第十八章 消えた七不思議 3.取材~市役所~
~Side 優樹~
楠先生に紹介されたのは、市役所に勤める棗さんという男の人だった。先生の大学時代の先輩なんだそうだ。文学部の民俗学教室出身だっていうから、七不思議とか怪異とかの話を聞くには打ってつけの相手だよね。
「なるほど……『消えた七不思議の謎』というわけか……」
……テレビの特番みたいなタイトルだね。割とノリのいい人なんだろうか。
「謎解きというか……とりあえず基本的な情報が知りたいと思って、お邪魔したんですけど……」
「七不思議の基礎情報と言われてもねぇ……」
棗さんという人は首をかしげてるけど……まぁ、わからなくもないよね。小学校の七不思議の基礎情報……なんて、普通は市役所じゃあつかわない。それはぼくにもわかってる。
「……市でも民俗資料の収集と保存は行なっているが、妖怪とか七不思議とかにまでは手を着けていない。寧ろ、君たちの活動に期待したいくらいなんだ」
……え?
「……ぼくらの?」
「あぁ、小学校から君らの発表について連絡が来てる。……知らなかったのかい?」
「あ……そう言えば……」
「そんな事を言ってたような……」
ぼくらの自由研究を市役所とかに送っていいか――って、先生から訊かれたっけ。別に問題はないと思ったから、はいと答えておいたんだけど……そうか、ここにも伝わってたのか。てっきり水害の方だと思ってたよ。
「市政だよりで紹介できないかと話していてね。あ、名前を出すのが憚られると言うなら、そこは仮名にしておくけど?」
「市政だより……」
「どうしよう……優樹?」
「え、え~と……一応仮名でお願いできますか?」
「諒解した。鳥楽君は前にも経験があったんだったね?」
「えぇ、まぁ、一応……」
真凛が変な目でこっちを眺めてるけど……町内の毒草とかを調べた時、市役所にポスターとして貼り出されたんだよね。その時にも仮名にしてもらったから、今度も仮名でいいと思うんだけど。
……だめだ。真凛の視線がますます厳しくなってきてる。何とか話題を変えないと。
「そ、それで基礎情報の話なんですけど――」
「あ、うん。何か腹案があるのかな?」
「腹案というか……小学校ができる前の状態とかはわかりませんか? それか、建設当時の状況とか」
「なるほど……建設前後の状況か……」
ちょっと待っていてくれと言って、棗さんは奥へと引っ込んだ。言われたとおりにおとなしく待ってると、
「……待たせたね。これは昔の地図を複写したものなんだけど……」
棗さんが見せてくれた古地図では、今現川小学校がある辺りには、荒れ地のマークが記してあった。場所的には田んぼがあってもおかしくないんだけど……それより……
「……お墓のマークはないわよね」
「そうだね」
「墓?」
不審そうな棗さんに、ぼくたちは楠先生の仮説を説明した。
「楠君はそんな事を言っていたのか……」
「あ、別にこの場所がってわけじゃなくて、小学校の一般的なうわさ話としてですけど」
「この地図で見た限りでは、墓地があったとは思えないが……」
ちゃんとしたお墓じゃなくて、戦死者なんかを埋めただけかもしれないからなぁ。昔はきちんとしたお墓は少なくて、郊外に死体を投げ捨ててたって話だし。鳥辺野とか化野がそうだったっけ。こういうのは真凛の方が詳しいだろうな。後で聞いてみよっと。
それはともかく、記録に残ってない死体捨て場だった可能性はあるわけだ。
「もしもですけど……ここが古いお墓とか死体の捨て場だったとしたら、小学校の造成時に遺骨が出てきたはずですよね? そういう記録はありませんか?」
そう訊いたら、棗さんは鼻を鳴らして考え込んじゃった。
「……現川小学校が建てられたのは戦後だが、建設が決定されたのは終戦から間も無い頃の筈だ。それ以前の記録となると……」
棗さんはまた席を外して、あちこちに訊きまわってたみたいだけど、
「……市役所の文書管理課に訊いてみたが、そういう資料の所在は把握していないそうだ。図書館のレファレンスにも電話してみたが、やはり答は否定的だった。古過ぎて、所在どころか存在しているかどうかも定かでないようだね」
これはダメかと思ってたら、
「ただね、本当に大量の骨が出たんなら、供養とかいう話になったんじゃないかと思うんだ」
「供養……ですか」
「あぁ。称明寺の和尚さんとは知り合いだから、私の方から連絡を入れておくよ。君たちも機会があったら訊きに行ってみるといい。役に立つ話をしてくれると思うよ」




