第二十三章 ぼくらが蓑掛山に行った時の事~金霊~ 1.蓑掛城跡地
お久しぶりのマヨヒガです。今回は少し長めの七話構成です。
~Side 優樹~
「今日はよろしくお願いします!」
「あぁ、そんなに緊張しなくていいよ。楽にしてくれていいからね?」
「はいっ!」
いつもと違って緊張しがちの、それでいてバリバリに前のめりな真凜があいさつしてるのは、ぼくのお父さんだ。とは言っても、真凜がお父さんのファンだとかそういうんじゃなくって、
「蓑掛山の城跡には、前から行ってみたかったんです!」
――これだ。
蓑掛山っていうのは生月市の外れにある山で、ぼくたち――主にぼくとお父さんだけど――がよく行く場所なんだよね。中腹の林でカブトとかクワガタとかとれるし、他にも色々な虫がとれるから。
その蓑掛山の山頂にお城の跡があるっていうのは知ってたし、山頂には何回か登った事もあるんだけど、あまり興味がないからよく見もしなかった。石垣も天守閣もなかったしね。
けど、歴女の真凜は違ったみたいで、谷戸杜でキャンプした時にその話をしたら――ものすごい勢いで食い付いてきたんだよね。前々から行ってみたかったんだけど、機会がなくって行けなかったらしい。
だから――九月下旬の三連休に日帰りで蓑掛山に行くのに誘ったら、すぐにOKが返ってきた。……〝二つ返事で〟――って言うんだっけ。
それで、運転手兼引率係のお父さんや、真凜のご両親とも相談して、三連休の真ん中の日曜日に、日帰りで行くって話にまとまったんだ。これだと前後の土曜日と月曜日――秋分の日――は、お父さんも休めるしね。
ちなみに昨日の土曜日は、ぼくと真凜はばんば山の偵察に行ってきた。あそこで白骨死体を見つけてからこっち、警察が見張ってたらまずいからっていうんで、採石場に行くのをひかえてたからね。久しぶりに行ってみたら、野次馬も警察の見張りとかもいないようだったし、これからは前と同じようにトレーニング――って、真凜とも話してたんだよね。
……で、真凜がしんぼうしきれないみたいだし、蓑掛山は先に山頂の城跡というのに行ってみようって事になったんだけど……
・・・・・・・・
「うわぁ……」
真凜はすごく感動してるみたいだけど、ぼくとお父さんは……正直な話、真凜がそこまで感動する理由がわからなかった。――だって、石垣もお城も残ってない、ただのデコボコした原っぱだよ? 歩きやすいようにヤブとかが払ってあるのは、地元の有志さんとかが管理してるせいみたいだけど。
「あのね優樹、戦国時代のこういう山城だと、石垣なんてのは造られない事が多いのよ」
「そうなの?」
お城と言えば石垣と天守閣だと思ってたけど……
「あのねぇ……こんな狭い山頂に、そんな大がかりな城なんて造れるわけがないでしょう? そもそも天守閣を備えた山城なんて、それこそ数えるほどしかないわよ」
「あ、そうなんだ」
「大多数の山城は……そうねぇ、優樹の感覚で言うと『砦』に近いものだと思うわよ。自然の地形を活かして敵軍の接近を阻み、寡兵をもって寄せ手を翻弄するのが、山城の醍醐味よ」
「へぇ……」
いつになく熱が入って饒舌な真凛に、ぼくは相槌を打つしかできなかった。お父さんも黙ってうなずいてるだけだしね。
「そうやって敵軍を分断して叩くための工夫が、この竪堀や横堀、堀切、そして土塁なわけ。そして、突入しようとする敵の勢いを削いで足止めし、集中攻撃を加えて殲滅する工夫が、ここにあるような虎口なのよ!」
……熱弁を振るう真凛には悪いけど、ちょっと訊いておきたい事ができたんだけどな、ぼく。
「……真凛ちゃん、この……少し低めになってるのって、通路じゃないの?」
てっきり通路が途中で埋まってるんだと思ってたんだけど……
「違うわよ。これは竪堀。敵兵の横移動を防ぐための工夫よ」
「……お堀って、水が張ってあったの?」
「違うってば。優樹の言うのは水堀でしょう? これは空堀。水は最初から入ってないわよ」
「「へぇ……」」
……うん、お父さんも知らなかったんだ。父子で声が揃っちゃったね。
「地形とかも考えると、この蓑掛城はコンパクトにまとめられているけど、中々考えられた造りになっているみたいね」
……そうなの?
「えぇ。恐らくだけど……郭の配置とか昔の街道の位置とかを考えると、敵の主力が攻めて来るのは東側だと想定していたはず。そこでここには大規模な郭を置いて迎撃に当たり、万一東の郭が敵の手に落ちても、主郭に立て籠もって対抗するつもりだったんでしょうね。そうやって寄せ手に出血をしいている間に、北の虎口から出撃した別働隊が、敵主力の背後をつく……そういう防衛構想になっていたはずよ」
「「へぇぇ……」」
地形と城跡だけ見てそこまで読み取れるのか――って、ぼくとお父さんは感心してたんだけど、
「……なんてね♪ 実は夕べのうちにネットとかで調べてきたの」
……ぼくらの感動を返せ――って言いたくなるけど……要はそこまで楽しみだったんだろうからね。まぁいいか。




