にエンベコピーにたどり着いた。
優しい車掌さんでよかったものである。




