第二十五章 初めてのマヨヒガ 3.マヨヒガの外構え【間取り図あり】
~Side 優樹~
目の前のマヨヒガは、以前に出くわした「迷い家」と違って、土蔵とか納屋とかは付いてなかった。少し離れた場所に小屋みたいなのがあるけど……あれは便所かな?
そのマヨヒガに向けて歩き出した時、最初に目に付いたのは門柱だった。塀も垣根も何もないところに門柱だけが建ってて、ここから先がマヨヒガの敷地内である事を宣言している。……どこかで見たなぁ、こんな神社。まぁ、中に建ってるのは神社じゃなくって、草葺き屋根の小屋なんだけど。
門柱自体は花崗岩の石柱で、ぼくらの背丈より少し低いくらいのが左右に一本ずつ。ただ、これって……
「……ねぇ真凜ちゃん、この門柱って、鳥居みたいだよ?」
「え!? ……これが鳥居の成れの果て!?」
〝成れの果て〟――って言い方はどうかと思うけど……
「うん。何となく雰囲気におぼえがあるし、鑑定してみたら『石神』ってなってるし」
「『石神』って……あたしたち、ここに入っていいの?」
「……柏手くらい打たなきゃダメかもね」
どうしたもんかと眺めていたら、左手に見えたのが――
「ねぇ優樹、アレってあの時の案山子よね?」
「うん、そうみたいだね」
門の内側のすぐ左手に何かの苗木みたいなのが幾つか植わってて、その番をするみたいに案山子が立てられていた。……その案山子と目が合ったかと思うと……案山子が親しげに手を振ってきた。
思わずぼくたちも手を振り返したんだけど……そうしたら……案山子はいつの間にか二本の足で立っていて、ごく自然な感じで手招きをした。
怖い感じも嫌な感じもしなかったから、ぼくたちは招きに応じるように門をくぐった。あ、通りすがりに門柱に手を添えて、心の中で〝門番、お疲れさま〟――って念じたら、門柱に触れている手から何となく温かい感じが返ってきた。ふと横を見たら、真凜も同じような事をしてたみたいだ。
こうしてマヨヒガの敷地内に足を踏み入れたぼくたちは、案山子さん――何となくだけど、呼び捨てにはできない気がした――の案内でマヨヒガの〝外構え〟を見せてもらった。
門柱を越してすぐ左手にあったのが、称明寺の墓地跡から連れてきた道祖神。道祖神は村の入口とかに祀られて、悪いものが入って来ないように村を守ってるんだって真凜は言ってたけど……この道祖神は門柱と一緒にマヨヒガを守ってくれてるんだろうなぁ。ありがたいので手を合わせて拝んでおくと、やっぱり何となく温かな感じが返ってきた。真凜も神妙に拝んでたね。
縁側の前に置かれてた沓脱ぎ石――あれって廃村から持って来たやつだよね――を横目で見ながら、案山子さんの後について行く。案内されたのは苗木の畑、彼の今の職場みたいだ。植わっている苗木はよく見ると、
「……ブドウ、ビワ、モモ……これは夏ミカンと……こっちはサクランボかな?」
「――! 優樹、それって……」
「うん、ぼくらが種として取り込んだ果物だね。……せいぜい三ヶ月しか経ってないのに、もうこんなに大きくなってるんだ……」
どれもぼくらの胸の高さくらいあるからね。〝桃栗三年柿八年〟――って言うけど、これはさすがに速いんじゃないかなぁ……
「スイカとかメロンは見当たらないわね?」
「あれは一年生の草だし、今から植えたら時期外れだからじゃない?」
「そっか……残念」
「それに、植えるにしてもここだと木の陰になって、日当たりが良くないだろうし」
「あぁ、それもそうね」
でも、これだけ成長が速いんなら、秋にはクリとかクヌギとかを植えてやれば、来年の夏にはカブトムシとかクワガタムシとか……あぁでも、スズメバチとか来たらまずいかな? ……ちょっと考えよう。
苗木を育ててくれている事にお礼を言って、ぼくたちはマヨヒガを横目に見ながら家の裏手にまわった。マヨヒガは南向きに建ってるから、方角としては北西方向になる。そこでぼくたちが出会ったのは――
「お地蔵様……」
「こんなとこにいたんだ……」
柔和な笑みをたたえたお地蔵様だった。その足もとにはきれいな砂がしかれてるけど、あれって……
「……ねぇ優樹、あの砂って……」
「うん、化砂坊主の砂みたいだね」
怡原村の件の後、小学校の裏手で回収した小さな砂の塊。その砂がお地蔵様の足もとに、従者のように控えてくれている。
「マヨヒガを守る後衛陣――ってところかしらね」
「入口には門柱と道祖神、南西には案山子さんがいて、南東には竹藪があったよね」
あの竹藪は多分、竹姫様の竹なんだろうな。生きた竹を回収したのはあそこだけだし。
ただ……
「でもさ真凛ちゃん、なんで北西側? こういうのって、鬼門を守るのが定番じゃないの?」
鬼門と言えば艮の方角、つまり北東だよね?
「あぁ、それは陰陽道が入ってからの知識に基づいたもので、比較的新しい習俗みたいよ? 古くは北西側……乾の方角に屋敷神を祀る事もあったらしいわ。農耕において、北西の風は不吉なものだと見なされてたみたいね」
「へぇ……そうなんだ」
さすがに真凛は歴女だけあって、この手の話にはくわしいね。ぼくは正直、この方面はあまり得意じゃないから、助かるな。
お地蔵様と砂にあいさつしてから裏手をまわる。母屋と離れた場所にある便所を横目に見て南へ進むと、竹藪の傍に井戸があった。屋根付きの釣瓶井戸ってやつだ。滑車を使って水を汲むタイプだね。
「……この竹も、竹姫様の筍が育ったものなのよね……?」
「うん、そうみたい」
何となくだけど、この竹からもやっぱり好意のようなものを感じるし。
「……あたしたちって思っていた以上に、たくさんの神様に守られてたみたいね……」
「だね。感謝を忘れないようにしないといけないよね」




