第33話 パノプティコンinミストタウン②
武装集団は、店内の客を集めた。客たちは刃物や鈍器に怯えて、従わざるをえなかった。
「全員で22人だな!」
バールを持った男が店内の客を数え終わる。そして、リーダーらしき、、ひときわ大柄な男に伝える。
「うむ」
大男は、自身は何も武器を持っていなかった。深々とフードを被っており、素顔は伺いしれない。ポッケに手をつっこんで、ただ部下に指示を出すだけだった。
ランパは逆に武装集団の数をかぞえる。全部で7人。彼らは7人で店内の客22人を抑えようとしているのだ。
ランパはその見積りの甘さに呆れた。自分のように、多少なりとも戦える者がいたらどうするつもりだったのか、と。
しかし、店内の客は親子連れや老人などであり、戦えそうな者はいなかった。このような客層になる時間を事前に調べて決行したのかもしれない、と思い直す。
ランパ、獣の爪を密かにとぐ。
獣人である彼女の爪は、最速で切り裂けば、丸太すらも一撃で両断する。
隙さえ見つければ、この程度の人数、なんてことがなかった。
だが、リーダーの大男はなにかを警戒しているようで、部下たちに決して武器を下ろさせない。
常に臨戦体制を整えさせていた。
ここで、大男が口を開く。
「我々サンズの目的は、住民への機械化手術の強制を、国にやめさせることだ」
「……………」
店内の客たちは、黙って男の話を聞いていた。威圧感があり、目を逸らせば危害を加えられるのではないかという恐怖があったのだ。
「この国はおかしい。技術のために、住民の身体のほうを犠牲にしているのだ。明らかな人権侵害である」
宝籠省は、蒸気機関の技術を発展させるために、住民たちへの機械化手術を強制した。蒸気の国では、住民たちは機械化手術無しに生存できないという理由だった。
大国はこの横暴を見逃さず、戦争を仕掛けたが、宝籠省の戦力はすさまじく、大国を退けて、独立に至った。
この国に残った住民は、機械化手術を受けざるをえなかったのだ。
「嘆かわしい。さいきんの民は、生身の肉体の素晴らしさを見失っている。機械化手術を進める方がよいとすら思っている者もいる。洗脳教育の賜物だ。しかしこれは断じて間違っている。我々は貴君らを解放する」
ランパはお国事情に巻き込まれてしまったことに、嫌な顔をした。
自分は関係ないから、見逃してもらえないものだろうか。
「この国に反旗を翻した者たちは、過去にもいた。しかしそのすべてが鎮圧された。なぜかわかるか」
大男はあたりを見渡す。答える者はいなかった。
「『ビッグファーザー』に、すぐさま粛清されるからだ」
ランパは首を傾げる。ビッグファーザーとはなんだろうか。この国トップのことだろうか。
武装集団のひとりが、窓の外を指差して、叫び声をあげる。
「来たぞ!!!」
窓の外は蒸気の煙で、なにも見えなかった。いったいなにが来たというのか。ランパは目を凝らすと、なにか黒い物体がぼんやり浮き上がってるのに気づく。
その瞬間、バリン!!!と窓が弾けた。
『ナニカ』が、店内に入り込んだ。
男は狂乱して武器を振り上げる。客たちは悲鳴をあげる。
「来るなぁ!!!」
そう叫んだ男の頭が、吹き飛んだ。
ビシャア!血飛沫が壁に飛び散る。そして数秒後、首無し死体が、ドボン、と血溜まりに倒れる。
呆然とする客たちに対して、大男は冷静だった。まるでこうなることはわかっていたかのように。
「民たちよ。目を逸らすな。これがこの国の現実だ。逆らう者はみな、『ビッグファーザー』に殺される」
ランパは冷や汗を垂らす。武装集団の男を吹き飛ばしたものの、その正体に。
「タ、タコの……足……?」
彼女たちの目の前には、ウニョウニョと蠢く、一本の吸盤のついた足が、血を滴らせていた。
「さぁ、ヤろうかビッグファーザーよ」
大男が、ポケットから毛むくじゃらの手を出した。
街中で胸部を露出したスバルは、人々の反応を見て、顔を赤らめた。
「んだよ……あんま見んじゃねぇ」
自分から服を脱ぎ捨てたものの、そろそろ胸を隠したかった。
生肌を包む、生ぬるい蒸気が気持ち悪い。はやく服を着たい。
「おっ?」
スバルは、足首に何かが張り付く感触を感じとる。
まるで、吸盤が張り付いているような、不思議な感覚。
蒸気で足元が見れないが、たしかになにかが足首に触れている。
「なんだ……よ!っと!」
スバルは剣を抜き、思っいっきり、足元のなにかを突き刺した。
刺した感触は、かなり弾力のあるものであり、軟体のなまものを想像させた。
「うぉおっ!?」
その瞬間、足が急に引っ張られ、その反動で地面に叩きつけられるスバル。受け身が取れず、かなりの衝撃が襲うが、剣から手は離さなかった。
そして、落ち着く間もなく、さらに足が引っ張られる。
スバルの体を地面に擦り付けられながら、霧の中へ、彼女を引き摺り込んだ。
「いってぇ〜!!!くそっ……なんだよこれ!」
足掻こうとするも、スバルを引き摺る速度は、何の抵抗も許さない。
彼女はあっという間に街から姿を消した。




