第十七章 ぼくらが原っぱへ行った時の事 2.転職した案山子
~Side 優樹~
「――優樹ってば!?」
真凜が何か言ってるけど……ちょっと待って。今は手早く作業を進めないと……よし!
「……取り込んじゃったの? 案山子」
そりゃあね。目の前にこんなウィンドウが出て来たんだもん。
《対象物の品質は以下の通りです。
【案山子】 品質:上 貢献度:大
マヨヒガに取り込みますか? はい/いいえ》
何たって〝貢献度:大〟だよ? 大! 見過ごせるわけがないよ!
普段のぼくなら即行で取り込むところなんだけど、今回はちょっと、所有権とかも考えなきゃいけなかったしね。
けど、元・田んぼから引き抜かれて、結構長い間放って置かれてるみたいだったし。取り込んじゃっても問題ないかなって思って。
そうなると、次に気にするべきなのは人目だよね。誰かが来ないうちに素早く取り込む必要があったし。真凜への返答が遅れたのは、悪いと思ってるけど。
「……え? 『素材』でも『外部素材』でも『外構え』でもないの? お地蔵様やお札と一緒なのかしら? でも……マヨヒガには田んぼもないのに、案山子なんか取り込んでどうするのよ? ……いえ待って……案山子があれば田んぼを作れるのかしら……?」
うん、真凜も混乱してるね。けど……
「……案山子って、元々は『久延毘古』って神様の事だっていう話もあるのよね。歩けないけど天下の事を何でも知っている神様なんだって。……だったら、マヨヒガにお迎えしてもおかしくないのかしら……」
お迎えした事自体は反対しないみたいだね。
ことわざにも〝終わり良ければすべて良し〟って言うし、〝これにて一件落着〟――だよね。
・・・・・・・・
そのまま道なりに進んで来たら、道路が不自然にカーブしている場所に出た。どう見てもただの原っぱだし、遠まわりする理由が見当たらないんだけど……
「……多分、ここね。〝道路を造る時に、塞の原を避けて通した〟――って、お祖父ちゃんが言ってたし」
「祟りか何かあったのかな? 工事の人が事故死したとか」
「さぁ……けど、お祖父ちゃんがしつこく言ってたわね。〝原っぱの中に足を踏み入れるな、入っても浅いところまでにしろ〟――って」
……やっぱり、祟りか何かあるのかなぁ……。けど――
「素材として草を回収するなら、目に見える場所で採るわけにはいかないよ? 少しくらいは中に入らないと」
思ってたより草丈が高いから、ちょっと分け入っただけで、ぼくたちの姿を隠してくれるだろうけど。
「素材としては使えそうなの?」
「うん、上等」
《対象物の品質は以下の通りです。
【草】 品質:中 貢献度:中
マヨヒガの素材として取り込みますか? はい/いいえ》
「だったらさっさと取り込みましょう。あたしは見張ってるわ」
「え~と……自転車もあるし、真凜ちゃんは外にいるんだよね?」
「そのつもりだけど?」
……うん……自転車が二台あって子供が一人しかいないのが、どう見えるか。……ぼくが草むらで用を足しに行った――って風に見えるよね。
……少し思うところはあるけど……まぁいいか。
草むらに入って適当に草を取り込んでいく。上等の素材が採り放題なのに浮かれて、少し奥まで踏み込んじゃったけど……
「優樹!」
……あれ?
「真凜ちゃん、どうしたのさ? 見張りは?」
「はぁ? 何言ってるのよ、あなたが呼んだんじゃない」
「ぼく?」
……そんな憶えはないけど……
「……まぁいいわ。もう充分な量を確保できたでしょうし、そろそろ引き上げましょう」
「……そうだね」
何となく嫌な予感がしたから、二人で引き上げようとしたんだけど……
「……優樹……出口はどっち……?」
「え? 真凜ちゃんが来た方でしょ?」
「……わからないのよ、それが……」
「え? 草の踏み跡とかは?」
「――ないのよ!」
「えぇっ!?」
慌てて周りを見まわしたんだけど……一面の草の海で、どっちに何があるのかさえ見えなかった。……それどころか、ぼくが取り込んだために草がなくなっていたはずの場所も、どこにも見当たらなかった……
「……ゆ、優樹……」
「『塞の原』って……こういう意味かぁ……」
確か「塞」っていう字には、道を遮るとか断ち切るとかいう意味があった。……踏み込んだ者を迷わせて、目指す方向に進めなくするのか……
「……ど……どうする? どうしたらいいの?」
「落ち着いてよ真凜ちゃん。魔法で方向とかわからないの?」
「あ……そ、そうね。やってみる」
真凜は探知系の魔法を使ったみたいだけど、何かが邪魔をしてるらしくって、方向をつかむ事ができなかった。
「……ど、どうしよう……」
「……待って! 真凜ちゃん! あそこ!」
「え? あ、人がいる!」
――農家のおじさんらしい人影が、こっちに向かって手を振っていた。
「……どうする?」
「……ここにいても仕方がないんだし……行ってみよう」
「そ、そうよね。……人間相手なら魔法も通じるだろうし……」
内心で少しビクビクしながら、その人影が案内してくれる方向に進んだんだけど……
「――出れた!」
無事に原っぱの外に出る事ができた。
そして……道案内してくれたはずの人は、影も形もなかった。
「……ねぇ優樹……さっきの『人』だけど……」
「うん……服装が『案山子』にそっくりだったよね。さっき取り込んだ」
「……やっぱりそうよね……」
……これって、そういう事なんだろうか?
田んぼを見守っていた案山子……案山子様が、今度はぼくたちを見守ってくれるって事なのかな?
今回で夏休み篇は終了。次回からは第三部、二学期の話になります。




