第二十三章 ぼくらが蓑掛山に行った時の事~金霊~ 2.帰り道の拾いもの
~No-Side~
興奮冷めやらぬ様子の真凛に配慮したのか、結局優樹父子は――昼食を挟んで――昼過ぎまで真凛の城跡巡りに付き合い、中腹の広葉樹林での昆虫採集に向かった頃には、既に午後三時を回っていた。
我に返って甚く恐縮する真凛であったが、ここ蓑掛山には既に何度も訪れている事もあって、優樹たちも鷹揚な態度でそれを許していた。
「ぼくらも普段目にする事がない城跡を見る事ができて、それなりに勉強になったから」
――と、いうのが優樹の言い分である。
互いに苦手科目を教え合うよう担任から言われている現状に鑑みれば、優樹の言っている事も間違いではない。
城跡のある蓑掛山の山頂部は、史跡として地元有志が管理しているのだが、基本ナチュラリストである鳥遊父子はチラリとも認識していなかった。彼らの関心は林内の昆虫にあるのであって、それ以外のものは全部引っ括めて単なるノイズ扱いでしかない。
――だから、優樹がその時それに気が付いたのは、ひょっとしたらスキルのせいであったのかもしれない。
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~Side 真凛~
一人で舞い上がってはしゃいだ挙げ句、優樹たちの昆虫採集の時間を奪ってしまった事でジコケンオにひたっていたんだけど、優樹は気にするなと言ってくれた。以前にも何度か来ていて、そこまで目新しい場所じゃないからって。けど……失敗には違いないんだから、そこはきちんと反省しないといけないわよね。
だけど……やっとの事で思う存分見る事ができた蓑掛城の感動が後を引いて、反省の気持ちが薄まってしまうのよね……
そんな微妙な気分で、下の駐車場まで歩いて降りていた時……つぃと優樹が道の脇に寄ったかと思うと、水路をのぞき込むようにして何かを探し始めた。
……多分【鑑定】スキルで何かの反応を捉えたんだと思うけど、あまり不用意なまねをすると、小父様に不審に思われるわよ? ……まぁ、小父様がスマホで誰かと話してるのを見ての行動なんだろうけど。
(「……優樹、何か見つけたの?」)
(「あ、うん。……これ」)
そう言って優樹が差し出したものは……古銭!?
「寛永通宝!? そんなものが落ちてたの!?」
思わず大声を上げたせいで、小父様にまで気付かれたみたいだけど……でも! それもしかたがないわよね!? だって――城跡のある山で古銭が出てきたのよ!? これはもう埋蔵金とか軍用金とかの話に決まってるわよね!?
「落ち着いてよ真凜ちゃん。戦国時代の城跡に、寛永通宝なんかあるわけないじゃない」
「あ……」
優樹に冷静に突っ込まれた事で、あたしの熱も少し冷めた。
蓑掛城が廃城になったのはいつなのか。正確なところは憶えてないど……確か、織豊時代だったと思う。寛永通宝が初めて造られたのは文字どおり寛永年間、要するに江戸時代に入ってからだから、これが蓑掛城の軍用金とか埋蔵金という説は成り立たない。
と、いう事は……
「江戸時代に入ってから持ち込まれたもの――っていう事よね?」
「単なる落としものかもしれないけどね。道の脇にあったんだし。……真凛ちゃん、この道って江戸時代にもあったの?」
「えぇと……この道は確か……峠越えの街道として、ずっと前から使われていたはずよ。あたしたちは途中から分かれ道に入って山頂に登って行ったけど、あのまままっすぐ進んだら峠に出たはずだわ」
「だったら、江戸時代にもそれなりの通行人はいたんじゃないかな。そんな旅人が落としたものとかも、あり得ない話じゃないんじゃない?」
むぅ……そう言われると……
「いや、ちょっと待ちなさい優樹。道の脇に剥き出しであったというなら、江戸時代に置かれたものとは考えにくいだろう。そこまで古いものなら、とっくに土砂に埋もれている筈だよ?」
……小父様の言い分ももっともね。確か寛永通宝は、明治に入ってからも通用したはずだし、その頃の落としものなのかもしれないわね。
「確か寛永通宝には幾つものバリエーションがあって、それぞれいつ頃のものかが判る筈だ。帰ったら調べてみるといいね」
小父様のアドバイスを受けて、優樹は後で調べてみるつもりになったらしい。とりあえずはその報告待ちね。




