第32話 ダンサー
ユウジは、壁一面の時計の針の音に、頭がおかしくなりそうだったので、早々にミント能力を使って、時計の針を止めることにした。
ミントを時計の文字盤に生やし、それによって針の動きを止める。
時間のかかりそうなことだったが、あいにく何分かかるのかはわからない。
時計だらけなのに正確な時間がわからかいとは、皮肉な話だった。
少しずつミントを増やしていくが、気が遠くなるので、定期的に休憩した。
ユウジは頭の中で勘定をする。
かつて王都の城をミントで破壊した時は、1週間くらいかかったと記憶している。
だとすると、この部屋一面をミントだらけにするのにかかるのは、1日くらいかかるだろうか。
しかし問題が、この部屋は密室で、通気口すら見つからない密室であることだ。
密室全体をミントで満たしたとして、その先がない。
王城のように、建物全体にミントの根を張り巡らせて、建造物ごと破壊して脱出する手段が、今回は使えないのだ。
ユウジは、どこまで続くかわからない、高い高い天井を仰ぐ。気が遠くなる思いだった。
「ラン、ラン、ラン、ラン……」
暗闇の中、空からオルゴール式の時計が奏でる、讃美歌のような音楽が降り注いできた。
いつしか意識は暗闇へと落ち……。
ユウジは夢の中で踊っていた。
讃美歌とともに降りてきた天使、と優雅に踊る。
くるくる、くるくる。やったこともないステップがいとも簡単にできる。
からだが光に包まれていくと同時に恍惚感が高まる。
(ああ、もうずっとこのままでいたい)
そんなところへ、女神が現れた。
「こんにちは、ユウジさん。お久しぶりですね。旅は順調ですか?」
(ああ、いつぞやの女神様ではないですか)
飛び回る天使達をビシバシとはたき落としながら降臨したのは、ユウジを異世界へ転生させた女神であった。
誰もが見惚れる美貌の、綺麗な瞳で、女神はユウジを見下げた。
「ふむ……確認しに来てよかったです。いまのあなたはまだ覚醒段階には至っていないようですね、このまま野垂れ死んでくれることをのぞみます」
ユウジは天使を抱きかかえて、くるりと回った。
(酷い言いようですね。僕は世界を救う勇者なのでしょう?)
「踊るのをやめなさい。街を滅ぼし、王城を破壊し、さらには魔王四天王のひとりを仲間に加えて旅をするとは何事ですか」
(成り行きですよすべて。それよりずっと確認したいことがあったんですけど、僕が魔王を倒したら、どんな褒美があるんですか?)
ユウジは、ピョン、床をはねて着地した。バレェ風のダンスである。
女神は、いつまでも踊るのをやめないユウジに呆れ果て、そのまま背を向けて消えていった。
「ほんとに厚かましい……」
(…………)
ユウジは、女神が去ったあともしばらく踊り続けていた。
スバルは交番から出て街を歩きながら考えていた。
犯罪をすれば、どこかへ消える。どういう意味だろうか、と。
しかし考えても埒があかない。これ以上情報が見つかるとは思わなかった。
「だったらやることはひとつしかねぇわな……」
スバルは覚悟を決めた。
自ら犯罪を犯して、自分がどこに消えるのかを確かめるしかない。
喧騒のあるほうへ歩いていく。なるべくたくさん人がいた方がいい。
スバルは、人通りの多い道へ出ると、剣に手をかけた。
そしてスバルは……。
右手で剣を掴んだまま、左手で思いっきりシャツを引っ張り、上半身の服を破り捨てた。
「見ろーーーー!!!」
蒸気機関のシュポシュポとした音の中をも、はっきり聞こえるように、大声で叫ぶスバル。
街の人々の目線がスバルに集まる。
数々の視線が、その胸部に集まる。
子供はスケボーから降り、紳士は歩をとめ、婦人は口をおおった。
露わになった、たわわに揺れる乳房。むん、とその胸張りながら、スバルは腰に手を当てた。
「だいたいどこの国も……裸は捕まるだろ!」
ところで、一応スバルは元・王族のお嬢様である。
余談ではあるのだが。




