第26話 いざ、魔王のもとへ
「私が当代雪女、魔王四天王新入りの鈴音と申します」
鈴音は綺麗な蝶があしらわれた和装で現れた。さきほどとうってかわって上品さが伝わってくる。
「今回はどのようなご用件でしょうか」
尋ねられて、ユウジは困る。討伐する感じでもなくなったため、もはや用事などなかったのだ。
ひとまず母上様への説明と同じようなものをすると、鈴音は頷いた。
「なるほど、あなたは転生者なのですね。魔王様から数十年に一度そのような者が現れるとは聞いたことがございます。討伐の方はどうなさいますか?」
「いやぁ……どうしましょうかね先代四天王のブリザードのように悪さをするわけではないのでしょう?」
「ブリザード様は少々気性の荒い方でしたから、ご迷惑をおかけしていたのだと思います。代わってお詫びします」
「いえいえ僕たちはこの間来たばかりなので直接面識はなくて……」
気づけば日が落ちていた。
母上様が囲炉裏に鍋を用意する。
「せっかくですからお夕飯食べていってください。ぼたん鍋をご馳走しますよ」
ぐつぐつと煮える鍋。その匂いに、スバルが反応する。
「うおっと、寝過ぎたわ。あっ鈴音さん?はじめまして」
「こんにちは、スバルさん」
ぼたん鍋は美味しかったが、すこし臭みがあった。そこでユウジはミントを添える。
「うーんでも下処理とかの段階で使った方が良さそうだな」
母上様は珍しそうにミントを見る。
「これはいい臭み消しになりそうですね」
「ええ、そうだいくつかあげますので、ぜひ育ててみてください」
ユウジはミントの種子を分け与えた。
一方、鈴音はそのミントを見て思いつく。
「これ、お酒とかに使えないでしょうか。スッキリした面白い味わいになりそうです」
ユウジはそれを言われて思い出す。そういえばミントリキュールというものを聞いたことがあった。
「鈴音さんお酒お好きなんですか?」
「嗜む程度には……」
鈴音はギャル時代、ずいぶん酒を楽しんでいた。
「鈴音、お仕事の方はどうなの?」
食後、母上様は皿を洗いながらたずねる。鈴音は爪を見ながら答える。
「うん、ブリザード様がほとんどの魔物居住地の天候を吹雪で固定してたから、私がやることはあんまりなさそうだった。せっかく地元に帰ってきたけど……」
「あらあら。じゃあまた出ていくの?」
「うーんしばらくゆっくりしたら、それもいいかもなって。魔王様のところに、報告して、別の任務与えてもらおうかな」
「多少の管理なら私だけでもできるしねぇ。いいんじゃないかしら」
ユウジは親子の会話に反応する。
「え。あの鈴音さん魔王のところに行くご予定が?」
「はいそうですね、近いうちにそうしようかと」
スバルは歯に挟まった肉に、口をモゴモゴさせていたのをやめて、提案する。
「ユウジ、鈴音さんに連れてってもらうのはどうだ?」
「僕もそれ思いました。あの、鈴音さんもしよろしかったらですけど、魔王様のところに行く時、ご一緒してもよろしいですか?」
鈴音は少し考える。ユウジたちの目的は、魔王の討伐。連れて行って良いものなのだろうか、と。
だが、すぐに結論が出る。
「……魔王様の強さを考えれば、あなたたちを連れていったところで、討伐が成功するとは思えません。もし、着いてきたければご自由にどうぞ」
「いいんですか、よかった〜」
鈴音は申し訳なさそうに言ったが、ユウジは喜んでいた。
この日、ユウジ達は鈴音の実家にひと晩泊まったのだった。
そして、それから2週間ほど。
この国の魔物の平定を終えた鈴音は、旅の準備をはじめた。
「鈴音、ちょっと来なさい?」
「はぁい?」
母上に呼ばれ、寝室に行くと、そこには一着の服があった。
それは、丈の短い、ミニスカート風の和服であった。
「あなたが好きそうなのに、仕立てておいたよ」
「おかあさん……大好き!」
こうして、ユウジたち一行は、鈴音の導きで和の国、マクアショーを出発するのだった。




