第二章 少しだけ変わったぼくたちの日常 3.真凜の特訓計画(その1)
先にお断りしておきますが、番号違いとか話を飛ばしたとかではありません。「マヨヒガの秘密(その2)」はもう少し後の御目見得になります。……いや、先に話を作ってから副題を付けたら、こうするのが一番据わりが良かったもので。
~Side 真凜~
「そんなわけないでしょ!」
まったく……保有魔力の最大値が増えてるなんて……一体どういう事なのよ。あたしの魔力量はちっとも変わっていないのに。
「どうして優樹だけなのよ?」
「多分だけど、マヨヒガのせいじゃないかな。マヨヒガを建てるのに、ぼくの魔力を使うって書いてあったから」
ラノベあるあるの展開よね。けど……何もしなくても魔力強化のトレーニングができるだなんて……
「いくら最大値が増えたって、増えた分だけマヨヒガに吸われちゃってるわけだし。実際問題としては何一つ変わってないよ?」
魔法を使えるようになったあたしの方がすごい――って、優樹は言うんだけど……実際問題って言うなら、あたしだって進展がないのは同じ。ううん、あたしの方がもっと分が悪いかもしれない。
「……魔法を使えるようになるには、魔力を増やさないとダメなのに、魔力を増やす方法がない……って、詰んでるじゃないのよ」
「ラノベだと魔力があるのを感じとって、それを思うように動かすところから始めるんだっけ? 真凛ちゃんもそうしたら?」
したり顔の優樹を見てると、何か腹が立ってくるわね……
「あたしだってそれは考えたわよ。一応、試してはみたのよ。魔力操作」
「あ、やってみたんだ? ……それで?」
「何かこう……魔力っぽいものは感じ取れたのよ。……一時間ぐらいかかったけど。ただ、まだ魔力を自在に動かすとかはできないのよね」
「えーと……つまり?」
「魔力を使い切って魔力量を増やすという、ラノベ定番の方法が使えないの!」
まったく……これじゃサギじゃない。
「むー……ゲームとかだと、スクロールを使えばすぐに魔法が使えたのに」
「……ゲームと現実をいっしょにしたらダメじゃないかな?」
今のあたしたちの現実の方が、よっぽどゲームっぽいじゃないのよ。
「状況はゲームというかラノベっぽいけど、障害はムダにリアルなんだね。何かあったよね、そんなマンガ」
「これはマンガじゃなくって現実なのよ? わかってる? 優樹」
「うーん……けどさ、やっぱりあきらめるには早いんじゃない? ラノベとかでも、特訓を始めてから二週間後に、やっと魔力を動かして手ごたえを感じたってあったよ?」
「……それって、主人公が赤ん坊に転生する話じゃなかった?」
いくら何でも、赤ん坊よりはマシなはず……よね?
「だとしても、もう少しがんばってみるのは必要じゃないかな?」
「……わかってるわよ……」
……ちょっと弱音を吐いてみたくなっただけよ。何しろ魔力を動かせたとしても、その後が問題なのよ。
「……仮に魔力を動かせたとしても、どこで練習するかというのが問題なのよね……」
「あ、真凜ちゃんも気付いたんだ、それ」
「あら? 優樹も気付いてたの?」
「うん。ぼくの【マヨヒガ】は練習できるようなスキルじゃないっぽいけど、真凜ちゃんの魔法は練習が必要じゃない? そこまで考えて、だったらどこで練習するんだろう――っていうのが気になった」
へぇ……自分の事だけじゃなくて、ちゃんとあたしの事まで考えてるのは感心ね。ちょっと見直してあげる。
「真凜ちゃんの話を聞いてると、最初のうちは家の中で訓練――って事になるよね? だったら、安全な【ライト】の魔法とかがいいんじゃない? ラノベでもそんな話になってたし」
弱い光をずーっと灯し続けるってやつよね? 確かに名案ではあるんだけど、一つだけ問題があるのよね……
「問題は、あたしには【ライト】の魔法が使えそうにない――って事なのよ」
「……魔力が足りないとかじゃなくて?」
「それ以前に、ラインナップに含まれてないの」
「……真凜ちゃんの使える魔法って、どんなのがあるの?」
う~ん……ステータス画面には、【魔道・天】【魔道・地】【魔道・人】ってあるんだけど……
「まず、【魔道・天】は中身の確認ができないの。多分、あたしの魔力とかレベルが足りないせいで、まだ解放されてないんだと思う」
ラノベとかゲームとかだと、時々見る設定よね。その分だけ強力なんじゃないかと期待してるんだけど。
「【魔道・地】はいわゆる属性魔法みたい。いまのところ、木・火・土・風・水の五属性魔法が表示されてる」
「あ……木・火・土・金・水の五行じゃないんだ」
「そう。多分、金属性は土属性に含まれてるんだと思う。代わりに風属性が追加されてる」
「四属性だと地・水・火・風ってなるもんね。両方を統合した感じなのかな」
「そうみたいね。ただ、五属性は解放されてるけど、まだ魔法が使えないのは、さっき言ったとおり」
「ふ~ん……で、最後の【魔道・人】っていうのは?」
「今のところは、治癒魔法の【手当】っていうのが使えるみたい。ラノベ定番の【ヒール】よね」
「あれ? 【ヒール】ってそっちに含まれてるんだ?」
「ラノベとかだと【聖魔法】に含まれてたり、それぞれの属性ごとに別個の【ヒール】があったりするもんね」
「【光魔法】と【闇魔法】はないのかぁ……」