第十九章 ぼくらが先生に呼び出された日の事 2.ぼくたちの密談
~Side 真凜~
遠藤先生からの呼び出しは、あたしたちがお互いに苦手教科を教えあってはどうかという提案だった。まぁ、先生からしてみれば、無理もない話よね。
――って言うか……
「優樹……先生の心の声って?」
「わかんないけど、あの場面ではああ言った方が面白そうだったから」
「はぁ……あんたって、本当に良い性格してるわ」
「うん、人格者だとは自覚してるよ」
ほめてるわけじゃないんだけど……まぁ、それはそれとして、
「優樹、あなた歴史が苦手なの?」
「うん……分析も予測もなく、ただ丸暗記するしかない教科って、どうしても興味が持てなくて」
はぁ……理屈が通じないところこそが、歴史の妙ってやつじゃないの。ロマンってものがわかってないのかしら。
「ロマンかなぁ……?」
「それだけじゃなくって、昔から〝愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ〟――って言うじゃない。それだけ重要だって事よ」
「過去の人間の失敗の記録なんて、ぼくたち庶民が、しかも個人で生きていく上で、何の役に立つっていうのさ?」
「だ・か・らぁ……現実の利益ばかり気にして生きていくなんて、人生のうるおいってものがないじゃない。〝人はパンのみにて生くるものに非ず〟なのよ」
「〝生きていくためには先ずパンを〟――っていうのも正しい判断だと思うけど? それとも、〝パンがなければケーキを食べろ〟――とでも言うつもり?」
――そういうのじゃないってば!
「理科だと実際に観察したり実験したりできるけど、社会科、特に歴史ってそういうのがないじゃない? 再現実験とかで実証的に確認できない事って、どうしても鵜呑みにできなくて」
典型的な理系っ子ねぇ……
「歴史なんて、教科書に書いてある内容がコロコロ変わるじゃない?」
「あら、権力者の言う歴史が信用できないなんて、当たり前じゃない。――って言うか、歴史は疑ってかかる学問よ? ただ、疑うためにも基礎知識は必要なのよ」
「(業が)深いなぁ……」
「ええ、(奥が)深いのよ」
優樹はブツブツ言ってたけど、一緒に勉強する事には同意した。あたしの顔を潰すような点はとらないでよね?
そう言ったら、今度は優樹が反撃してきた。……えぇそうよ。あたしは理科が得意じゃないわよ。
「理詰めで考えるのって、ちょっと苦手なのよ……」
「真凜ちゃん、論理的思考は必要だよ?」
優樹ってば、この時とばかりに言いつのってきたわね。
「女の子は勘でいいの! 〝考えるな! 感じるんだ!〟――って格言もあったし」
「格言かなぁ……」
……でもまぁ、優樹だけに苦行を強要するっていうのもアレだから、あたしもできるだけの努力はしてみるけど。
「理科って苦行なんだ……」
「〝水兵リーベ僕の船〟だとか〝水金地火木土天海冥〟だとか……あたしには呪文と変わらないわよ」
「〝鳴くよウグイス平安京〟も大して変わらないと思うけど……それより真凜ちゃん、さっき言った二つは、どっちも小学校の授業には出てこないと思うよ?」
「親戚のお姉さんに聞いたのよ。理科に出てくるのは変わらないでしょ」
「う~ん……とりあえず、授業ではそこまでややこしい内容は出てこないと思うから」
……まぁ、学校で相談する口実ができたのはありがたいけどね。優樹とあたしは生活班も別々だし、学校内では相談しにくかったんだけど、これで少しは状況が改善されるかしらね。
これにて今年の更新は終了です。大変ご迷惑をおかけいたしましたが、来年も宜しくお付き合い下さい。




