第41話 スタンドバイミー
クラーケン戦後、二日酔いで潰れた鈴音が回復するのを待ってから、ユウジ一行は宝籠省を旅立った。
立ち上る蒸気を背に、一同は道を歩く。
「ずいぶん長居しちゃいましたね」
「そうだなーなんだかんだ居心地よかったなあそこ」
「正気ですか?」
スバルの言葉に耳を疑うランパ。スバルはにしし、と笑った。
足を怪我していたスバルだが、連日のリハビリにより、苦もなく歩けるようになっていた。
ユウジは肩をかそうかと提案したが、お前には無理だろと無下に断られた。
鈴音は地図とにらめっこをしていた。
「うーんこの先のルートですが陸路だとかなり時間かかりますね」
「マジかよ」
「あそこに線路が見えますけど鉄道走ってるんじゃないですか?」
ランパが指差した方向には、陽炎でぼやけた地平があった。ユウジにはその先に線路があるか確認できるほどの視力はなかった。
「見えないけど……獣人のランパが言うならそうなんだろうね。鈴音さん、地図には路線って書いてある?」
鈴音は申し訳なさそうに言った。
「実は宝籠省が運営する蒸気機関車が走ってはいたんです。でも……私たちがクラーケンを倒したことであの街、しばらく蒸気システムが停まることが決定したじゃないですか……」
「あー」
ユウジは現場に赴いてはいなかったので、実際目にはしていないのだが、クラーケンのいた建物には、国内最大の蒸気機関があったと聞いていた。
もし、あれがボヤで機能を停止すれば、街が大変なことになるのは、自明の理だった。
「国中の蒸気技師の方々がそちらの方に呼び出されていまして、いまは蒸気機関車を運行することができない状態らしいです」
「んだよ傍迷惑だな」「非常識なひとたちがいたものですね」
スバルとランパは憤慨した。
鈴音は提案する。
「でも、あの線路に沿って歩いて行くのはアリかも……?鉄道の線路だから最短ルートで次の国に着けるのかもしれないです」
「あー線路の上歩いてても機関車来ないしいいかも」
ユウジはその提案に賛成した。
そうして一同は、まずは線路を目指して歩き出した。先頭はランパである。
「えーこのくらい歩いたらみなさんでももう線路見えてきませんか?」
「まだ無理かなぁランパちゃんすごいね」
「あー私は見えてきたぜ」
「スバルさんの嘘つき」
25分ほど歩いたところで、ようやく線路に辿り着く。ユウジは線路の上に座り込んだ。
「疲れました……」
「おいおい、いまスタート地点に着いたんだぜ?」
元気いっぱいのスバルは、汗ひとつかいてなかった。
「ちょっと休ませてください……」
「お水どうぞ」
ユウジは、鈴音に渡された瓶の水に口をつける直前、一瞬躊躇する。まさか酒ではあるまいな、と。匂いを嗅ぐと無臭だったので、ようやく口に含む。
「ふぅ〜ありがとう鈴音さん。そういえば、いま向かってる獣人国家エンベコピーにも、魔王四天王がいるんだよね。鈴音さんは、どんなひとなのか知ってる?」
鈴音は首を振る。
「実はクラーケンさん以上に正体不明なんですよね、なんでも『一度死んだことがある』とのことですけど」
「なんだそりゃアンデッド系の魔物か?」
「どうでしょうね……『悪鬼』と呼ばれてはいますけど……。そういえばランパちゃんはエンベコピーには行ったことある?」
獣人国家エンベコピーには、多くの獣人が住まう。しかし、ランパはその国の出身ではないという。
「うーん話には聞いたことがありますが、ずっと商品として奴隷商に連れ回されていたので、行ったことはないですね」
「あ、ああそうだよね……ごめんなさい」
獣人の奴隷を獣人国家に売りに行くなど、喧嘩を売りにいくようなものである。
「あれ?もし僕がランパを連れ回してたら、獣人を奴隷にしてるとか思われてやばいかな」
「そこは仲間です!って強く主張してくれたら嬉しいです」
ランパは頭の耳をパタパタさせた。
休憩ののち、再びユウジたちは歩き出す。今度は線路のレールの上を。
決められたレールの上を歩くというのは、ゴールがたしかにあるという安心感を与えてくれるので、精神的に少し良いとユウジは思った。
「私は自分の親の顔を知らないんです。捨てられたのか、死別して売られたのか」
ランパは線路に敷かれた砂利を蹴る。
「もしかしたら、エンベコピーに私のルーツがあるかもしれないって……ちょっとだけ期待してます」
ランパは俯いていて、表情を誰にも見せなかった。




